MF-TOKYOの歩き方

【特集】欧米の金型・成形技術動向4.欧州金型部品メーカーの動向

ユーロテクノ(株)中道浩貴

 工作機械はイギリスに端を発し、ドイツやスイスなど欧州各国で発展を遂げた。欧州の工作機械は日本の製造業に影響を及ぼしているが、日本の工作機械や金型部品産業が成熟した現在では、多くの日本製工作機械が欧州で稼働するまでになった。とはいっても、欧州の工作機械や金型は、日本とは異なる設計思想で開発されており、今も市場で強さを発揮し日本に新しい価値を提供している。

 欧州の工作機械についてはさまざまな執筆者が注目し最新記事を目にするが、金型部品はどうだろう?筆者は欧州金型部品メーカーの代理店の一人として、欧州金型に目を向けてきた。本稿では、そこで見えてきた欧州の状況をお伝えしたい。

分散化する市場

 欧州諸国はEU として貨幣までも統一したが、マーケットとしては一つに統一しきれておらず、細分化している。そのため金型で、圧倒的に欧州マーケットを制しているメーカーはないのが現状である。

 しかし、どの業界においても値段で攻めるメーカー、高付加価値で攻めるメーカーとそれぞれの戦略があり、独自性を打ち出すことで市場での認知度向上を狙っている。

 日本市場で圧倒的シェアを誇るミスミグループは、従業員数約11,240 人(連結・2018 年3 月31 日時点)、売上高3,129 億円(連結・2018 年3 月期)の規模を誇る。一方、欧州の市場ではやや事情が異なる。大手の金型部品メーカーであるMeusburger(オーストリア)の売上高は291 億ユーロ(378 億円、2017 年12 月時点)程度、社員は1,550 人程度である。欧州ではこの規模の金型部品メーカーが非常に多い。

 日本での金型部品市場は大手金型部品メーカーによる寡占化が進み、中小金型部品メーカーはオーダーメイド部品やニッチ市場で強みをもつ部品を提供し市場のニーズに対応している。一方欧州は、多数の中規模金型部品メーカーの傘下にまた中小のメーカーがあるといった具合である。ミスミグループのような大手メーカーがいないから日本の方が進んでいると認識するのは誤っている。多様なメーカーが点在して自分の市場を守りつつ、ほかのメーカーの真似ではない独自性を発揮しており、欧州の金型部品市場の成熟を示していると言える。

図1 欧州市場におけるプレーヤー

図2 ローラーベアリングの種類

図3 Agathonのボールガイドと互換性のあるローラーガイド

図4 Intercomの「ロール・ボール・ケージ」

図5 Fibroが扱うアイセルの「ミリオンガイド」

付加価値製品の市場が広がる欧州

 ここ数年、日本ではリーマン・ショック後のような雰囲気が払拭され景気が上向いてきたことで、価値のあるものが見直され高価格帯のものが売れる時代となった。だが、欧州は一貫して価値があり、かつ高価なものをつくり続けてきた。欧州の金型部品メーカーには、日本にはないような製品があって非常におもしろい。紹介したい製品はいくつもあるが、今回はガイド製品を紹介する。

 ガイド製品は各メーカーの技術力の差が非常に出やすい。焼入れなどの熱処理技術、ベアリングを摺動させるための高い面粗さのほか、ベアリングに数μmの予圧を与えるため高い寸法精度が求められる。そして金型の中では構造体であり、位置決め部品としての機能も併せもつ。

 欧州ではAgathon(スイス)、Steinel(ドイツ)、Fibro(ドイツ)、Strack(ドイツ)、Intercom(イタリア)、Meusburger の6 メーカーがほぼ金型市場の中心となっている。図1 に欧州市場のプレーヤーを示す。

 特にローラーガイドはメーカーの独自性が出ている。図2 にローラーベアリングの種類を示す。

 欧州メーカーは、ほとんどのメーカーがプロファイルローラーという鼓型のベアリングを用いたローラーを提供している。

 スイスのAgathon には、「アガトンローラー」という自社デザインのベアリングがある。特徴はボールガイドとの互換性をもち、ガイドの予圧レンジ(ベアリングのつぶし量)がボールガイドと同じになっている点である。つまり設計の変更もなく、ボールガイドからローラーガイドに移行することが可能である(図3)。ガイド全体を交換せずに済む分、設計変更コストが安く済む。また、ラジアル方向に回転しない不回転ガイドとなっており、取付けプレートのXY 方向の挙動を抑制する。

 イタリアのIntercom には、「ロール・ボール・ケージ」と呼ぶ、1 つのリテーナにローラーとボールを配置したリテーナがある(図4)。ローラーガイドがボールリテーナの数倍という価格が多い中、Intercomの製品は「コストは抑えたい、でも剛性も確保したい」というユーザーに訴求している。

 金型において偏荷重は局所的にかかることが多い。そのためローラーは偏荷重がかかりやすい端部に配置している。そして偏荷重があまりかからない個所はボールにしている。どちらかといえばニッチな需要を捉えた製品だが、こういう製品こそ欧州企業がつくってくる。

ミリオンガイドの欧州市場への展開

 ドイツのFibro は、日本のアイセルが販売する「ミリオンガイド」(図5)を扱っている。ミリオンガイドとは、多角形ガイドポストに多角形ガイドブッシュ、ニードルローラーベアリングで構成されるガイドである。ベアリングとしての接触面積が多いことから剛性があり、高速プレス加工にも向いている。

 国内ではミスミなどの金型部品メーカーにOEM供給しているので目にする機会も多い。欧州→日本という製品の流れが多かったが、日本→欧州と展開している数少ない金型部品ではないかと思う。

ミスミは欧州市場へ米国ブランドを投入

 ミスミは2012 年に北米最大の金型部品メーカーであるDayton Progress Corporation を2 億ドルで買収した。ミスミは、米国ではミスミブランド製品の生産を2015 年より開始しているが、欧州には「DAYTON」ブランドにて展開している。

 Dayton Progress にはグループにDayton Laminaという子会社があり「LEMPCO」というブランド名のガイド部品がある。ガイドポストに縦に溝が入っており、この溝にリテーナ内側の突起部を当てると縦溝内で突起部がつかえになり、ガイドがラジアル方向に回転するのを防ぐ形になっている。ボールガイドでいながら不回転ガイドとしてあるのは珍しい。

欧州金型部品は日本の金型の役に立つか

 欧州の金型部品の中には、「何これ?」と思うような不思議な形状の製品が散見されるが、そんな製品ほど素晴らしいパフォーマンスを発揮することが多い。見ただけでは見つけられないようなノウハウが欧州の部品にはこめられており、これは実際に使ってみて初めてわかる。なかには役に立たない部品も存在するが、目を凝らして見ると違いもわかってくる。

 そこでいいモノとよくないモノを見分ける選別眼が磨かれる。欧州の金型部品を使ってみることで技術者として成長し、日本企業の競争力の向上に役立ててもらいたいと思う。

 金型部品はなかなか新製品が出ないと思われがちだが、実際には頻繁に新製品が登場している。当社はこれからも、こうした新しい部品の紹介を通じて、日本の金型産業の強化に貢献していきたい。



【特集】欧米の金型・成形技術動向

型技術

【出典】型技術 2019年3月号

型技術とは・・・わが国唯一の金型総合技術誌。1986年の創刊以来、自動車、電機、電子分野の金型を中心に、金型の設計・構造をはじめ材料、工作機械、工具、CAD/CAM/CAEに至る広範な情報をタイムリーに提供。(毎月16日発売)

https://pub.nikkan.co.jp/book/b10022783.html

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