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100社緊急アンケート/TPP、中小経営者「評価する」8割−事業の恩恵は見通せず

(2015/12/9 05:00)

  • 主役の中小企業が環境変化を好機ととらえられるか(写真はイメージ)

  • TPP交渉の結果について

  • 政府の中小向け施策(TPP関連)強化について

日刊工業新聞社は、政府の環太平洋連携協定(TPP)関連政策大綱がまとまったのを受け、中堅・中小企業経営者に緊急アンケートを実施、100人から回答を得た。交渉の合意内容について全体の8割以上が「評価する」と歓迎する一方、経営への恩恵を期待する見方は約半数にとどまり事業への影響が見通せないでいる現状が浮き彫りになった。「TPP効果はこれまで海外展開に踏み切れなかった地方の中堅・中小企業にこそ幅広く及ぶ」と考える政府は、海外展開支援を強化する構えだが、事業上の利点を具体的に示すとともに丁寧な政策対応が求められる。(編集委員・神崎明子)

2015年10月に大筋合意したTPPは、中小企業が積極的な海外展開を決断し、従来以上に“攻めの経営”に転換できる可能性を秘めている。関税撤廃だけでなく投資ルールの明確化や知的財産の保護、通関手続きの迅速化など見込まれる効果は多岐にわたる。アンケートではこれら項目のうち、自社の事業に影響すると思われる項目を複数回答の形でたずねた。調査は11月下旬から12月上旬に実施した。

「通関手続きの迅速化」(51社)、「工業製品の関税撤廃」(51社)への期待が大きく、サプライチェーンの拡大につながる「原産地規則の完全累積制度の実現」(24社)、「政府調達市場の開放」(16社)、「投資・サービスの自由化」(13社)がこれに続いた。「グローバルサプライチェーンがどう変化するか注視している」という小泉製麻の小泉康史社長は「輸送方法や資材に商機あり」と話す。東京光電子工業の坂田良明社長は「実際の運用が始まらないと分からない点も多いが、輸出障壁が軽減されることを期待している」。

一方、政府は経済連携協定になじみのない事業者や貿易実務に不慣れな企業を支えるため、全国規模で支援体制を強化する方針だ。だが現時点では、相談窓口が設置されることについて4割が「ほとんど知らない」と回答。周知はこれからといえる。

三進木材の岩瀬俊寛社長は「行政機関の担当者に海外事情に精通した人材が少なく、結局は自社で対応することが多かった」と支援側の人材育成の必要性を指摘する。

とりわけ経営資源が限られる中小企業にTPP活用を促すには、経営者との日常的な接点の深い金融機関や産業支援機関がTPPの内容を正しく理解した上で、支援先の成長戦略につなげる視点も欠かせない。

中小、8億人の巨大市場攻略へ−「踏み出す糸口」はどこに

TPPは今後の事業拡大の追い風となるらしい。でも何から始めればよいのか―。今回の緊急アンケートで浮き彫りになったのは、人口減で縮む国内市場や疲弊する地域経済に直面する経営者の前に、世界の国内総生産(GDP)の4割、人口8億人を擁する巨大経済圏が突如広がるものの、踏み出す糸口をイメージできない様子だ。「新・輸出大国」の実現を掲げる政府は、「TPPの主役は中小企業」と旗を振るが、事業意欲に応えるものではなければメッセージは響かない。

■イメージできず

「TPP加盟国としての市場優位性と革新的な技術で日本の活力を取り戻したい」(コネクテックジャパンの平田勝則社長)、「日本が世界経済の中で発展していくには必要な施策。今後さらに研究していきたい」(ユニパックの松江昭彦社長)。政府の期待通りの前向きな受け止めがある一方、「大手企業が受けた恩恵を間接的に享受する程度」といった懐疑的な声も根強い。TPPが自社の事業にどう結びつくのかイメージできるだけの十分な情報が伝わっていないことが背景のひとつといえそうだ。TPPの効果は事業形態や生産体制によって各社各様、さまざまな形で発揮されるだけに政府は「TPPを先取りした企業事例の発信に力を入れる」(経済産業省)方針だ。

  • TPPが自社にもたらす影響

  • 海外展開で求める施策

■幅広い関税優遇

とりわけ部品製造など独自技術を発揮する中小企業に幅広い効果が見込まれるのが、海外生産拠点を増やさなくてもサプライチェーンを飛躍的に拡大できる点だ。生産工程が複数国にまたがっても、TPP参加12カ国で作られた物品なら「メード・イン・TPP」とみなされ関税優遇を受けられる。「日本にいながらにしての海外展開」(政府)が可能になることについては歓迎する声が多かった。ウチノの内野恵司社長は「ここ数年、製品の現地生産化が進められたが、TPPで国内回帰が進めば当社のような中小企業は対応しやすくなる」と話す。一方で別の経営者からは「ベトナムなど裾野産業が育っていない国では労働集約型の産業だけ残ってしまうのでは」と指摘する。

■農家の「意欲」懸念/戸惑いも…好機と捉える姿勢期待

安い海外産の輸入増で打撃を受ける恐れのある農林水産品について政府は、保護策を講じ影響を緩和する方針を示している。また農林水産分野の競争力強化策については、2016年秋をめどに詳細を詰める方針だ。アンケートでは農林分野で日本の競争力発揮を期待する声も聞かれた。

アルク農業サービス合同会社の永井洋介代表社員は「日本の農作物は海外での評価が高い。農産物のブランド化に加え、農機具など技術やサービス分野でも(事業拡大が)期待できる」、田代珈琲の田代和弘社長は「農作物の自由化は外食産業に恩恵がある」と展望する。

一方で、国内産の原材料が欠かせない和菓子製造業からは「海外からの原料の輸入が増えることで、国内農家が生産意欲をなくすことが心配」(藤宮製菓の佐藤高広社長)と声が上がっている。

  • TPP合意で事業に影響する項目

  • 自社の海外展開の現状

■ルールの明確化

TPPによって投資ルールの明確化や知的財産の保護が図られることで安心して海外展開できる―。政府はこう強調する。とはいえ、事業リスクが相対的に大手企業より大きい中小企業にとって、本当に公正な競争環境が整備されるのか不安は尽きない。

「先進企業の知的財産権を侵害して安く製品を供給する企業に対して監視と罰則を適用する国際的な体制を整備しなければ本当にフェアな競争環境は生まれない」。こう指摘するのはナイトライド・セミコンダクターの村本宜彦社長。「進出国で係争になった場合、自社では対応できないのではないか」といった声もある。

■発効まで準備を

TPP政策大綱がまとまったことを受け、政府内では大綱に基づく対策の予算化の動きが本格化している。TPPの発効には参加12カ国が協定に署名し、議会の批准など国内手続きを終える必要がある。実際には2年近くかかるとみられるが、発効に備え、政府は中小企業の声に耳を傾け対策に万全を期すと同時に、経営者側も環境変化を好機と捉える姿勢が期待される。

【アンケート協力企業(順不同)】

栄通信工業、宮崎太陽農園、ウチノ、共立精機、三新電業社、フルヤ工業、野村製作所、シンセメック、東亜潜水機、空調企業、東京光電子工業、天馬、アルク農業サービス合同会社、ホンマ・マシナリー、グローバルハート、東北工芸製作所、キクデンインターナショナル、マコー、サンシン、福山鋳造、テクノスジャパン、三喜鋲螺、第一施設工業、柿木花火工業、ナイトライド・セミコンダクター、シージーケー、タケダ機械、池永セメント工業所、デンケン、タカキ製作所、スプリングの佐竹、ざびえる本舗、アガワ・ハイテックソリューションズ、豊田ダイカスト、東邦エンジニアリング、シンエイ、うきは果樹の村やまんどん合同会社、オーファ、南武、帝国技研、トリム、伊藤公治商店、北海林産、数矢製材、豊田木材、森林商事、水啓木材、丸十商店、美濃佐商店、三進木材、ストラパック、田代珈琲、サッポロライオン、オリオン機械、コネクテックジャパン、ミズノマシナリー、特殊金属エクセル、霧島酒造、江崎工業、岩田鉄工所、ハガタ屋、アンリツインフィビス、ケィティーエル、菊水電子工業、大阪フォーミング、日立ニコトランスミッション、藤宮製菓、吉野電化工業、サイサン、坂元醸造、高橋酒造、九一庵食品協業組合、シンエイメタルテック、エイム、伊藤製作所、碌々産業、シェリエ、ユニパック、アソー、ラボコスタ、小泉製麻、アールシーソリューション、ワイエス、イリソ電子工業、アール・ティー・シー、西島、インセクトシールドジャパン、三社電機製作所、ラピド セブン ジャパン、イマダ、ヤマハチケミカル、稀産金属、スプラッシュトップ、大和産業、櫻製作所、朝日ラバー、サトーホールディングス、伊藤鋳造鉄工所(他に匿名希望2社)

(2015/12/9 05:00)

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