[ その他 ]
(2015/12/9 05:00)
『大宇宙は数限りないニュートリノを住まわせるが、大宇宙の中でニュートリノが果たしている役割はその片鱗(へんりん)さへ分かっていない』―。物理学者の戸塚洋二さんが書き残した、有名な言葉である▼2008年に66歳の若さで世を去った戸塚さんの科学への探求心は、最期まで衰えなかった。我々が生存する宇宙はなお多くの謎に包まれている。戸塚さんは後進の研究者にその解明の希望を託した▼今年も10日にノーベル賞の授賞式がある。物理学賞を受賞する東京大学教授の梶田隆章さんは、亡き恩師の偉大さをかみしめつつ式に臨むだろう。ニュートリノ研究のバトンは、確かに次代に受け継がれ、花開いた▼地上ではテロをはじめ悲惨な事件が絶えず、毎日のように罪なき人々の命が失われている。しかし、ひとたび壮大な宇宙に思いをはせれば、人の世の争いごととは何とつまらないことかと誰もが気づくのではなかろうか▼10日は国連の「世界人権デー」でもある。アルフレッド・ノーベルは遺言で、賞を授与するにあたっては「候補者の国籍は考慮せず、最もふさわしい人物に贈る」とした。“国境なき科学”のもたらす叡智(えいち)が人の心の闇を照らし、寛容と和解をもたらすことを祈りたい。
(2015/12/9 05:00)