[ オピニオン ]
(2016/5/3 05:00)
7月に予定される参議院選挙の大きなテーマが憲法改正である。衆議院に続き、参議院でも与党が3分の2以上を占めれば、国会による改憲の発議が現実味を帯びる。野党の中にも改憲を求める声があり、情勢は予断を許さない。
産業界には、改憲に対する明確な主張がない。それは意見がまとまらないからではない。そもそも「何を目的とした改憲か」が分からない状態では、賛否いずれも判断できないと多くの経営者は考える。
一方で、憲法は変えないのがベストだという「護憲」の主張は、経営者からは極めて保守的で不自由な状態にみえる。かつて、衆参両院で多数党が異なる”ねじれ国会“の下で政府が十分に機能しなかったことを「憲法の欠陥が招いた想定外の事態」と批判した財界人は少なくなかった。欠陥があるなら正すべきだと考えるのは当然である。単純な「護憲」は産業界の支持を得られない。
憲法の施行から69年間。不都合な部分の改憲を国民に問うどころか、国会で発議を議論したことすらない歴史は、やはり現行憲法が内在している問題だ。極めて要件の厳しい現在の手続きを改め、改憲が可能な状況を生み出すことは、産業界の理解を得られると信じる。
ただ、それは平和主義の放棄や再軍備に直結しない。産業界は平和と安定が繁栄をもたらすことを熟知し、その継続を願っている。安倍政権に対する産業界の支持は強固だが、平和を守るために憲法の規定する「非武装と交戦権の放棄」の厳守が望ましいか、それとも安倍晋三首相が提唱する「積極的平和主義」へのシフトを強めるべきかは意見が分かれるだろう。
古来、多くの戦争は平和と防衛の名のもとに始まった。戦争を憎む戦後の日本人が、平和のよりどころとしてきたのが憲法9条である。これを改めるとすれば、より広範で本質的な議論が必要だ。その機がすでに熟したとは考えにくい。
首相が追い求めるものは何なのか。憲法記念日を機に、国民に明示してもらいたい。
(2016/5/3 05:00)