[ オピニオン ]
(2016/5/31 05:00)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、X線天文衛星「ひとみ」の運用を4月末に断念した。1カ月を経て、きょう文部科学省で開催する科学技術・学術審議会の小委員会で、この失敗の要因分析の妥当性と今後の対策を議論する。日本の宇宙開発の信頼性を損なった問題だけに、再発防止に向けた万全の対策を望む。
「ひとみ」はブラックホールの観測など、従来の宇宙望遠鏡でカバーできない分野を狙った日本主導の大型国際プロジェクト。JAXAと米航空宇宙局(NASA)を中心に、多数の大手企業と国内外の大学などが参画し、日本側の負担だけでも310億円にのぼる。
2月17日にH2Aロケットで種子島宇宙センターから打ち上げ、正常に軌道に投入。すべての観測機器を展開し、初期機能を確認中の3月26日に、地上と通信できなくなっていることが分かった。
小委員会の初会合でJAXAが提出した報告書などによれば、軌道上の「ひとみ」は自己の姿勢を誤って判断し、回転しはじめた。この回転を止めようとして自律的に姿勢制御装置を噴射したものの、事前に設定したプログラムのパラメーターに不適切な数値が入力されていた。このため逆に想定していた以上の回転運動が生じてしまい、電力供給に必要な太陽電池パドルが破断・分離した可能性が高いという。
科学技術の成功の裏には、多くの失敗がある。先人はそれらの失敗をバネに改良や工夫を重ね、現在の豊かな社会の構築に貢献してきた。思いがけない事故の原因を究明し、将来のリスクに備えられなければ次の段階に進めない。
海外からも大きな期待を寄せられた「ひとみ」の失敗の原因に、人為的なミスがあったというJAXAの報告書は残念でならない。何より重要なのは、外部の専門家を交えた小委員会で正確な原因を特定することだ。そこから導き出される対策が、日本の宇宙開発の今後を左右する。しっかりした検証をお願いしたい。
(2016/5/31 05:00)