[ オピニオン ]
(2016/5/2 05:00)
地方自治体の多くが、外国人観光客の誘致に力を入れはじめた。地方経済の活性化の近道と見なされているのは分かるが、同時に中小企業の支援の底上げを忘れてほしくない。
少子・高齢化の中で、東京への一極集中が鮮明になっている。安倍晋三政権は「地方創生」や「一億総活躍社会」を目指しているが、その恩恵は地方経済や中小企業には十分に及んでいない。目玉になるはずだった政府機関の地方移転も、文化庁の京都市移転程度で幕を引きそうだ。
唯一、大きく変わったのが観光である。2015年度の訪日外国人は2135万人と、早くも政府目標の2000万人を突破。政府は20年までの新たな目標を4000万人に設定した。この流れを受け、多くの自治体が観光に力を入れはじめている。大阪市の吉村洋文市長は年頭に「観光産業は大阪の基幹産業になる」と訓示した。
唯一、大きく変わったのが観光である。政府は、2020年の訪日外国人数2000万人の目標を15年にほぼ達成したことを受けて、新たな目標を4000万人へと引き上げた。この流れを受け、多くの自治体が観光に力を入れはじめている。大阪市の吉村洋文市長は年頭訓示で「観光産業は大阪の基幹産業になる」と述べた。
地域経済に閉塞(へいそく)感さえ漂う中で、外国人観光客の誘致による活性化への期待が高まるのは理解できる。自治体にとっても繁華街や景勝地により多くの外国人が訪れ、消費が増える方が結果がすぐに見え、住民の支持も受けやすい。
だが外国人観光客の数は為替動向に左右され、天災や流行の変化でも変動する。誘客の平準化と恒常化を目指す横浜市や大阪市などの動きもあるが、これらは“カジノ法案”の成立をにらんだもので、ただちに効果を発揮するとは考えにくい。
自治体の産業政策が観光ばかりに目を向けるようになり、予算や人員をシフトしすぎることを恐れる。地域のニーズに応じたきめ細かい支援を継続することで、着実に発展する中小企業を見いだす努力を怠ってはならない。そうした地道な取り組みは必ず、雇用の創出と地域社会の維持につながる。
残念ながら中小の活性化には特効薬はない。ただ個々の中小企業が元気になれば、地域を元気にする。水滴も集まれば大河になり、やがて全国に広がる。中小企業支援策の底上げをいま一度、自治体に求めたい。
(2016/5/2 05:00)