[ ICT ]
(2016/7/14 05:00)
■技の難易度、数値で可視化■
【ICT活用】
ひねりの回数など目視のみでは正確な判定や採点が難しい体操競技。公正なジャッジに活用できると期待されるのが“科学の目”だ。すでに陸上競技では画像判定が一般的だが、2020年の東京五輪・パラリンピックでは活用範囲が広がるとみられる。
体操競技の審査員の負担は増大傾向にある。この課題解決への一助として、日本体操協会は富士通の協力を得て、競技の採点を支援する情報通信技術(ICT)の実用化に乗り出した。
【審判の負担減】
カギとなるのは3次元(3D)レーザーによるセンシング技術。競技中の選手の動きを1秒間に230万点スキャンニングし、カメラ映像だけでは分かりにくい体の重心の位置や角度を数値データで認識する。藤原英則富士通東京オリンピック・パラリンピック推進本部統括部長は「技の難易度を可視化することで、審判員の負担軽減や採点時間の短縮につながる」という。
開発プロジェクトの出発点は1年前。富士通がゴルフ練習用に提供していた3Dセンシング技術を日本体操協会幹部にみせたところ「体操でもやれないか」と相談を受けた。
早々に社内に持ち帰ったものの、体操の技は800種類を超え、「初心者がいきなりフォーミュラ1(F1)レースに挑むような状況だった」と藤原統括部長は振り返る。
試行錯誤の末、パソコンの光磁気ディスクの読み書きに使うレーザー技術の活用を考案。国際体操連盟(FIG)のブルーノ・グランディ会長が来日した際に実用化のイメージを伝えると「私が長年目指していたことだ」と賛同を得た。
15年12月に鈴木大地スポーツ庁長官が日本体育大学の体操部を視察した際にも披露した。「経験と感性のみに頼っていた世界に科学の目を入れる意義は大きい」と鈴木長官は高く評価した。
【世界標準へ】
3Dセンシング技術は審判員以外に観戦者や選手にも恩恵をもたらす。例えば判定時間が短縮すれば観戦の楽しみが増す。選手は練習中に技の採点を確かめたり、調子の良しあしをデータで確認したりできる。
「競技の魅力が上がれば会場に足を運ぶファンが増え、興行収入も増える。その資金を選手の強化に回せば好循環のサイクルが生まれる」(藤原統括部長)。日本体操協会と富士通が目指す、もう一つの金メダルは3Dセンシングを日本発の世界標準とすることだ。
(2016/7/14 05:00)