[ オピニオン ]
(2016/8/22 05:00)
人間の毛髪を医療用無痛針に利用しようという研究を、大学教授にお聞きしたことがある。髪の毛はマカロニのように中ががらんどうな中空タイプと、中空がないタイプがあるそうだ。
中空があっても、その太さは人によってバラバラ。性別や人種に関係なく個人差だという。なぜ違いがあるのかが気になって尋ねると、教授の答えは「その研究をした人がいない」。
育毛剤やシャンプーのメーカーは、毛髪が生える仕組みや表面の色つやを積極的に研究する。だが外から見えない毛髪の中空の存在は「理由が分かってもカネになりそうもない」と思われて、研究テーマとして魅力がないのだそうだ。
「革新的な技術を研究しようにも、株主がうるさくてできない」という愚痴を、経営者から聞くことがある。役に立つかどうか分からない研究より、すぐもうかるテーマに人やカネをつぎ込まざるを得ないご時世だという。
企業としては仕方ない面もあろう。しかし歴史上、意外な研究の成果が社会を変革し、新事業を生んだりノーベル賞に結びついたりした逸話は結構ある。経営環境の難しさに不平を言う前に、もうからなそうな研究をなぜ続けるのか、株主を説得する方法を考えるべきではないか。
(2016/8/22 05:00)