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(2016/9/9 05:00)
米アップルは7日(日本時間8日)、新型スマートフォン「iPhone(アイフォーン)7」などを発表した。世界を驚かせたのはアップルでなく、任天堂をはじめ他社とのコラボレーションだ。魅力的なコンテンツは皮肉にも、端末の革新の地味さを鮮明にした。アップルの停滞が続けば、部品を供給する日本メーカーは戦略を問われる。
部品業界、戦略問われる
【弱点減らす】
日本にとっては、見逃せない発表が多かった。アップルが米サンフランシスコで開いた新製品発表会で、任天堂の看板キャラクター「マリオ」の生みの親である宮本茂クリエイティブフェローが登壇。新作ゲーム「スーパーマリオラン」を、12月からiOS搭載のアップル端末向けに配信すると発表した。
日本市場向けiPhone7にはソニーの非接触技術「フェリカ」を搭載し、10月に決済サービス「アップルペイ」を始める。電子決済を理由に従来型携帯電話を使う人や、iPhoneのためにスマホ決済を諦めていた人には朗報。フェリカ搭載は買い替えの動機には十分で、iPhone人気の高い日本での弱点を減らした格好だ。
アップルウオッチではスマホゲーム「ポケモンGO」へ対応するなど、全体的に他社とのコラボが目立った。
処理速度・画質向上も…驚き・革新性に乏しく
【停滞続くか】
ティム・クック最高経営責任者(CEO)が「これまでで1番」と強調したように、iPhone7は優れた製品にはなった。画面サイズ4・7インチの「7」と同5・5インチの「7プラス」で展開する。光沢感のある黒など新色や、防塵・防水性能の追加、処理速度や画質も上がった。ただ、正常進化の範囲で、驚きや革新性は乏しい。
7プラスに搭載された複眼カメラは、望遠ズーム機能やボケ味を出す目新しさがあるが、中国のファーウェイに先を越されている。
調査会社IDCがまとめた16年4―6月期の世界スマートフォン出荷台数は、首位の韓サムスンや3―5位の中華系スマホメーカーが台数とシェアを伸ばし、アップルは一人負け。iPhone7で流れを変えることは難しいかもしれない。
【大きな打撃】
日本の部品メーカーにとって、アップルの停滞は大きな打撃となる。各社は過度な1社依存からの脱却を図っているものの、16年3月期に日本電産は受注減少を受けて設備の減損損失を計上。太陽誘電など中華系スマホへの拡販が下支えする企業もあるが、スマホ市場の成長も鈍化しており、動向を注視する必要がある。
停滞気味とはいえ、1モデル当たりの生産台数の多いiPhoneの新モデル発売は少なからず期待されている。村田製作所の藤田能孝副社長は「9―10月に向けて受注は上向く」と自信を示した。iPhone7の寄与に加え、同社が高シェアを持つ積層セラミックコンデンサー(MLCC)などは中国部品メーカーが不得意な領域。韓国や中華系スマホの増加や、高性能化に伴う部品点数の増加を享受しやすい。
さらに、村田製は高周波(RF)スイッチ最大手の米ペレグリンセミコンダクターの買収や、小諸村田製作所(長野県小諸市)の新棟建設による開発加速で、スマホ向け技術の変化に備える。
技術の変化で商機をつかむ部品もある。日本電産が提案する触覚デバイス用の精密小型モーターは、今後スマホの感圧式ホームボタンなどに利用が予想される。採用状況次第では、精密小型モーター事業の大きな巻き返しを期待できる。カメラの手ぶれ補正関連部品などを供給する部品メーカー幹部は、「複眼カメラのように、スマホのカメラ性能はまだまだ進化する」と話す。
一方で、タクトスイッチやカメラ用アクチュエーターでトップクラスのシェアを持つアルプス電気は、「まだ市場は拡大するが、19年以降は汎用品化する懸念がある」(広報)と話す。稼ぎ頭のスマホ用部品に次ぐ事業の育成を急ぐ。
TDKはスマホ市場成熟を背景に、売上高の4割を占める情報通信技術(ICT)事業に大なたを振るった。スマホ向け高周波部品事業で米クアルコムと提携。同社との合弁会社に売上高1200億円規模の事業を移管する見通し。同部品の競争力を高めつつ、合弁の株式を売却した場合の利益を含め、経営資源を成長分野に定めた自動車やIoT(モノのインターネット)に振り向ける。
■日本勢、アップルと一蓮托生
【韓国勢追随/有機EL対応が分岐点−シャープ、焦り大きく】
国内ディスプレー2社の売上高に占めるアップル向け比率は、ジャパンディスプレイ(JDI)が16年3月期までに53・7%に、シャープはカメラモジュールの受注もあって同27・1%に高まっている。理由の一つには、両社の品質と価格の条件が、アップルにしか合致しないことがある。さらに韓国系端末は自前で、中国は国策で現地企業がディスプレー生産を拡大。日本勢はアップルと一蓮托生だ。
今後は、次期iPhoneへの搭載が有力視される有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)パネルへの対応が分岐点となる。有機ELパネルの供給元は、量産で先行する韓国サムスンディスプレイが1番手、投資を活発化する韓国LGディスプレイが2番手。アップルがサムスンからの調達を減らしたいため、JDIが3番手とされる。JDIは17年春に試作設備を稼働し、18年の量産を目指す。資金不足もアップルからの投資で補えるだろうとみられている。
同じく3番手を狙うシャープの焦りは大きい。台湾・鴻海精密工業による買収完了が8月半ばまでずれ込んだ影響もあり、量産計画は他社に比べて出遅れている。2000億円の投資計画を実行すれば、早期黒字化の経営目標が遠のく厳しい状況だ。戴正呉社長は就任早々に難しいかじ取りを迫られている。
一方で、アップルの有機EL採用自体を疑問視する声もある。早稲田大学の長内厚教授は、「液晶の画質や視野角は有機ELを上回っており、付加価値として有機ELを使う意味合いは薄れてきた」と話す。しかも、有機ELの採用はサムスンの土俵で戦うことになり、分が悪い。国内ディスプレー2社の動向が注目される。
【進化に期待】
10周年となる次期iPhoneは、有機ELの採用やエッジをカバーする曲面ディスプレー、メーンボタンとディスプレーの一体化など大きな変更が噂される。外観を左右するディスプレー変更は大幅な刷新となるため、市場を活性化させる期待も大きい。驚きの少なかった7は、どう次へつながるだろうか。
(2016/9/9 05:00)