[ オピニオン ]

社説/動き出す「働き方改革」−労使双方に、新たな覚悟が必要だ

(2016/9/13 05:00)

同一労働同一賃金や長時間労働是正の実現に向けた「働き方改革」が動き出した。来年3月までに実行計画をまとめ、次期通常国会で関連法の改正を目指す。派遣やパートなど非正規労働者の処遇の見直しは、経営側と労働側それぞれに新たな覚悟を強いる。政府は改革の全体像を示しつつ、建設的に議論を進めてもらいたい。

安倍晋三首相は、第3次再改造内閣で働き方改革を「最大のチャレンジ」と位置づけた。首相が議長を務め、関係閣僚と有識者からなる「働き方改革実現会議」を9月中に発足する。

長時間労働の是正は、労働基準法第36条に基づく「三六協定」の運用を見直し、残業時間の上限を定めることで実現できる。野党や労働側にも異論は少ない。関連する法改正は厚生労働相の諮問機関である「労働政策審議会」での審議が必要だ。厚労省は2017年度の機構改革で、これらの問題を担当する「雇用環境・均等局=仮称」の新設を要求している。

年功序列賃金と終身雇用を前提としてきた戦後の「日本型正社員モデル」は、市場経済のグローバル化で限界にきている。バブル崩壊後、多くの企業は正社員を削減し、その穴をパートや派遣社員で埋めてきた。その結果として非正規社員の平均年収は同じ仕事をする正社員の3分の1程度でしかない。

ここ10年ほど非正規社員の正社員への登用が叫ばれ、産業界も積極的に取り組んできた。ただ人件費や社会保険料の負担増を恐れる経営側の問題、持ち家や親の介護、子供の転校などを理由に転勤を拒む労働者側の問題、さらに個々の従業員のスキルなど複雑な問題があり、正社員化は思うように進んでいないのが実情だ。

労働人口が減る中、経済成長を実現するには旧来の労働慣行の見直しは欠かせない。ただ拙速な結論は、我が国の強みである年功賃金制度の上に立つ労使協調路線を揺るがす。経営側には人件費増の覚悟が、また労働組合も非正規労働者を含めた全労働者のための組織に脱皮していく覚悟が必要だ。

(2016/9/13 05:00)

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