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深層断面/三菱商事、ローソンを子会社化−商社業界の盟主奪還なるか

(2016/9/16 05:00)

三菱商事がローソンを子会社化する方向で最終調整に入ったことが15日、わかった。1日には、伊藤忠商事が約4割出資するファミリーマートが、ユニーグループ・ホールディングスと経営統合したばかり。“大手商社の代理戦争”とも言われる小売り事業。三菱商事が同事業の競争力強化を通じ、商社業界の盟主奪還につなげられるかという点でも注目される。(土井俊、江上佑美子)

  • 小売り事業の強化で商社の盟主奪還なるか(東京・丸の内の三菱商事ビル)

■「スピード」成長のカギ−投資先経営を積極関与、セブン・ファミマを追撃

【1500億円】

三菱商事はTOB(株式公開買い付け)を通じて、ローソンへの出資比率を現在の33・4%から50%以上に高める。株式取得額は1500億円程度となる見通し。ローソンへの経営関与をさらに深めることで、自社の食品原料などのグローバル調達網を従来以上に活用し、ローソンの商品力を強化するほか、アジアなど海外展開の加速を図る。

商社は小売事業において、食品原料の供給から加工、物流、販売とサプライチェーンに対して自社の機能を提供し、収益に結びつけてきた。また消費者との接点を持つことでニーズを把握し、商品・サービス開発や海外展開につなげるという点から、各社は大手コンビニやスーパーマーケットに出資している。

中でもコンビニは、食品販売から宅配便や公共サービスまで手がけ、日常生活に欠かせない「社会インフラの一つ」(三菱商事幹部)との位置付けで、今後も市場拡大を見込む。大手商社は、原油や石炭など資源価格の下落の影響を受け、2016年3月期決算で苦戦を強いられた。

三菱商事は当期損益が創業以来初の赤字に転落。長らく維持してきた業界首位の座を伊藤忠に明け渡した。今後も資源分野は価格の早期回復が見込みにくく、インフラや機械、食料など資源以外の事業強化が待ったなしの状況だ。

【非資源分野】

16年4月に始動した3カ年中期経営計画では、資源分野への投資残高を増やさない一方、非資源分野は自社で強みを発揮できる事業に投資する。

また従来の事業投資にとどまらず、投資先の経営に積極的に関与し、企業価値を高める「事業経営」まで踏み込む方針を掲げている。今回のローソン子会社化の計画は、この方針にも合致する。

子会社化によって、考えられるシナジーがセブン―イレブン・ジャパンやファミリーマートに比べて出遅れている海外展開の加速だ。三菱商事の海外ネットワークを通じて、海外で現地パートナーの選定から商品メーカーや物流業者などを含めた“パッケージ”としてバリューチェーン全体を構築し、ローソンの海外進出を支援する。その点では、三菱商事が既にインドネシアでバリューチェーン構築の取り組みを進めており、その実績が大きな武器となりそうだ。

【事業モデル】

三菱商事は同国で、小売業に強い現地財閥アルファグループと戦略提携を11年に締結。同社との合弁会社を通じて、製パンや製菓、飲料の製造事業を展開し、三菱商事は原料供給なども担っている。またアルファグループのネットワークを使い、ローソンも出店している。今後はインドネシア以外のアジアでも、こうした事業モデルをローソンを中心に展開する方針だ。

商社業界の首位奪還に並々ならぬ意欲を燃やす三菱商事。16年4月に就任した垣内威彦社長は「業界トップを取り戻したら、二度と譲らない」と強い決意を語る。ローソンの成長とともに、自社の関連事業領域もいかに深掘りさせられるか。そのスピード感が、会社全体の成長のカギを握ることになりそうだ。

■コンビニ業界−商社のノウハウを体質強化に生かす

  • 商品力強化がセブン―イレブン追撃のカギ(都内のローソン店舗)

【優勝劣敗】

コンビニ業界は優勝劣敗が鮮明になっている。セブン―イレブン、ファミリーマート、ローソンの上位3社が規模の拡大を進める一方、中堅は苦戦を強いられ、大手との合併や連携を迫られている。

ファミマは1日、サークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングス(GHD)と経営統合して持ち株会社ユニー・ファミリーマートホールディングス(HD)を発足した。運営するコンビニ店舗数は1万8000超となり、セブン―イレブンと並ぶ“2強”に躍り出た。3位に転落したローソンは存在感の維持に向け、「次の一手」を模索してきた。

【関係強化】

6月に就任した竹増貞信社長は三菱商事出身だ。畜産部で現社長の垣内威彦氏の部下として働いた経験もある。ローソンの社長交代会見で、現会長の玉塚元一氏は「三菱商事を巻き込み、たくさんの知恵を取りに行く」と強調していた。三菱商事との関係強化により、三菱商事が出資する食品メーカーなどとのつながりを活用でき、「小商圏型製造小売業」モデルの構築にメリットがある。

海外の成長著しい市場を獲得する上でも、三菱商事のノウハウは強みとなる。8月末のローソンの海外店舗数は926で、セブン―イレブンの4万1000強、ファミマの6092に比べると大差がついている。20年には3000―5000店規模に拡大するという意欲的な目標を7月下旬に明らかにしたが、業界関係者から実現性は高くないと見られていた。

【業界再編】

コンビニ業界で商社の存在感が高まれば、さらなる業界再編につながる可能性もある。ユニー・ファミマHDの筆頭株主は伊藤忠商事で、33・4%を出資している。ユニー・ファミマHDの上田準二社長、中山勇副社長、ファミマの沢田貴司社長はいずれも伊藤忠出身だ。ファミマとユニーGHDの統合交渉でも、伊藤忠の意向が影響を及ぼした。

もっともローソン、ファミマの両社とも、ライバルと見ているのはお互いではなく、あくまでセブン―イレブンだ。1店舗当たりの1日の売上高を表す日販はセブン―イレブンとそれ以外で10万円以上の差がついている。「規模は質に直接つながる。セブンとはまだまだ格差があるが、キャッチアップしていく」と上田ユニー・ファミマHD社長は対抗姿勢をあらわにする。

ただ消費者が行く店を決める理由は「看板」よりも商品力や立地、個店のサービスだ。商社による子会社化や相次ぐ再編がチェーンとしての体質強化に直結するかは未知数だ。

(2016/9/16 05:00)

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