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(2016/10/24 05:00)
山形県を会場に実施した「第54回技能五輪全国大会」の全競技が、23日に終了した。今回は全般的に競技の難易度が高かったが、参加した各選手のレベルも上がっており、熱戦が繰り広げられた。東日本大震災後初の東北開催で、会場には地元・東北の中学生、高校生らが多く詰めかけた。見学者は日ごろの練習の成果を存分に発揮する選手の勇姿に目を輝かせていた。次世代を担う若手技能者の奮闘を紹介する。
【金属系/段取りが出来ばえ左右】
「自動車板金」は平らな鋼板をハンマーでたたき、成形、溶接して、約7時間で模型サイズの車の外観を作る。会場には速いペースでハンマーをたたく音が響いた。
課題は高難度で各選手は指導員らと事前に手順を練り、本番に挑んだ。三浦公嗣主査は「各社の工夫に驚かされた」と評価。日産自動車の池田龍哉選手は「緊張したが実力を出せた」と話した。
切断、穴開け、曲げ、溶接などの加工により、鋼構造物を仕上げる「構造物鉄工」。奥屋和彦主査は「モノづくりの原点。本質を知って技能を極めていくことが大事だ」と重要性を強調する。
カギは各加工の中で、材料の膨張・収縮をどう判断するか。これが精度の達成につながる。豊田自動織機からは2015年大会で銀メダルの浜野元輝選手が出場した。同社の野澤樹雄コーチは「日頃の力を出せば結果につながる」と力強く語った。
「曲げ板金」は、工業製品の製作に必要な広範囲な技術を駆使して図面から立体を作り上げる。「曲げの順序など細かな段取り一つひとつが出来ばえを左右する」と一柳弘一主査は説明する。各選手はやすりがけ1回にも最新の注意を払って作業をしていた。
同競技は例年マツダが強く、指導員の今朝丸真氏は「順調にできている」と自信を語る。3選手が出場した岡村製作所の岩倉圭弥選手は「できる限りのことはやった」と表情を引き締めた。
【機械系/残り1分、みんなの顔が励み】
「フライス盤」は競技終了時の提出品のうち、採点対象となる提出品が約半数ほどだった。石井尚正主査は「年々、課題が難しくなっている。加工後の変形をいかに抑えるかが重要。大会を機に飛躍してほしい」と期待を寄せた。15年大会で金メダルに輝いたトヨタ自動車の剣持光彰選手は2連覇をかけて出場した。「旋盤」と「フライス盤」を統括する小山達也コーチは「日頃の力を出している」と戦況を見守っていた。
「旋盤」では加工後に組み合わさった各部品がスムーズに動くか、各選手が最後まで微調整を続けた。「ハイ!」―。残り約1分、作品を仕上げたトヨタ自動車の加藤拓馬選手の声が会場に響いた。前半の遅れを挽回して粘りきり「みんなの顔が見えて励みになった」と笑顔をみせた。
「自動車工」は時間が150分4課題と2倍以上となり、類似課題が統合された。石井恒夫主査は「3時間で5課題の国際大会を意識した」と理由を説明。日産自動車の本田良和総括指導員は「世界を意識させる良い機会だ」と前向きに捉えていた。日産は15年大会で敢闘賞の下原侑也選手が出場し「この1年間、金メダルだけを目指してきた」と力を込めた。
「精密機器組立て」は競技当日に課題の一部に変更が加えられた。和田正毅主査は「加工工程と段取りを自らで考え、判断できる人を育てるため」とした。日立オートモティブシステムズの和田真之介選手は2年連続入賞で、3回目となる金メダルへの挑戦に「今回が一番いい出来だった」と振り返った。
「抜き型」は機械加工時間が短くなる一方、型の形状は複雑化した。森茂樹主査は「手作業が不得意な人にはより難しくなり、熟練度で結果に差がつきやすくなった」とした。トヨタ自動車の中根和希選手は「途中にトラブルもあったが、経験で乗り越えられた」と胸を張った。
「機械組立て」はヤスリ加工の出来が結果を左右する。太田和良主査は「選手の技量が上がってきている」と肌で感じていた。
【電子技術系/時間内完成、選手に笑み】
2人1組でロボットを使用した自動生産ラインを立ち上げるスピードと正確さを競う「メカトロニクス」。23日の競技では延長時間を含む6時間以内に完成できたのは2チームだけだった。5時間59分59秒の土壇場で“合格”したのは、ジェイテクトの河野司昌選手、山中和也選手組。渡邉浩樹コーチは「うまくいかないとどちらかがイライラしてしまうものだが、落ち着いて取り組んでいた」と満足そう。河野選手は「ハプニングもあったが、何とか終えられてよかった」と胸をなで下ろしていた。
「電工」は金属管工事やケーブル工事などの電気工事の腕前を競う。今回は配管や電球の点灯によって山形県の鳥「オシドリ」を表現するのが課題。競技時間が短縮した一方、事前に公表された内容からの変更点が増えたこともあり、難易度が上った。時間内に終わらない選手も多かっただけに、九電工の小川賢哉選手は「今までやっていなかった課題もあったが、時間内に終えられてよかった」と笑顔をみせた。
「電子機器組立て」は電子回路の設計から組み立て、マイコンのプログラミング、測定までの幅広い技術が求められる。特に配点が大きい組み立ては正確さ、外観、仕様書と合致しているかがカギになる。デンソーからは15年大会に金メダルを獲得した犬飼英明選手が出場。同社の麻生知宏電子機器組立て職種担当は「プログラム課題のレベルはあまり高くなく、上位の選手であればこなせる」としていた。
【情報通信系/素早い仕上げ、観客の目奪う】
住宅やビルにネットワーク回線を構築する「情報ネットワーク施工」は、15年大会で金メダルの関電工の徳守翔選手を中心に協和エクシオときんでんの3者の熾烈(しれつ)な戦いとなった。同競技は国際大会で日本代表が6連覇中のお家芸。国内大会で選手を鍛えて世界へ送り出す。菊池拓男主査は「全員が世界上位に入る実力」と太鼓判を押す。事前公開の課題を当日に30%変更するため、高い対応力が求められる。素早く仕上げる技に多くの観客が見入った。
生産設備関係の電気設備の組み立てとプログラミングの知識や技能を競う「工場電気設備」。15年大会で銅メダルだったデンソーの神谷日菜選手、林愛美選手が出場した。伝統的に日立製作所とデンソーが金メダルを争う職種だ。
日立製作所の仲田岳祐指導員は「全体的に(作業に)スピードがあったと感じたが、当社の選手も普段の力を出せていた」と手応えを語る。同社の田中奨二選手は「目指すのは、金メダル」と恩師の期待に応える。
(2016/10/24 05:00)