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深層断面/ホンダジェット正念場、生産計画遅れ・エンジン受注白紙

(2016/11/16 05:00)

2015年末に納入が始まったホンダの小型ビジネスジェット「ホンダジェット」。30年の開発期間を経て“離陸”した航空機事業だが、機体の生産ペースは計画より遅れ、航空機エンジン事業では受注を見込んでいた業者との合意が白紙になった。景気変動を受けやすい小型ビジネスジェット市場には米大統領選による経済の先行き不透明感も漂い、ホンダの航空機事業は正念場を迎えている。(米ロサンゼルス=池田勝敏)

  • 昨年末に納入が始まったホンダジェット。小型ビジネスジェットの受注は経済情勢の影響を受けやすい

  • エンジン部品を組み立てる技能者

部品の品質安定不可欠/18年度めど年産80機目指す

【部品の信頼性】

「月産3機のペースで生産しているが安定しているわけでない」。ホンダジェットを生産する子会社ホンダエアクラフト(米ノースカロライナ州)の藤野道格社長はこう話す。当初の計画では月産3―4機のペースに乗っているはずだった。遅れの一因はサプライヤーが作る部品の信頼性だ。

「(機体を組み立てた後に)信頼性を満たしていない部品があると、それを取り付け直してまた飛行テストをしないといけない。そういう繰り返しがある」(藤野社長)。機体は20万―30万点の部品で構成される。すべての部品の品質が安定しないと機体組み立ては軌道に乗せられない。

ホンダエアクラフトの品質担当者がサプライヤーに赴き、部品の品質の基準や検査の仕方を変えて、不適合品を出荷する前に発見できるよう対策をとり始めた。機体組み立て作業の習熟度もネックになっており、技能向上のための訓練も強化している。早期に安定的に月産3機のペースに乗せ、16年度末に4機とし、17年度の終わりには5機とする計画だ。18年度から19年度にかけて年80機のフル生産を目指す。

【米大統領選】

「大統領選などの大きなイベントがある時に様子見する顧客がいる」(藤野社長)という。藤野社長によればビジネスジェット市場は拡大予想に反して前年比8%減少している。中小企業の経営者を主な客層とする小型ビジネスジェットは景気の変動に敏感に反応する。

ホンダジェット向けのエンジン「HF120」を生産するホンダエアロ(同州)の藁谷篤邦社長も「リーマン・ショック以降の市場の回復が思ったより遅れている」と指摘する。ホンダエアロのエンジン納入先は今のところホンダジェットのみ。事業を軌道に乗せるためにはホンダジェット以外の受注がカギとなる。2年前に機体改造を手がける米シエラ・インダストリーズとセスナの中古機にHF120を載せることで基本合意したが、シエラが買収され白紙になった。

【工場を増設】

ホンダジェットとそれ以外の受注比率を半々にするのが目標だ。HF120は競合と比べ燃費性能が高く、オーバーホール(分解検査・修理)間隔が長い。こうした長所を売りにして受注獲得を急ぐ一方で、主要部品を内製化することにした。2100万ドル(約23億円)を投じて工場を増設し、17年春に稼働する。藁谷社長は「品質、コスト、納期の点でメリットがある」とし、受注獲得につなげたい考えだ。ホンダジェットと同クラスの機体メーカーと折衝を進めている。市場の回復を見据え機体とエンジンのそれぞれで事業体制を整える。

■ホンダエアクラフト社長・藤野道格(みちまさ)氏「作業者の技能高める」

―足元の市場と見通しは。

「少し増えるとみていたが、9月までの納入台数は前年比8%減となった。経済の先行きが不透明になると慎重になる顧客がいる。今後2―3年の間にプラスに転じるのでは。長期的には増加傾向になる」

―納入開始から5年後に単年度黒字化という目標は変えますか。

「生産の立ち上げが半年遅れている。今の状況だと計画より遅れそうだが、目標に追いつけるようにしたい」

―課題は。

「部品の信頼性を安定させないと円滑にラインが流れない。サプライヤーを含めビジネス全体として生産ペースを上げることだ。そのためには組み立て作業者の技能を早期に高める必要がある。競合企業と技能が高い技術者を取り合う事態にもなっている」

―部品の信頼性向上に向けた具体策は。

「サプライヤーで品質検査をしているが不適合部品が出荷されてしまう。品質の検査法や基準を変えて不適合品が集荷される前にキャッチする。サプライヤーに常駐して支援する場合もある」

―北米、欧州、ブラジルに次ぐ有望市場はどこですか。

「パナマ、アルゼンチンが有望だ。最近中東からの問い合わせも多く、近く開催される中東のエアショーでデビューする」

■ホンダエアロ社長・藁谷(わらがい)篤邦氏「主要部品を内製化していく」

―部品内製化の狙いは何ですか。

「以前は協業相手の米GE認定の元で作っていてGEのサプライヤーを使わざるを得なかった。米連邦航空局の製造認定を取得し自社でサプライヤーを選べるようになった。今回一部の主要部品を品質、コスト、納期の観点で選んだ。エンジン技術を磨く上でキーとなる部品を内製化していきたい」

―日本のサプライヤーを選ぶ可能性は。

「これまで欧米系のサプライヤーが多かった。日本、海外に関わらず、品質、コスト、納期が最も優れたサプライヤーを選ぶ。開発段階で日本のサプライヤーと試作をした関係がある。機会があればそういう企業と仕事をしたい」

―市場環境は。

「機体メーカーの新機種開発ペースが落ちている。底は打っているが、しばらく大幅な回復には到らない。ホンダジェットとそれ以外の受注の比率を半々とする目標だが、それがいつ実現できるかは見えにくい」

―ホンダはエンジンと機体を生産するメーカーですが、外販のネックになりませんか。

「機体とエンジンは別の事業と考えている。ホンダジェットの競合メーカーの情報が漏れないよう人員も組織も分けて運営している。顧客から懸念する声があるが、信頼関係を築きつつある」

(2016/11/16 05:00)

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