[ その他 ]
(2016/12/22 05:00)
日刊工業新聞社は、「第39回フレッシャーズ産業論文コンクール」の入賞上位8人による座談会を開きました。会社を選んだ理由や社会に出て実感したこと、今後の目標などを話し合いました。「突き詰めることをいったん置いて顔を上げてみると、自分で気付かなかったことが見えてくる」など、はっとさせられる率直な意見が飛び交いました。(入賞論文は2016年11月18日付日刊工業新聞に掲載しています)
●会社を選んだ理由
―受賞おめでとうございます。会社を選んだ理由と、仕事内容を教えてください。
今野 分析機の性能や機能の評価試験といった、製品の最終段階のチェックなどをしています。目に見えるモノをつくるのがおもしろそうだと思い、志望しました。
塚田 次世代の製造機に向けた高出力のスケールを開発するプロジェクトに携わっています。レーザースケールはモノづくりの業界を支えている縁の下の力持ちのような製品だと感じ、魅力を感じました。
広橋 新しいモノをつくったり、見つけたりする仕事に魅力を感じ、研究開発を選びました。現在は人工知能(AI)を活用した工場生産設備の予防保全の開発をしています。
能勢 エレベーターを動かす巻上機を設計しています。大学時代は、高齢者の筋力アシスト装置に関する研究をしていました。足腰が弱い方のインフラ関連の仕事に携わりたいと思い、会社を選びました。
須田 海外向け台所用洗剤を開発しています。大学の研究は必ずしも身近な生活に直結していませんでした。しかしメーカーでは自分の仕事が製品になるので、やりがいがあると思い入社しました。
坂田 私は山陰地方の出身ですが、関西の大学に進学しました。県外に出て故郷のよさや愛着を感じ、地元で就職先を探しました。現在は新卒採用を担当しています。学生向けのパンフレットなど、自分のアイデアで新しいモノをつくることにやりがいを感じています。
中村泰三 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)や中央演算処理装置(CPU)といった、キー部品の調達を担当する部門で、開発製品に使用される部品の選定や価格の是正を行っています。大学時代に米国で4年半ほど過ごしたのですが「日本が誇れるモノをもっと世界に広めたい」と思い、メーカーを志望しました。会社を知るきっかけは、会員制交流サイト(SNS)に投稿されていたビデオでした。ロボットが刀でいろいろなモノを切る動画でしたが、海外ですごく評判がよかったんです。格好いいなと思い就職を決めました。
中村穂高 医療機器の修理とメンテナンスをしています。高専の医療福祉工学コースを卒業したので、医療機器の業界に焦点を当てたところ、今の会社を見つけました。磁気共鳴断層撮影装置(MRI)やコンピューター断層撮影装置(CT)から、自動体外式除細動器(AED)など身近にある機械まで、幅広く携われると思い入社しました。
―学生時代の想像との違いや、とまどいはありますか。
今野 学生時代はコミュニケーションにあまり苦労しませんでした。しかし、社会に出るといろいろな年代の人がいます。さらに同年代でも、今までの環境や価値観の違いも大きく、コミュニケーションが難しいと感じました。年代間のギャップをどう埋めていくか、改善していこうと思いました。
広橋 学生時代の研究は期限が決まっていますが、企業では10年ほどを要する長期間の研究も非常に多いです。すると、研究を続けるうちにどんどん視野が狭くなってしまい、1つの実験方法に固執し、毎日が「判を押したような日」になってしまうこともあります。本当に単純なことですが、会社に行く道を変えるなど、意識的に毎日変化をつけ、視点を変えることを心がけています。
能勢 大学では、自分の失敗で他者に迷惑がかかることはありませんでした。しかし、会社では後ろの工程をはじめ、エレベーターを納入するお客様まで影響が出ます。そういったコストの負担やお客様へのご迷惑を、入社してから強く意識するようになりました。
須田 私も第一にコスト意識の違いを感じました。そして、自分の目線がいかに生活者から遠ざかっているかということも感じました。そこで、製品を使う方が普段どうやって掃除をしているかなど、気を使うようになりました。製品を試験する際には、お客さまの使用方法と同じかどうかを考えています。
●論文に取り組んで
―今回の論文は、皆さんにとってどんな糧になりましたか。
塚田 社会人としてまだ数カ月しかたっていなくて、現在の会社のこともわからないのに「あすの企業」を考えられるのだろうかと最初は思いました。しかし、中小企業は社会の基盤的な役割を担っていて、中小企業の仕事が大企業の仕事につながり、それが社会につながっていくのだと、じっくり考える機会になりました。
能勢 論文を書くまでは、自分の置かれている立場で仕事を黙々とやっていました。この論文を書く上で、自分の周りだけではなく会社や中小企業全体を見ることができました。視野を広げるいい機会になったと思います。
須田 自分が思い込んでしまっていたことや知らなかったことに関して、改めて見つめ直せました。具体的には、理系と文系ではサービスを提供する際の考え方が違う部分があります。文系は「こういうニーズがあるから、こういうモノが必要だ」と考えます。一方、理系は「こういう技術があるから、こういったところに生かせるのでは」と考える人が多いようです。まさに自分も同じです。文系の方は、最初から広い視野で見るため、多様性に対応できると思いました。技術者になる上で、気付けてよかったです。
坂田 思ったことを素直に書いたので、今読み返してみると少し甘かったかなという点もあります。ただ、一番学生に近い時期に書いた新入社員の気持ちは、来年、再来年に入社する社員の気持ちと、そんなに大きく変わらないと思います。来年は後輩に仕事を教える立場になるので、自分が当時感じたことを新入社員も考えているかもしれません。学生に近い目線を忘れないようにという意味でも、今回論文を書いた意義があったと思います。
中村泰三 私の論文テーマは「グローバル人材」ですが、このテーマについては大学1年生ぐらいからずっと疑問に思っていました。新聞やテレビ、就職のイベントなどでよく目にする話題ではありましたが、具体的に何なのかを言えませんでした。そこで、論文を書いて自分が目標とするグローバル人材を明確化でき、そういった人材になるためにはどんなアクションが必要かも見えたのが、非常に大きな収穫でした。
●企業や社会に必要なこと
―ずばり、日本のモノづくりはどうあるべきだと思いますか。
今野 研究の一環で、海外の競合他社の製品を分解したことがあります。中身を見てみると、「何か大ざっぱだな」と思うことが多かったです。日本製品は細かい部分まで作り込まれていて、海外製品と差別化できていると感じました。ただ、その長所が短所になる部分もあると思います。あまりにも細かいところを突き詰めていってしまうと視野も狭くなり、使う側からは分かるのだろうか、とも思うからです。突き詰めることをいったん置いて顔を上げてみると、自分で気付かなかったことが見えてきます。そういった考え方も必要なのではないでしょうか。
須田 多様性のある社会に対して日本の企業がうまく対応できていないので、その多様性にいかに向き合っていくかが、大切なことではないでしょうか。方法としては二つあると思います。多様性に一つひとつ向き合う製品を提供するか、多様性のあるものを踏まえ、新しい共通の価値を含んだ製品を提供するか。例えばiPhone(アイフォーン)などはまさに後者の製品だと思います。
中村泰三 「共存」と「オープンイノベーション」が思い浮かびました。日本は、高品質で高い技術力を有していますが、“ガラパゴス化”も進んでいます。研究開発も国境を越えて共存・協力して技術力を上げたり、ニーズへの対応力を上げたりしていかなければならないと思います。
―これからの企業や社会に必要なことは何だと思いますか。また、皆さんはどのような役割を果たしていきたいですか。
今野 開発と営業で「こっちで勝手に研究して作るから、そっちで勝手に売ってください」といった、完全に分業化している部分があると感じます。互いにコミュニケーションが取れていない状況です。そこで技術者の側も、企業を引っ張っていくリーダーシップを持つのが大切だと思います。「フルオーナーシップ」という言葉がありますが、最初から最後まで、いろいろな部署で自社の製品がどのように扱われているか理解して、開発側からもアプローチできるようになればよいと思います。
広橋 日頃から顧客を意識した技術開発を行っています。営業実習時に製品マニュアルの内容の分かりにくさから、技術と営業や顧客との距離の遠さを感じたことがあります。誰が読んでも分かりやすいドキュメント化を心がけるなど、顧客視点に立った製品作りに貢献していきたいです。
坂田 「最近の若い子は何を考えているのかわからない」と耳にすることがありますが、どうしたらお互いが近づいて、よりよい体制にしていけるかを考えています。新入社員との距離をいかに縮めて、いかにいい人材を育てていくかを考えていきたいです。
中村泰三 米国にいた時に、パソコンや携帯電話の新機種が発売されるスパンが非常に短く「価格はこんなに高いけど、前の機種と比べるとそんなに魅力的なのかな」と感じることが多かったです。メーカー側が一方的に打ち出す面を少し減らして、一人ひとりのユーザーが本当に必要としているものを提供していきたいです。
中村穂高 お客さまと会社と、そこで働く私たちという3者が得をするという「ウィン・ウィン・ウィン」の関係が、これからの社会を築いていく上で必要だと論文に書きました。お客さまだけが得する状態では会社で働く私たちは豊かになりませんし、利益ばかり追及してお客さまが得をしない状況も、豊かさにはつながりません。3者にとってよい関係を築いていきたいです。
●将来の夢や目標
―最後に、皆さんの夢や目標を教えてください。
今野 今扱っている技術について勉強しなければいけないことはたくさんありますが、それ以外にも、いろいろな技術を自分のものにしていきたいです。そして、最先端の技術を支えていける人間になりたいです。
塚田 スケールという技術を少しでも多くの人に知ってもらえるように、広めていきたいです。この技術は就職活動をするまでは全く知りませんでした。一言で説明できない部分もありますが、「何の仕事をしているのですか」と聞かれた時に「スケールを作っていて、こういう製品なんです」と分かりやすく説明できる存在になりたいです。そのためにまず一つひとつの技術を学び、知識を身に付けていきたいです。
広橋 AIの技術進化は早く、2030年ぐらいには人と機械、さらに機械同士もコミュニケーションを取り合うところまでになると言われています。車やロボット、ヘルスケアなど、いろいろな分野で、人と機械がうまく協調できる技術を作れる技術者になりたいです。
能勢 自分しか分からない範囲を突き詰めたいです。例えば周りで困っている人がいた時に、「それは、あいつに聞けばいい」と言われるような、人から頼りにされる技術者になりたいです。
須田 世界中の人に知られる製品を開発したいです。例えば「キレイキレイ」というハンドソープがありますが、子どもが手を洗う際に「手洗いする」ではなく「キレイキレイする」と、商品名が使われることもあります。それと同じように、世界中で使われるような有名な製品を作ってみたいです。
坂田 故郷の山陰に貢献したいです。現在私は、過疎化が進む鳥取県を活性化するため、若者を呼び戻す「トットリターン」という取り組みを担当しています。山陰は人口減少に加えて県外に流出する若者が多く、大きな問題になっています。都会でないとやりたいことができないから大都会に進学・就職し、そのまま帰ってこないという人も多いです。そこで、そういった方々に故郷の魅力を再認識してもらおうという活動です。「魅力的な企業は都会にしかない」ということは絶対ないと思います。若い人たちに、山陰や故郷のよさをもう一度認識してもらって、「山陰に帰ってこようかな」と考えてもらえる仕事を続けていきたいです。
中村泰三 グローバル人材として、誰とでも働いて、結果を残す人材になりたいです。そのためにはコミュニケーション能力をはじめ、提案力や分析力、理解力を伸ばしていきたいです。
中村穂高 お客さまと会社をつなぐ架け橋になるのが、私の目標です。お客さまからいい印象を持ってもらえるように、会社からも「こいつはいい人材だ」と評価される人材になりたいです。
―皆さんの率直な意見は新鮮で、頼もしく感じました。今日はありがとうございました。
■出席者
【I部入賞者】---------------------
堀場製作所 今野雄大(こんの・ゆうだい)さん
オムロン 広橋佑紀(ひろはし・ゆうき)さん
ライオン 須田大輔(すだ・だいすけ)さん
安川電機 中村泰三(なかむら・たいぞう)さん
【II部入賞者】--------------------
マグネスケール 塚田耕平(つかだ・こうへい)さん
三菱電機エンジニアリング
能勢公貴(のせ・こうき)さん
一条工務店山陰 坂田理歩(さかた・りほ)さん
京西テクノス 中村穂高(なかむら・ほだか)さん
----------------------------
司会 日刊工業新聞社科学技術部 福沢尚季
(2016/12/22 05:00)