[ オピニオン ]
(2017/1/16 07:30)
『ロングテール』『フリー』『MAKERS』(メイカーズ)など、ICTやデジタル技術による社会変革のトレンドをわかりやすく解説した著書で世界的に知られるクリス・アンダーソンさん。元ワイアード誌の編集長で、現在はドローンメーカーである米3Dロボティクスの共同創業者兼CEOも務めています。
その彼に同僚記者が2015年秋にインタビューし、自然言語技術の進展について尋ねたところ、音声アシスタント「アレクサ」を搭載したアマゾンの「エコー」スピーカーをベタ誉めしていました。「離れたところからの音声認識・制御技術である『ファー・フィールド・ボイス』にアップル、グーグル、マイクロソフトなど各社が取り組んでいるが、中でもエコーは素晴らしい。部屋に置いておけば、こちらの声にいつでも反応する。ノイズがある場合でも、言った内容をきちんと理解してくれる一番の製品だ」。それから1年ちょっとが過ぎ、アンダーソンさんの予感は見事に的中したようです。
2015年7月の米国内での発売以来、エコースピーカーはこれまで数百万台が販売され、昨年末のクリスマス商戦では予想以上の売れ行きで生産が追いつかず、品切れを起こしたほど。加えて、すでに7000社以上の企業が、エコーに組み込まれた音声認識機能である「アレクサ」に対応させた製品を出していると言われています。
1月初めに米ラスベガスで開催されたデジタル家電見本市の「CES」。アマゾンは直接出展はしていないにもかかわらず、他社がアレクサ対応製品を続々と発表したため、「今回のCESでの勝者はアマゾン」(CNBC)というように、その存在感は群を抜いて大きかったようです。
例えば、フォードが車載インフォテインメントユニットの「Sync 3」にアレクサを搭載し、今年夏に提供を始めると発表したほか、家電のワールプールは洗濯乾燥機やオーブン、冷蔵庫をアレクサ対応に。アレクサの音声認識を使ったロボットでは、サムスン電子のお掃除ロボットほか、LGの家庭用サービスロボット「ハブ」、中国のUBテック・ロボティクスからは踊る人型ロボット「リンクス」が出展されました。
エコーと同じカテゴリーのスマートスピーカーでは、中国・レノボや、音楽ファン向けに音質を向上させた製品をオンキヨーが発表。さらに、中国・ファーウェイはアレクサに対応させたアンドロイドスマートフォンの上位機種「Mate9」をアナウンスしました。グーグルは昨年秋にスマートスピーカー「グーグル・ホーム」を発売するなど、音声認識ビジネスで先行するエコー/アレクサ追撃に躍起になっていますが、今度はグーグルの主導するアンドロイド陣営にアマゾンが乗り込んできた格好です。
とはいえ、果たして冷蔵庫などに音声認識が必要なのか、少々疑問にも感じられます。アレクサの機能が使える大型冷蔵庫を発表したLGによれば、レシピの検索や音楽の再生、アマゾンのサービスを利用した雑貨・食料品の注文、キッチンタイマーのセット、天気予報の確認など、キッチンで料理をしながら、さまざまなことをハンズフリーでできるメリットがあるということですが。
一方、USAトゥデイによると、アマゾン・アレクサ部門のスティーブ・ラブーチン副社長はCESの会場で、「スマートホームやウエアラブル、自動車など、アレクサが応用できる製品は世の中にたくさんある。だが、我々1社だけで対応は不可能だ」と話し、幅広いパートナーと提携しつつ、”どこでもアレクサ”戦略を広げていく方向性を明らかにしました。
幸か不幸か、アマゾン「エコー」はまだ日本で発売されていませんが、大波はこちらにもやって来るのでしょうか。すでにアマゾンは、日本でのネット通販はもちろんのこと、電子書籍やクラウドサービスのアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)でも圧倒的な存在感を見せています。前回、この欄で2017年のテクノロジートレンドを解説したガートナーのリサーチ部門バイスプレジデント兼最上級アナリストの亦賀忠明さんが、「17年にアマゾンは大暴れする」と昨年末に話していたことも気になります。
「(昨年12月2日までラスベガスで開催されたAWSの年次イベントの)リインベント(re:Invent)でAWSは『IT産業をトランスフォームする』と言っていた。彼らは言ったら本気でやる。日本でもインフラ、サービス、テクノロジーさえ整えば、クラウドとアレクサを使って、ユーザーが音声認識機能を自社の製品やサービスに組み込めるようになる。(同じく音声アシスタントを手がける)アップル、グーグルでは、そうした仕掛けはまだ見えない」(亦賀さん)。アマゾンの次なる戦略が日本で実行に移されるのも、時間の問題と言えそうです。(デジタル編集部長・藤元正)
(2017/1/16 07:30)