[ トピックス ]
(2017/1/25 05:00)
1日に1万2000社が起業するといわれる中国。「世界の工場」から、持続的な経済発展を目指して新しいビジネスを手がけるスタートアップが続々登場し、それらへの投資も盛んに行われています。日刊工業新聞電子版では今回から「中国イノベーション事情」と題し、中国出身で富士通総研の上級研究員を務める趙瑋琳(チョウ・イーリン)さんに、中国のスタートアップやイノベーション創出の動向を執筆していただきます。隔週水曜日での掲載になります。
中国イノベーション事情(1)ウーバーの中国事業を買収した滴滴出行の成長路線
2016年8月、世界70カ国に進出する米国発の配車アプリサービス「ウーバー」の中国事業が中国でのライバル「滴滴出行(ディディチューシン)」に買収され、世間を驚かせた。
中国人にとって、「衣、食、住、行(交通)」は暮らしの基本であり、昔から重要視されてきた。中でも、交通機関はバス、タクシー、地下鉄、マイカーまで選択肢が増えているが、経済発展に伴い交通需要は満たされないままである。
滴滴出行は、交通分野の情報化と自動車の効率的な利用を目指し、12年9月にタクシーを呼ぶアプリサービスベンチャーとして市場に参入した。14年から同じビジネスモデルを展開するベンチャー企業の「快的」との間で激しい市場シェア争いをしながら、アプリの急速な普及を実現した。両社ともアプリ使用者とタクシードライバーに10億元以上の報奨金を出したといわれたが、15年2月に両社は合併し、滴滴出行となった。
それによって、競争から共存的な発展へ変わり、中国平安保険や米アップルからも投資を受け、滴滴出行は資本市場の寵児となった。さらに、レンタカー、飲酒後の運転代替サービスや企業の業務用車ビジネスなど、「行」に関するあらゆるニーズをカバーしようとしており、中国配車サービス大手としての市場地位を固めた。
現在、約400の都市で、3億人以上のユーザーを獲得。8億人以上のユーザーを持つ人気メッセージアプリのウィーチャット(Wechat、テンセントが開発)にも取り込まれ、ウィーチャットからも簡単に使えようになっている。また、フォーチュン誌が16年9月に発表した「世界を変える企業50社」では、滴滴出行が中国本土の唯一の企業として、ランクインした。選ばれた理由としては、事業を通じて、中国の社会課題である環境問題(大気汚染)の改善に貢献したことが挙げられている。
中国では交通渋滞と大気汚染の問題が依然として未解決のなか、世界的なシェアリングビジネスブームもあり、確実に「行」におけるシェア意識が高まっている。配車アプリが起爆剤となって、近年、自動車のみならず、自転車シェアリングサービスを提供するベンチャーも現れている。16年9月には滴滴出行が自転車シェアリングの「ofo(共享単車)」に数千万ドルを出資した。ofoは14年に設立されたばかり。短距離での移動問題の解決というビジョンを掲げ、投融資を積極的に取り入れながら、都市部を中心にサービスを展開し、急成長を遂げている。
これは滴滴出行がもたらした影響ともいえるが、滴滴出行とofoがどこまで初志を貫くか、市場をさらに広げられるか、今後の事業戦略が問われている。
【著者プロフィール】
富士通総研 経済研究所 上級研究員
趙瑋琳(チョウ・イーリン)
(2017/1/25 05:00)