[ トピックス ]

深層断面/相場・市況、“神経戦”の様相 米軍事行動に緊張高まる

(2017/4/17 05:00)

《シリア・北朝鮮が影》

  • 6日、シリアへの軍事行動についての声明を発表するトランプ大統領(AFP=時事)

地政学リスクの増大が市場に影を落としている。米国がシリア攻撃に加え北朝鮮への圧力を強化。16日には北朝鮮が失敗したとはいえミサイルを発射するなど緊張が高まっている。すでに先週末の東京株式市場の株価は年初来安値を更新し、為替も5カ月ぶりの円高を記録。原油価格も産油国の減産で1バレル=50ドル台を超えてきた。当面は神経質な相場が続きそうだ。

(編集委員・関口和利、編集委員・池田勝敏、杉浦武士)

【株価/3日連続の年初来安値・「調整局面」地政学リスク重し】

  • 14日の日経平均株価終値

日経平均株価は3月13日に年初来最高値の1万9633円を記録後、下落基調に突入。市場では“トランプ相場”はピークを終え、4月末まで株価の調整が続くとの見方が出ている。14日の日経平均の終値は1万8335円63銭と、3日連続で年初来最安値を更新した。シリアや北朝鮮をめぐる地政学リスクの高まりや、軟調な米株式市場の影響が響き、調整局面を迎えている。

日本の株式市場に大きな影響を与えるニューヨーク株式市場のダウ平均株価も3月1日に史上最高値の2万1000ドル超えの後、やはり調整局面に突入。みずほ証券エクイティ調査部の三浦豊シニアテクニカルアナリストは「米トランプ政権の政策能力への疑問が市場に生じている」という。

トランプ米大統領は3月に医療保険制度改革法(オバマケア)の代替案を撤回するなど、掲げてきた政策が早くも挫折。これを受け目玉政策である減税やインフラ投資1兆ドルの政策目標への疑念も再浮上し、米株式市場の軟調な状況が続く。

市場ではダウ平均株価が2万500ドルを下回り、当面は1万9800―2万ドルが下値ラインになるとの見方もある。

この軟調な地合いに、中東と朝鮮半島という二つの地政学リスクが重なる。すでにリスクを嫌った投資家が安全資産である円を買う動きが進み、日本経済をけん引してきた輸出関連企業の株を中心に売られる傾向が出ている。当面の日経平均株価の下値のボーダーは1万8000円前後との予想もある。

地政学リスクは「折に触れて出てくるリスクで、相場の重しとなる」(同)。国際情勢の緊張が長期化すれば、株式市場の上値を抑えて景気に影響を与える恐れもありそうだ。

【為替/米大統領「ドル強すぎる」・円高進行、輸出企業の収益圧迫】

  • 海上自衛隊の護衛艦と共に東シナ海を航行する米原子力空母カール・ビンソン=3月9日、米海軍提供(AFP=時事)

トランプ米大統領は12日(現地時間)に「ドルは強すぎる」とし、中国や日本といった対米貿易黒字国をけん制した。14日(同)に米財務省が公表した外国為替報告書では新たな為替操作国認定こそなかったが、日本は中韓台独、スイスとともに監視を継続。日本への圧力を強めそうだ。さらに16日の北朝鮮によるミサイル発射で地政学リスクが高まり、為替相場への影響は避けられそうもない。

為替相場は先週、5カ月ぶりに1ドル=108円台まで円高が進行。日銀による3月の企業短期経済観測調査(短観)の2017年度の大企業・製造業の想定為替レートは1ドル=108円43銭で、円高が進めば輸出企業の収益圧迫要因になる。

為替相場について「米国が経済をどう引っ張るかによる」と指摘するのは三菱UFJ信託銀行の酒井聡彦事業法人営業課長。トランプ氏の政策実行力に注目する。3月のオバマケア代替案の取り下げは、トランプ政権への失望売りを招いた。だが政治任命職が揃っていない同政権は本格稼働していない。「米経済の基調は強く、市場は政策を実行できないリスクを織り込んでいる。政権が稼働すれば修正されるだろう」(酒井氏)と円安ドル高方向に進むとみる。

三井住友アセットマネジメントの石山仁チーフストラテジストも「秋に新年度予算でインフラ投資や減税の経済政策が具体化する可能性がある」と今後の動向に注目。足元の経済は底堅く、米連邦準備銀行(FRB)の利上げで金利上昇圧力もかかる。中期的には円安方向との見方だ。

だが、予測できないのが中東や朝鮮半島情勢の行方。石山氏は「先が見えないときは円が買われ、円高圧力がかかるだろう」という。情勢の緊迫化は安全資産である円買いを招き、企業業績に影響を与える可能性もある。

【原油/「減産合意」高水準で推移・中東リスクより受給動向】

  • 7日、地中海上の米ミサイル駆逐艦からシリアに向けて発射された巡航ミサイル(EPA=時事)

代表的な原油指標のニューヨーク商業取引所(NYMEX)の米国産標準油種(WTI)の価格は足元で1バレル当たり50ドル台と、3月後半の安値から1割以上上昇した。2016年初頭に比べると、2倍ほど高い水準で推移している。昨年末に石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど主要産油国が昨年末に合意した減産が守られているとの市場の見方が価格を支えている。

さらにここにきて浮上した中東リスクが相場を押し上げた。米軍は4月6日(米国時間)にシリアの空軍基地などに対して巡航ミサイルを発射。中東情勢が緊迫化するとの懸念が市場で高まり、原油価格は上昇した。

中東での軍事行動が原油の供給を阻害することになれば、さらに価格が上昇する可能性もあるが、「(原油供給に)直接的な障害が起こる可能性は低い」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部の芥田知至主任研究員)との見方が多い。

野村証券の大脇絵里エコノミストは、「市場参加者は(シリア情勢より)原油の需給動向を重要視している。米国の原油在庫や産油国の減産状況の方が価格へ影響を及ぼしやすい」と指摘する。

現時点で市場が注視するのは、5月下旬のOPEC総会で7月以降の減産継続が決められるかだ。すでにOPECの盟主であるサウジアラビアは減産継続の意向をOPEC当局者らに示しているもようだ。

一方、原油相場の回復を受けて、協調減産の対象外である米国産シェールオイルが増産傾向にあることが相場の弱材料となっている。このため「夏場のガソリン需要期に向け原油相場は上昇しやすくなるが、上値は限られる」(芥田氏)との指摘が出ている。

(2017/4/17 05:00)

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