[ オピニオン ]

【電子版】デジタル編集部から(45)顧客の事業変革を支援する「ワトソン」、IBMを変える

(2017/5/1 05:00)

  • 講演する日本IBMのエリー・キーナン社長(日本IBM提供)

IBMの「ワトソン」をご存知の方は多いでしょう。2011年に米国のクイズ番組で人間のチャンピオンに勝利したことで一気に知名度が広がり、それ以来、IBMの看板商品とも言える存在となっています。

「今年は日本IBMにとって設立から80周年を迎える特別な年。昨年はAI(人工知能)とは何か、コグニティブ(認知機能)とは何かに焦点を当てていたが、2017年はAI、コグニティブをいかにビジネスや社会で実践していくかにテーマを据える」。

4月27日、28日の2日間にわたって日本IBMが都内で開催した「ワトソン・サミット2017」では、4月1日に日本法人の社長に就任したばかりのエリー・キーナン氏が登場。ワトソンとIBMクラウドによって、顧客企業の事業変革や社会変革の推進に全力を挙げていくことをあらためて宣言しました。

キーナン社長によれば、16年に医療やビジネスを通してワトソンと関わった人は全世界で4億人以上。それが17年には2.5倍の10億人以上に及ぶと見込まれ、世界に500社以上あり「エコシステムパートナー」と言われるワトソン関連の協力企業の数も「増加が加速している」とのこと。日本では40余りの業種で合計数百社がワトソンを業務に採り入れているといいます。

その効果については、世界中で合計3億ページにも上る金融分野などでの規制文書をワトソンが読み込み、顧客の企業にコンプライアンス(法令順守)を徹底させることで合計1500億ドル以上に相当する罰金を未然に防ぐ効果を上げたほか、ヘルスケア分野では東京大学医科学研究所で昨年あったワトソンによる病名診断が有名になりました。分子生物学・医学関連で2000万件もの大量の論文をワトソンが学習し、60代の患者の遺伝子変異を突き止めることで特殊な白血病の診断につながり、人命が救われたという事例です。

  • 米IBMのアーヴィン・クリシュナ・シニアバイスプレジデント兼IBMリサーチディレクター

さらに、「見る、聞く、感じる、読む」というワトソンのコグニティブ能力は、色の識別機能の向上で、ほくろと悪性皮膚がんである黒色腫の区別を95%の精度で判別でき、皮膚科による診断の平均を上回っているといいます。ヘルスケア関係について、米IBMのアーヴィン・クリシュナ・シニアバイスプレジデント兼IBMリサーチディレクターは、「16年には1万人のがんの診断にワトソン・ヘルスケアが使われた」と明かしました。

人間の会話の理解度についても、人間が会話で単語を聞きもらす割合が5%と言われるのに対し、ワトソンのエラー率は5.5%。「ほぼ人と同等レベル」とキーナン社長は強調し、自然言語処理によるコールセンター業務で、エンドユーザーの質問に回答するプロセスを10倍効率化できた、といった成果が国内企業から報告されました。言語は日本語を含め12言語に対応。インターネットトラフィックの90%をカバーできるということです。

とりわけキーナン社長が胸を張ったのが、元ハーバード・ビジネス・レビューの編集者らが立ち上げた米ファスト・カンパニー・マガジンによる「2017年版 世界で最も革新的な企業50社」のランキング。ここでIBMは21位でしたが、キーナン社長お気に入りの選考理由が、ヘルスケア、ビジネスプロセス、セキュリティーなど「最も必要とされている部分にワトソンを組み込んでいること」。その上で、「顧客システムの中核にコグニティブを据えながら、業種に特化した機能を提供することが成功要因の一つとなっている」と説明しました。

一方で、米IBMのクリシュナ氏は、「AI、コグニティブの原動力はデータ。現在では毎日2.5エクサバイト(エクサは100京)ものデータが生成され、世界中のデータの90%はこの2年間で作られた。科学論文も9年ごとに倍増している」とデータの爆発的な増加に触れ、「急増するデータを活用していくためには、AIが唯一の解決策だ」と言います。

データ爆発と事業変革などの要請から、企業のAI活用は今後も加速していくことでしょう。それと同時に、ワトソン、クラウド、アナリティクスなど、現在、総売上高の約40%を占める戦略事業で「今後も2けた成長が見込まれる」(クリシュナ氏)ことから、IBMにとっても「ワトソン+クラウド」が経営を支える原動力となっていくようです。

(デジタル編集部・藤元正)

(2017/5/1 05:00)

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