[ オピニオン ]
(2017/5/4 05:00)
中国の唐時代の高級官僚だった王維は詩人として名高い。中でも『元二(げんじ)の安西に使いするを送る』の一節「西の方、陽関を出ずれば故人無からん」は、漢詩に興味のない人にも広く知られる。
友人である元家の次男が西域の砂漠地帯に派遣された。首都・長安の玄関口である渭(い)城で別れの宴を開いた翌朝、しっとりと降った雨が砂ぼこりを洗い流す。柳の若葉の青さを目にしながら友にさらに一杯の酒を勧める。
春は黄砂の季節。寒気が緩み、砂漠のわずかな雪や氷が蒸発して細かな砂が舞い上がる。それが偏西風に乗り、数日かけて海を隔てた日本にまで届く。西域に近い関中盆地に位置する長安ならずとも、砂塵(さじん)を潤す雨に清々(すがすが)しさを感じる。
春は旅立ちの季節でもある。古代中国では「柳」は「留」に通じ、別れがたい思いを表す。そうした含意を知らずとも、この詩が現代日本でよく引用されるのは、時と場所を超えて友の無事を祈る心情が通じるからだ。王維は留学生として唐王朝に仕えた阿倍仲麻呂の日本帰国に際しても詩を贈り「(君の)主人は孤島の中」と詠じている。
明日は立夏。季節の変わり目で体調を崩せば、知る人もない遠方への出張もままならない。皆さま、ご自愛のほどを。
(2017/5/4 05:00)