[ 機械 ]
(2017/5/10 05:00)
7月に創業100周年を迎える常石造船(広島県福山市)が、バルクキャリア(ばら積み貨物船)中心の“一本足打法”からの転換を模索している。造船市場低迷の逆風で、2016年の受注隻数は大幅減を強いられた。苦境からの打開策を、タンカーやコンテナ船など建造船種の多角化に見いだす。
(福山支局長・林武志)
「バルクキャリアの歴史的な低迷」と、河野健二社長は嘆く。世界的な過剰船腹や船価下落、環境規制前の駆け込み反動減などを受け、同社の受注隻数は15年の71隻が、16年は8隻に急落した。常石が扱う船種はバルクキャリアだけで96%を占めるため、“荒波”に飲み込まれやすい。
そこで常石は「他船種に挑戦する」(河野社長)。23年にはバルクキャリア40%、タンカー30%、コンテナ船20%、残りの10%は漁船や客船などの構成にし、船種を多角化する「プロダクトミックス」にかじを切る。
現在、常石は実質的に初となる総トン数3200トンの客船「ガンツウ」を建造中だ。ただ、三菱重工業が総トン数十万トン以上の大型客船で多額損失を計上し、中小型客船に絞る方針を示したばかり。客船事業は悩ましい環境下にあるとも言える。
河野社長は「どういったコンセプトの客船が望まれるのかを調査している。(建造する場合は)4万―5万トンまでの中小の客船」と、大手造船を含む“ライバル”ひしめく土俵で勝負する構えだ。
経営基盤強化では、取り扱い船種増に加え、海外でのシップリユースを挙げる。河野社長は「船は使い終われば解体するが、機材や鉄板など、90%以上は再利用できる。リユース事業をフィリピンで17年中をめどに立ち上げたい」意向だ。
設計人員は現在、フィリピン約450人、中国約250人で、日本を合わせて計900人体制。基盤固めのため、「フィリピンで数百人増員する」(河野社長)という。
常石造船は、ツネイシホールディングス(HD)の中核会社。常石グループが祖業とする海運市況の低迷もあり、造船業界は資本提携や事業統合などの再編機運が高まる。河野社長は「他社との具体的な話はない」と断言した上で、海外でも建造することなどを踏まえて、当面独自路線を歩み続ける覚悟だ。
造船事業は100年かけて築いた。同社は今、バルクキャリアに特化して築いた地位を捨ててまで、活路を見いだそうと決意している。この答えは遠くない将来、成果として示される。
(2017/5/10 05:00)