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(2017/5/31 05:00)
模倣を脱し、イノベーション都市へ
振り返ってみれば、1978年に中国で「改革・開放」政策がスタートした時、香港の隣に位置する深センは小さな漁村にすぎなかった。79年に鄧小平氏の音頭で経済特区として指定された深センは、「改革・開放」を追い風に飛躍的な発展を遂げ、わずか30数年で北京、上海、広州に次ぐ4番目の重要なメガシティー(人口1000万人以上の都市)へと大きく変貌した。
深センは80年代以降、外資を誘致し、労働集約的な「両頭在外」(原材料の調達先も加工品の販売先も海外に依存)方式で、「世界の工場」としての地位を築き上げた。そして、90年代後半からは「山寨」(模倣、パクリの意味)携帯をはじめ、電子製品の模倣が活発に行われ、「山寨」電子製品の街として知られるようになった。2000年代に入ると、深センはこれまでの発展で整備された産業基盤をベースに、イミテーションから積極的に姿勢を転換してイノベーションを追い求めるようになり、山寨都市からの脱皮に成功した。
現在、深センを拠点として活動している中国の企業は多数ある(表参照)。世界でも名高いのが、情報通信企業であるファーウェイ(Huawei、華為)とZTE(中興)だ。このほか、9億人超のユーザーを擁するメッセンジャーアプリ「Wechat(ウィーチャット)」を開発したテンセント(騰訊)など、枚挙にいとまがない。
14年の深センの域内総生産(GRP)に占める研究開発(R&D)支出は約4%で、全国平均の2倍に達している。ファーウェイのように売上高の約15%をR&D(15年の売上高は3950億元で、R&D支出は596億元)に投入するリード企業の存在が大きい。15年の国際特許出願件数では、ファーウェイが世界1位、ZTEが3位を占めている。企業の技術力の向上が顕著で、イノベーションで生み出した高付加価値の製品やサービスの提供を目指す企業が増えている。
『中国モノマネ工場』(日経BP社、11年)の著者の阿甘氏は、「一時の模倣はコピー、普遍の模倣は革命」と繰り返し訴える。また米国の学者であるカル・ラウスティアラ、クリストファー・スプリグマン両氏は、ファッションや音楽、食などの分野の検証を用いて、模倣が創造性を促進すると論証した(『パクリ経済―コピーはイノベーションを刺激する』、みすず書房、15年)。幸い、深センは普遍の模倣という山寨革命から始まり、進化を遂げ続けている。深センの成長は、まさに模倣がイノベーションを刺激する好例であることを示している。
(隔週水曜日に掲載)
【著者プロフィール】
富士通総研 経済研究所 上級研究員
趙瑋琳(チョウ・イーリン)
79年中国遼寧省生まれ。08年東工大院社会理工学研究科修了(博士〈学術〉)、早大商学学術院総合研究所を経て、12年9月より現職。現在、ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、静岡県立大グローバル地域センター中国問題研究会メンバー、麗澤大オープンカレッジ講師などを兼任。都市化問題、地域、イノベーションなどのフィールドから中国経済・社会を研究。論文に『中国の「双創」ブームを考える』『中国の都市化―加速、変容と期待』『イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ』など。
(2017/5/31 05:00)