[ オピニオン ]
(2017/6/26 05:00)
インターネットでつながるコネクテッドカーや自動運転車の時代が間近に迫ってきました。そこで、センサーや制御、人工知能(AI)以外に技術面でカギとなるのがサイバーセキュリティー対策。このところ自動車専門のサイバーセキュリティー企業として急成長しているイスラエルのアルグス・サイバー・セキュリティー(Argus Cyber Security)のオファー・ベンヌーン(Ofer Ben-Noon)共同創業者兼CEOに、車をめぐるセキュリティーの現状と今後の展望などを聞いてみました。
まず、車のサイバーセキュリティーを取り巻く状況について。「現時点で道路を走っている大半の車は、サイバーセキュリティーの面で十分に安全とは言えない」とベンヌーン氏は注意を促します。そういえば、2015年には米国で、「ジープ・グランドチェロキー」が走行中に無線回線を通してハッキング可能なことを指摘する映像が公開され、140万台がリコールに追い込まれたのは記憶に新しいところ。
「最近では毎月のように車がハッキングされており、車メーカー、ティア1などから、我々のチームに対して侵入(ペネトレーション)テストやリスク評価といったコンサルティングの依頼が頻繁に寄せられている。しかも、リサーチチームによる侵入テストでは、それほど長い時間がかからずに実行できてしまう」
ベンヌーン氏はこう現状に懸念を示しつつ、「将来に向けて状況を変えていかなくてはならない」と力を込める。そのために、技術開発に加えて、各社とアライアンスを組んだり、自動車業界でのセキュリティー認識向上のための独自の取り組みを行っていると言います。
例えば、4月にドイツの自動車部品大手、ボッシュと共同で発表した案件。ボッシュが製造しドイツ国内で提供する「ドライブログ・コネクター」という走行記録のための小型機器(ドングル)と、その本人認証手続きにセキュリティー上の弱点があることをアルグスが発見し、ボッシュに通知。これにより、ボッシュが素早く対応策を取ることができたという内容です。
通常は先方からの依頼を受け、秘密保持契約を結んだ上で車やその構成ユニットに対しハッキングテストを実行するわけですが、時にはボッシュの事例のように、「研究チームが空き時間を利用し、依頼されたプロジェクト以外の取り組みとして自主的に行う」ものもあるとのこと。こうした取り組みは、個別システムのセキュリティー対策にとどまらず、業界全体の意識向上や、何より自社のPRにもつながるのは間違い無いでしょう。
アルグスは2013年の設立と歴史は浅いものの、独立系の自動車サイバーセキュリティー企業としては最大手。インフォテインメントシステムから電子制御ユニット(ECU)、車載ネットサーク、外部のクラウドとのやりとりに至るまで、異常をいち早く検知し、防御する技術サービスを提供しています。
中でも、昨年11月には「ECU指紋認証」技術を公表。誤って、あるいは不正にECUから発信されたメッセージを特定・追跡できる初めての技術で、車にサイバー攻撃を仕掛けづらくなるということです。こうしたことから、2016年にはイスラエルでIoT分野のベスト企業に、さらには17年の最もイノベーティブな企業にも選定されています。では、そもそも、こうした競争力の源泉は何なのでしょうか。
この質問に対し、ベンヌーンCEOからは「ベストなエンジニアを雇用していること」とのシンプルな答え。サイバーセキュリティーに強みを持つイスラエル企業が多いことは有名ですが、その人材輩出源となっているのがイスラエル最大のサイバー部隊である国防軍8200インテリジェンス部隊です。同CEOを含め、「現在40人のエンジニアが同部隊の出身」といい、それに加えてFCAやGM、ダイムラーといった自動車業界からも人材を雇い入れているとのこと。
一方、アライアンスという観点では、米クアルコム、独インフィニオン、スイスのSTマイクロエレクトロニクスといった車載半導体メーカーと相次ぎ協業を果たしています。ただし、日本のルネサスにコンタクトしているかについては、「コメントできない」と回答を控えました。
さらに、イスラエルの車載カメラシステムメーカー、モービルアイを153億ドルで買収し、BMWと組んで自動運転関連に力を入れる米インテルについては「重要なパートナー」との位置付け。今年初めに米ラスベガスで開催されたCESやスペイン・バルセロナのモバイル・ワールド・コングレス(MWC)でも、インテルと共同でデモ展示を行ったとのこと。インテル傘下で組み込み用リアルタイムOSを手がける米ウインドリバーとも連携しています。
実は資本関係という意味では、カナダの自動車部品大手マグナや、日本のSBIも株主に。「自分の仕事は、将来のアルグスにとってどの会社がベストパートナーかを考えること。日本市場は当社にとって非常に重要であり、日本に株主として戦略的なパートナー候補がほかにいれば、前向きに検討したい」
その上で、ベンヌーンCEOは「2022年か23年までには、どの車にもアルグスの技術が導入され、サイバー攻撃から車業界を守るようにしたい」とのビジョンを語り、先進運転支援システム(ADAS)やコネクテッドカー、そして自動運転車のセキュリティーの未来を自分たちが守っていくことを強調しました。
(デジタル編集部・藤元正)
(2017/6/26 05:00)