[ 機械 ]
(2017/7/3 05:00)
開発や製造の実験を仮想的に実施する「バーチャルパラメータ設計(VPD)」が自動車や電機、機械の主要メーカーに広がり始めた。品質工学会が6月下旬に東京都内で開いた「第25回研究発表大会」の成果でも、マツダがプレス成形の精度向上に適用し、コニカミノルタと松浦機械製作所(福井市)も新たな事例を試みた。VPDで実験の膨大なコストや時間を減らし、競争力を抜本的に高める機運が生じている。(大阪・田井茂)
【新しい手法】
VPDは開発や製造の良しあしを効率よく評価する品質工学の新しい手法。品質工学では通常、試作での実験と固有の計算で形状や材質など設計要素の最適解を割り出す。これに対しVPDは実験せず、技術者が推定で要素に点数を付けて計算し、最適解を求める。
自動車のパネル部品を金型によるプレスで高精度成形するVPDに挑んだのはマツダ。成形、製作、設計の技術者9人が実施した結果、VPDの最適解による精度改善効果は、プレス実機による確認実験とほぼ一致した。
【検証費85%削減】
ツーリング製作部の長澄徹侍氏は「実験の検証コストを85%削減でき、コンピューター利用解析による予測と実機の精度一致も向上した。要素の選択にはビッグデータ解析も活用した」と説明する。
複写機の機構設計ですでにVPDを実践したコニカミノルタは、インクを転写する感光体の機能低下を抑える設計向上を新たなテーマとした。感光体開発と品質工学の経験がある6人による最適解では、実物の感光体の感度を高められることが分かった。情報機器開発本部の倉地雅彦氏は「通常の実験は13日間かかるが、VPDでは4日間ですんだ。材料や化学の分野でも有効と考える」と説く。
【良否を評価】
高速・高精度マシニングセンター(MC)を得意とする松浦機械製作所もVPDを試しており、MCの切りくず排出装置の組み立て作業を新テーマに選んだ。若手14人を含む26人が参加する大規模なVPDで、経験の乏しい若手は推定が難しいため、点数付けも作業改善の推定数値もばらついた。生産本部の青木規泰氏は「若手の能力を評価でき、よいトレーニングにもなった。工作機械の組み立ての良否を評価できる技術開発に結びつけたい」と意欲を示す。
VPDには技術者の能力やセンスが求められ、確認実験と必ずしも一致しないため「発展途上のツール」(青木氏)ともみられる。しかし自動車メーカーなどの挑戦も加わり、評価技術を革新的に効率化するツールに発展する可能性を秘める。
(2017/7/3 05:00)