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[ 自動車・輸送機 ]
(2017/8/14 05:00)
自動車の電動化に向けた流れが急加速している。英国とフランスがガソリン車などの将来の国内販売を禁止するほか、世界最大市場の中国も自動車の環境規制を強化して電動化を促す方針。完成車メーカーにとっては将来の成長に向けて、電気自動車(EV)などの電動車両への戦略転換が喫緊の課題となっている。
(土井俊)
≪トヨタ、マツダと混成チーム−“ブランドの味”出せるか≫
【危機感あらわ】
「海図なき戦いが始まっている」。トヨタ自動車の豊田章男社長は、世界で広がる電動化シフトの動きをはじめ、自動運転やコネクテッドカー(つながる車)などのIT化、それに伴う米グーグルなど異業種との競争など、自動車産業で起きている変化について危機感をあらわにする。
トヨタとマツダは4日、資本業務提携を発表した。提携の中身は、米国での新工場の共同建設からEVの共同技術開発、コネクテッドカーや先進安全分野での連携など豊富な“メニュー”が並ぶが、特に注目すべき項目がEV分野における協業だ。
両社で、軽自動車から小型トラックまで幅広い車種のEV用プラットフォームを共同開発し、それぞれの車両開発に活用する。トヨタは2016年12月に「EV事業企画室」を設置し、EVの事業化に本格的にとりかかっているが、今後はマツダとも混成チームを結成して開発を進める方針だ。また米国で共同建設する新工場でのEV生産も「時期が来れば検討する可能性もある」(豊田社長)とした。
豊田社長はEV開発について「EVはどんな形をしていても特長を出しづらく、ブランドの味を出すことがメーカーにとって大きな挑戦」と位置づける。マツダの小飼雅道社長社長は「EVは規制を含めて将来の予測が難しい。そうした変動に柔軟に対応できる体制を、協業によって準備したい」と語った。
両社がEV分野で協業に踏み込んだ背景には、世界的な環境規制の変化と、それに伴う競合他社の電動化戦略の加速がある。
英国とフランスの両政府は7月に、ガソリン車とディーゼル車の国内販売を40年までに禁止する方針を表明。成長著しいインドでも、30年までに国内で販売されるすべての自動車をEVのみとする政策を打ち出している。充電ステーションの整備や電力供給など実現に向けた課題はあるものの、「脱化石燃料車」により大気汚染問題の解決や温室効果ガス削減につなげる狙いだ。
また中国では完成車メーカーは、早ければ18年にもEVやプラグインハイブリッド車(PHV)など電動車の一定割合の販売が義務づけられるほか、米国カリフォルニア州では排ガスゼロの環境車からHVが今後除外される。メーカーにとっては、EVを中心とする電動車両の開発・導入が避けられない状況となってきている。
≪開発競争、市場成長の追い風にも≫
【強まるシフト】
そんな中で思い切って電動分野に舵(かじ)を切ったのが、スウェーデンのボルボ・カーズ。同社は7月、内燃機関のみの車両生産を19年までに終了し、それ以降に発売するすべての商品をEVやPHVなどの電動車両にすると宣言した。
現在は電動車両商品としてはPHVのみだが、19―21年に5モデルのEVを発売する予定だ。ホーカン・サムエルソン社長は「内燃機関のみで走る車の終焉(しゅうえん)を告げるものだ」と力を込め、電動車両を将来の事業の柱に据える。
ドイツ勢もEVシフトを強めている。中でもフォルクスワーゲン(VW)は、25年までに30車種以上のEV投入と販売台数で最大300万台という野心的な目標を掲げ、その内25%をEVが占める計画だ。BMWとダイムラーも、25年までに販売台数の最大25%をEVなど電動車に置き換える。
またEV専業メーカーの米テスラは、新型EV「モデル3」の生産を7月から開始した。価格を3万5000ドルと従来車種の半分以下に抑えた。これまで高級路線を走っていた同社だが、求めやすい価格帯の車種の投入により、今後拡大するEV需要を取り込む考えだ。
こうした世界的な環境規制の変化とメーカー間の開発競争が進むことは、EV市場の成長の追い風にもなり得る。
≪ゴーン日産会長「パイオニアの座を強固に」≫
【27万台の実績】
日産自動車の田川丈二常務執行役員は、「今までスローだったEVの販売が今後どこかで加速する」と期待する。各メーカーのEVが市場に出回れば、消費者が抱える航続距離などへの不安が払拭(ふっしょく)され、サプライヤーなどのコスト低減にもつながると予想されるからだ。
日産はEV「リーフ」を10年に発売し、これまでに世界で27万台以上の販売実績を持つ。また資本提携する仏ルノーと三菱自動車を合わせた累計のEV販売台数は46万台と、米テスラの2倍に相当する。17年中には新型リーフを投入する予定。自動運転機能などの先進技術を搭載することを決めており、航続距離も約400キロメートルに伸びると予想される。
さらに電動駆動技術「eパワー」の採用車種の拡充や、三菱自のプラグインハイブリッド車(PHV)技術を用いた車両開発も進める。日産自動車などの会長を務めるカルロス・ゴーン氏は、「電動化のパイオニアの座を強固にする」と意気込む。
【中国で専用EV】
ホンダも電動化の商品群を広げる。同社は30年に世界販売台数の3分の2を、EVやPHVなどの電動車両に置き換える方針。17年中に米国でEVとPHVを加えるほか、18年には中国で専用EVを投入する予定。八郷隆弘社長は中国向けEVについて、「我々の強みである制御技術を開発に生かす。乗ってすぐにホンダとわかるようなスポーティーなEVにしたい」と力を込める。
富士経済の調べによると、EVの世界市場は35年には現在比13・4倍の630万台に拡大する見通し。市場の成長が見込まれる中、機能や性能面などでメーカー独自の味付けがされたEVの登場が期待される。
(2017/8/14 05:00)