[ ICT ]
(2017/9/8 05:00)
人工知能(AI)技術の普及に向けた勢力争いで、「アマゾン・ドット・コム&マイクロソフトVS. グーグル」の対立構図が見えてきた。
アマゾンとマイクロソフトがAIで提携
このところ、ますます注目度が高まっているAI技術。IT関連ベンダーでその研究開発の最先端を走っていると見られているのが、米国のグーグル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コムだ。3社ともコンシューマーからビジネス向けまで幅広い用途に向けたAI技術の開発および活用に注力しているのが共通点だ。
そんな中、アマゾンとマイクロソフトがAIを使った音声認識技術の活用分野で提携すると発表した。具体的には、年内に会話型AIであるアマゾンの「アレクサ」とマイクロソフトの「コルタナ」を相互に連携させて使えるようにするとしている。
例えば、アレクサの利用者は、アレクサを搭載したアマゾンのAIスピーカー「エコー」に話しかけて指示を出すと、コルタナのスケジュール管理などの機能を利用できる。一方、コルタナの利用者は、Windows 10搭載端末でコルタナを呼び出して指示を出すと、ショッピングサイトで買い物したりできるという。(写真参照)
このように、アレクサとコルタナにはそれぞれに得意分野があることから、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは提携発表に向けて「お互いに補完し、顧客によりよい体験を提供する」とコメント。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOも「コルタナをどんな端末でも利用できるようにする」と述べた。
ソニーとパナソニックがグーグルのAIを採用
一方で、こんな動きもあった。ソニーとパナソニックが会話型AIを搭載した家庭用スピーカーを今秋から冬にかけてそれぞれ発売すると発表。その会話型AIにグーグルの「グーグルアシスタント」を採用することを明言したのだ。アマゾンとマイクロソフトの提携は、こうしたグーグルの勢いへの対抗策とも見て取れる。
グーグルがAI技術で最先端を走っているのは、何と言っても情報検索によって得られる膨大なデータをAIの高度化に生かせるからだ。その意味では、巨大な顧客基盤を持つアマゾンやマイクロソフトも同じことが言えるが、両社にとってグーグルは、AI技術においては脅威の存在となっている。
以上は、コンシューマー向けのAIスピーカーをめぐる話だが、ビジネス向けでも「アマゾン&マイクロソフトVS. グーグル」の対立構図は変わらないというのが、これまで3社それぞれのAIへの取り組みを取材してきた筆者の印象である。
ビジネス向けでこの3社の対立構図にもう1社入り込んで来るとすればIBMだろう。IBMが推進する「ワトソン」は、3社とはビジネスの仕方が異なるが、果たして“三つ巴”の戦いに持ち込むことができるか。
アマゾン、マイクロソフト、グーグルの3社は、クラウドサービスでも「ビッグ3」と言われる存在だ。大量のデータ処理を伴うAIにとって、クラウド環境は必須である。その意味でも3社にはAIを高度化するケイパビリティーが備わっている。
さて、今後のAIの勢力争いは「アマゾン&マイクロソフトVS. グーグル」の対立構図が一層鮮明になっていくのか。それとも群雄割拠の大混戦になっていくのか。注目しておきたい。
(隔週金曜日に掲載)
【著者プロフィール】
松岡 功(まつおか・いさお)
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT」の3分野をテーマに、複数のメディアでコラムや解説記事を執筆中。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌の編集長を歴任後、フリーに。危機管理コンサルティング会社が行うメディアトレーニングのアドバイザーも務める。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年生まれ、大阪府出身。
(2017/9/8 05:00)