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(2017/9/15 05:00)
第4次産業革命が目指す「コネクティッド・イノベーション」
ドイツ科学技術アカデミーの報告書では、第4次産業革命が目指す姿として、①バリューチェーンの水平統合②垂直統合と製造システムのネットワーク化③エンド・トゥ・エンドのエンジニアリングチェーンという、3つの軸による「コネクティッド・イノベーション」が提言されている。
「バリューチェーンの水平統合」とは、企業・国境を超え、緊密な国際分業体制を実現するネットワークの統合を意味している。製品設計領域をアウトソースするESO(エンジニアリングサービスアウトソーシング)のように、緊密な工程間分業体制を国境や企業を越えて実現することである。
「垂直統合と製造システムのネットワーク化」は理解が難しい概念である。グローバルに展開する工場のデータをリアルタイムで収集、同時に共通の知識データベースを提供して、未熟練工でも熟練工と同等のパフォーマンスを示せるようにすることが狙いである。単に設備の予兆保全だけを意図しているわけではない。イメージとしては、“スマートなマザー工場”と考えると、少しわかりやすいのではないだろうか。
海外に多数の関連工場が稼働していることをイメージして欲しい。各現場では、日々さまざまな問題などが発生する(例えば設備の瞬時停止)。基本的に、まずは現場でこうした問題に対処することは現状と変わらない。しかし、ここでは問題発生の検出、問題の発生原因や対応方法の選択肢等が、あらかじめデジタル化された知識データベースにより提示される。世界中の工場は常に最新の知識データベースを参照することができる、という仕組みである。
また、過去に発生していない問題が初めて発生した、またはいったん問題を解決した場合でもある一定周期で同様の問題が繰り返されるという現象が発生した場合に、中枢のマザー工場へいつでも問い合わせができ、その中枢のマザー工場は、問題解決に即応できる仕組みを構築するというイメージである。マザー工場の支援の結果、解決された問題や新たな有効な解決策が知識データベースに反映される。
「エンド・トゥ・エンドのエンジニアリングチェーン」は、製品の企画、開発、生産準備(調達、生産加工、設備、ライン、工場)、製造、アフターマーケットのサービスまでを含む、いわゆる生産供給プロセス全体をエンジニアリングチェーンとして統合し、これらの活動を全てデジタル空間でフロントローディングしていくことを目指している。まさに製造業のデジタライゼーションのコア部分である。
第4次産業革命の経営効果は単なる原価削減ではない。企業の知識、ノウハウなどの目に見えない知的資産をデジタル空間に資産化し、スケーラブルに世界中に移転できるようにするということである。第4産業革命は、上記3つの軸による「コネクティッド・イノベーション」を実現する。この結果、世界中どこでもある程度の水準までは容易に技術移転でき、かつグローバルな協働作業が容易にできるようになる。さらに、M&Aの後の大きな課題である技術の移植、PMI(ポストマージャーインテグレーション)も円滑になる。
欧米の先進的製造業と比較した際の日本の製造業の比較的共通の弱点の一つは、日本国内で培った匠の技 “生産技術・ノウハウ等”を海外へ円滑に移転することが容易ではないことである。特に、納品先の大手企業の工場の海外展開が進展している現在、中堅企業の海外展開のハードルが下がる効果はマクロ的にみても大きい。さらに、M&Aの生産性向上は、経営戦略的にも極めて重要であるし、このことこそ、内外の投資家が待ち望んでいるものでもある。
一方、日本での報道のされ方は、ともすると①が「EDI(電子データ交換)による受発注ネットワーク」、②が「工場内の設備の瞬時停止阻止のためのデータ管理」、③は「3DCADと3Dプリンターの連携による試作段階での効率化」というものが多い。これでは、第4次産業革命が目指す姿には遠いのである。
(隔週金曜日に掲載)
【著者紹介】
(2017/9/15 05:00)