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(2017/10/13 05:00)
衆議院選挙である。筆者は日本の現在の閉塞を打破するためには、産業政策として「IoT・第4次産業革命」の推進が重要と考えている。
内部留保が350兆円にも関わらず投資をしない日本企業
日本企業の投資が過小であることがマクロ的に問題となっている。理由は2つ。まず、日本企業が“現場力”に依存しすぎている結果、事業のスケーラビリティに乏しく投資生産性が低いこと。また、日本企業が限界費用0(ゼロ)の経営資源であるソフトウェアを中心としたスケーラブルで、かつグローバルに通用するビジネスシステムへの投資という発想に乏しいことである。これは「優れた現場力を活用した、いわゆる“成功の逆襲”」も要因の1つとなっていると考えられる。
グローバルに通用するビジネスシステムへの投資が効果的
海外企業にみられるように、本格的なビジネスシステムへ投資を行えば、海外展開のハードルが下がり、M&A後の円滑な技術移転等(PMI:Post-Merger Integration)も可能となる。こうしてはじめて投資拡大と生産性向上が両立できるのである。
これが、IoT・第4次産業革命の視点からみた日本の閉塞打破戦略である。併せて教育システムの整備が、今こそ必要である。つまり、働き方改革、人づくり、社会人リカレント教育の改革で重視すべきは、IoT・第4次産業革命へ適応するための人材の育成である。
“現場力”を形式知化しビジネスシステムへと結実させる
日本企業のかつての成功の鍵は、製造現場でのカイゼン力、中小企業の匠の技、ものづくりエンジニアの水準の高さなどの、いわゆる“現場力”であった。筆者は現場力を否定する者では決してない。貴重な現場力を形式知化、組織知化しソフトウェアに結実させたビジネスシステムを構築することが重要と考えているのである。
例えば、大企業のものづくりエンジニア、生産技術部門は、海外工場の立ち上げや安定稼動のために世界中を飛び回り多忙を極めている。これだけが理由ではないだろうがエンジニアの海外企業への転職も増加しているようである。中小企業は事業のスケーラビリティに乏しく海外展開も難しいことから後継者が確保できず、黒字でも廃業を計画している企業も多いそうである。これらはビジネスシステムへの投資が遅れている結果である。ビジネスシステムへの投資は、IoT・第4次産業革命が理由ではなく、現在目前で顕在化してきている大きな問題へ対応するためなのである。
IoT・第4次産業革命の視点からのビジネスシステム投資の3つの考え方
①誰でも高い生産性が発揮できる仕組みを設計するのがエンジニアの役割
欧州の先進企業では、新興国の工場でも先進国と同様の品質を保証できる。つまり、現場の匠に依存せず高い生産性が発揮できる仕組みを設計することがエンジニアの役割とされている。多様な働き方が許容されると同時に、現場力が組織知化、システム化されているわけである。
②限界費用0のソフトウェア経営資源を活用する世界企業
ビジネスシステムは可能な限りソフトウェアに結実させる。限界費用0で世界中移転可能であるからである。現場の暗黙知に依存するのはエンジニアリングではないという考え方である。
③ビジネスシステムこそが、戦略的な経営資源
海外企業では、現場の創造性や知恵を最大源活用できるようなビジネスシステムの設計・マネジメントこそがエリートの役割という認識である。MBA(経営学修士)教育の中でもビジネスシステムに関連した科目が充実している。
未来へ向けて投資すべきは「ビジネスシステム」の「教育システム」
日本ではビジネスシステムの教育システムも十分ではない。例えば、いまや中国やASEANを含む海外のMBAでは、ビジネスシステムの代表であるSCM(サプライチェーン・マネジメント)などの「オペレーションマネジメント」や直接金融を中心とした「コーポレートファイナンス」科目の設置は常識である。
一方、日本ではMBAそのものも少ないが、MBAでも会計が中心、金融は間接金融中心でMBAは文系学科、エンジニアは理系と区分され、ビジネスシステムのトータルな知識がある企業人は未だ乏しい。グローバルな実務教育の実態を調査し、社会人教育の拡充をお願いしたい。日本の大学には、ビジネスシステムを専門とする人材が圧倒的に不足しているのである。IoTや第4次産業革命が“腑に落ちない”経営幹部の方が多いのも当然である。
(隔週金曜日に掲載)
【著者紹介】
(2017/10/13 05:00)