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[ 科学技術・大学 ]
(2017/9/18 05:00)
東芝は、パワー半導体向けの炭化ケイ素(SiC)トランジスタについて、素子の性能指標である「移動度」を高められる新製造技術を開発した。SiC基板に絶縁膜を積む際、前処理を施した上で、無害で取り扱いが容易な窒素ガスを使って熱処理した。界面の品質が向上し、従来手法に比べてチャネル領域の移動度が60%以上増えた。より高性能な素子を安全かつ安価に製造する、次世代SiCパワー半導体の新手法になる可能性がある。
米ワシントンDCで17日(現地時間)に開幕するSiC関連で世界最大の国際学会(ICSCRM)で発表する。
移動度は、半導体中で電場をかけた時の電子や正孔の動きやすさを示すもので、半導体素子の性能を示す際に使われる。
素子内の電流経路である「チャネル領域」の絶縁膜の形成工程は、有毒で界面品質の劣化を伴うが、反応性が高く良質な膜を形成できる酸化窒素ガスを使うのが一般的。一方、窒素ガスは一般的に反応性が低く、約1400度Cの高温にする必要があることから、熱による膜のダメージが大きく、使われていなかった。
今回、900度C以下の低温で酸素による熱処理などを行いつつ、1300度Cの窒素ガスで熱処理する新しいプロセスを考案した。これにより、反応性の乏しい窒素ガスでも窒化反応が十分に進み、界面と膜の品質をそれぞれ大幅に改善させることに成功している。作製した素子は、酸化窒素ガスを使う場合に比べ、チャネル領域の抵抗が約40%減り、移動度が向上することを確認した。
試算では、素子全体の抵抗は最大で20%減らせると見込んでおり、SiC素子使用時の電力損失の低減が期待できる。今後、耐久性などの信頼性試験を行い、2020年以降に実用化する。
高効率で小型、軽量が求められる鉄道車両や電気自動車向けの電力変換装置には、従来のシリコンよりも優れた材料物性を持つSiCを使ったパワー半導体が使われている。
(2017/9/18 05:00)