[ ICT ]
(2017/10/26 12:00)
エンタープライズ向け統合業務パッケージ(ERP)ソフトウエア大手の米インフォア(ニューヨーク市)が、製造業をはじめとする業界特化型のクラウド対応ビジネスアプリケーションに、アナリティクス(分析)と人工知能(AI)の機能を追加した。日本市場でも順次、提供される見通しだ。
来日したインフォアのステファン・ショール社長は、「カスタムオーダーの増加に対し、部品などのサプライヤーをクラウドネットワークでつなげた素早い対応のほか、販売した製品の予防保全などサービス事業を収益源とする製造業が増え、大規模なデータ処理が必要になっている」とその背景を説明。こうした「インフォア・クラウドスイート」の新機能が、製造業や小売業、サプライチェーンでのビジネスプロセスの自動化および最適化に貢献すると強調した。
ERPで世界3位
2002年設立のインフォアは未公開企業ながら、独SAP、米オラクルに次いでERPソフトウエアベンダー世界3位。クラウドベースでの顧客は約8500社に上り、ナイキ、フェラーリ、ハーツ、ボーイング、BAEシステムズなどのほか、日本ではキリンや大手建設機械メーカーなども名を連ねる。
積極的な買収戦略で規模を拡大させており、代表的なものでは15年に、製造業・小売業などにクラウドベースのグローバルサプライチェーンマネジメント(SCM)プラットフォームを提供する米GTネクサス(カリフォルニア州)を6億7500万ドルで獲得。続いて17年4月には、ビジネスインテリジェンス(BI)プラットフォームの米バースト(カリフォルニア州)を傘下に収めている(買収条件は非公開)。
一方、新機能のアナリティクスのレイヤーはバーストのBIが中心となっており、業界固有の業務プロセスに基づいたデータ解釈や分析、可視化を行い、ビジネスでの意思決定を支援する。さらにアナリティクスレイヤーの上に載る業界特化型AIが7月に発表された「コールマン(Coleman)」だ。
ブランド名は映画「ドリーム」の主人公から
そのブランド名は、日本でも先日封切られた米国映画「ドリーム(原題Hidden Figures)」の主人公の一人で、1960年代に米国が旧ソ連に対抗して進めた有人宇宙船プロジェクト「マーキュリー計画」の達成に貢献した黒人女性キャサリン・コールマン・ゴーブル・ジョンソンのミドルネームに由来する。
コールマンでは機械学習アルゴリズムベースの自然言語処理や画像認識機能を使い、クラウドスイートの膨大なデータ処理が可能。ユーザーの工数の20%を占める検索と収集などのプロセスの自動化や内容の改良、提案、アドバイスまで行える。
研究開発部門の最高責任者でグローバル製品開発担当のソマ・ソマスンダラム・エグゼクティブ・バイスプレジデントによれば、こうしたAIなどの機能には、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウドアプリケーションやオープンソースソフトウエアを積極活用しているという。例えば、自然言語による対話機能(チャットボット)の部分には、アマゾンのスマートスピーカー「エコー」の対話型ソリューション「アレクサ」と同じ技術を提供する「アマゾン・レックス」を使う。
「われわれはビジネスアプリケーションの会社であって、クラウドのデータセンターも持っていなければデータベースも販売していない」とソマスンダラム氏。業界標準の技術を採用しつつ顧客メリット第一の製品開発が基本という。顧客企業ごとのオンプレミス(自前運用)システムではないため、匿名化され各業界データに企業がアクセスでき、「業界ごとのベンチマーク(基準)を参照しながら問題を解決しやすくなる」と同氏は利点をアピールする。
AI応用開発でMITに100人常駐
さらに、AIの応用研究にも力を入れており、マサチューセッツ工科大学(MIT)の施設にサイエンティストなどを約100人常駐させ、産業向けの機械学習ソリューションを研究。AI研究をリードするチーフサイエンティストには、MITの経済学博士号も持つソフトウエア開発のベテラン、ジアッド・ネメディーン氏を据えている。
ショール社長は「我々はすでに7年前にオンプレミスのシステムは終わりになると思っていた。そこで過去3年間に35億ドル(約3950億円)を投資し、業界に特化したクラウドスイートを完成させた」とした上で、「グローバル化やデジタル化が進んだ時代に、内製システムを使って企業活動を効率よく運営するのは難しい。最近ではDMG森精機のように、欧米企業を買収して大きな変化を起こそうとする日本企業も増えてきた」。こう話し、グローバル化の進む日本企業にビジネスチャンスを見出している。
(2017/10/26 12:00)