[ トピックス ]
(2017/12/6 05:00)
大手参入で利用者増
代表的仮想通貨「ビットコイン(BTC)」の価格が急騰している。乱高下を繰り返しながら上昇し、11月下旬に1BTC当たり1万ドルの大台を突破。1年で価格が10倍以上に跳ね上がった。日本でも4月の改正資金決済法の施行などで仮想通貨の利用のための体制づくりが進む。一方、相場の不安定さやトラブルの多発など、懸念要因も多い。BTCは今後、どうなっていくのか取材した。
(山谷逸平)
【高い関心】
ビットコインで商取引が成立したのは2010年の米フロリダ州で、米在住のプログラマーが1万BTCでピザ2枚を購入したのが最初と言われる。事の真偽はさておき、1万BTCといえば直近のレートで約120億円。ピザを売った店主がBTCを持ち続けていれば、大富豪になっている計算だ。
BTCの価格は17年5月ごろから上昇し始め、10月末に米大手商品取引所のシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループが先物取引を年内に始める計画を発表した後に急騰した。機関投資家の資金流入を期待した投機目的の取引拡大が要因だ。CMEの発表後、全米最大のBTC取引所では1日で約10万人利用者数が増えたとされ、関心の高さがうかがえる。
CMEは18日に取引を始める予定で、これに先行して米シカゴ・オプション取引所(CBOE)も現地時間10日に取引を開始する。ベンチャー向け株式市場の米ナスダックもBTC先物を18年前半に始める方針。CME、CBOEともに当初は35―40%の証拠金を要求するなど厳格なリスク管理を敷くほか、関係当局もチェックを強める方向だが、大手取引所の参入で利用者は増加していきそうだ。
BTCで最大の取引量を誇った中国は13年に金融機関が事業として取り扱うことを禁止し、人民元との取引が激減。今年に入って仮想通貨による資金調達手段であるICO(新規仮想通貨公開)も禁止するなど規制強化の方向にある。これを受け、現在の取引高の約6割は日本円で、米ドル、韓国ウォンが続く。
【投資対象】
現状のBTCは20―30%も乱高下するなどボラティリティが高く、決済通貨として安心して利用できる状況にはない。金融庁に登録した仮想通貨交換業者のビットバンク(同品川区)の広末紀之最高経営責任者(CEO)は「仮想通貨は国際送金で使い勝手がよいが、国内では銀行間送金など他のソリューションが多く切り崩しは難しい」とする。
事実、日本での取引は値幅変動の大きさから株取引や外国為替証拠金取引(FX)経験者の参入が多い。金融庁に登録した仮想通貨交換業者で、仮想通貨FXなどを行うGMOコイン(東京都渋谷区)の若松剛史社長は「『投資対象』として、値上がりを期待している人が多い」と話す。
仮想通貨に関する会計基準も整備される。企業会計基準委員会(ASBJ)が会計上の取り扱いを検討しており、12月の草案公表を目指している。交換業登録の審査待ちをしている取引所大手のコインチェック(東京都渋谷区)の大塚雄介取締役最高執行責任者(COO)は「ようやく税の方針も固まり、来年は企業を中心に(仮想通貨を使った)応用方法を模索する時代に入るだろう」と見通す。
“通貨”のイメージが先行するBTCを始めとした仮想通貨だが、現状は商品的な投資対象といってよい。GMOコインの若松社長は決済通貨としての普及は次のステージとみる。仮想通貨全体の時価総額は約25兆円でBTCは約20兆円だが、「1日の流動性が多い日に時価総額の10%が動く。今の時価総額が低すぎる。機関投資家が入り、価格が安定すれば、本格的に普及するだろう」としている。
トラブルも増加−犯罪への利用懸念
国は4月の改正資金決済法施行で仮想通貨交換業者を登録制とし、利用者の資産保護に向けた詐欺対策や犯罪収益のマネーロンダリング(資金洗浄)対策を強化した。
だが、国民生活センターによると、仮想通貨の購入トラブルに関する相談件数は年々増え、14年度194件、15年440件だったが、16年度は848件、17年度は12月3日現在で1380件と増加傾向にある。10月には主要な仮想通貨の一つである「リップル」の取引をめぐる詐欺事件で、取引仲介業のリップルトレードジャパン代表が逮捕された。
国家公安委員会がまとめた「犯罪収益移転危険度調査書」によると、仮想通貨交換業者がマネーロンダリングなど「疑わしい取引」を届け出た事例は4月から10月1日までで170件に上った。4月の改正犯罪収益移転防止法の施行で仮想通貨交換業者も同法の対象となり、届け出が義務づけられ実態が明らかになってきた。
≪私はこう見る≫
【ニッセイ基礎研究所 経済研究部専務理事 櫨浩一氏】
金利上昇局面で不安定に
BTCは分裂騒ぎがあったにもかかわらず、ほぼ一本調子で値上がりした。年初から10倍は異常な上昇に思える。先進国の金融緩和で資金が流れ込んだことや、仮想通貨への期待が背景にある。4月の改正資金決済法施行や、CMEグループの先物取引参入などで、キワモノではなく、既存の金融システムから認められたと多くの人が理解したことも後押しした。
仮想通貨は本来、取引や送金目的で発明された。この本来の目的に戻れるかどうかは実利用が増えるかどうかにあるだろう。
18年は米国が利上げを進め、世界的に金利が上昇する局面になる。投機的に流れ込んでいたお金が入りにくくなり、非常に不安定になるのではないか。1300種類以上の仮想通貨の淘汰(とうた)も始まるだろう。
【フィスコデジタルアセットグループ代表・アナリスト 田代昌之氏】
時価総額拡大で100兆円
4月の改正資金決済法施行で日本の投資家、特にFX投資家の参加が増え、1BTCの価格が年末に100万円を超えるのではと考えていたが予想より早かった。米CMEグループがBTC先物をまもなく始める。デリバティブ市場の拡大方向が明確で、期待する動きが市場に入ってきている。
BTCはまだ決済通貨ではなく、投資・投機のニュアンスが強い。18年も中長期的には右肩上がりが続くだろう。今までの取引は個人投資家中心だったが機関投資家が入る可能性が高まってきている。そうなれば売買自体の厚みが増す。
市場にお金が流れれば、時価総額はまだ拡大していくだろう。100兆円でもおかしくはない。その場合は18年中に1BTC当たり約4万―5万ドルとなることもあり得る。
(2017/12/6 05:00)