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(2017/12/9 05:00)
モノづくり日本会議(事務局=日刊工業新聞社)は17日、「第14回/2017年超モノづくり部品大賞」(主催=モノづくり日本会議、日刊工業新聞社、後援=経済産業省、日本商工会議所)の贈賞式をセルリアンタワー東急ホテル(東京都渋谷区)で開いた。大賞に輝いた日本電産シンポの「超偏平アクチュエータ」など37件を表彰した。これに先立ち開催されたモノづくり日本会議「第10回通常総会」では16年度(16年10月―17年9月)の収支報告と17年度(17年10月―18年9月)の事業計画・予算が審議され、原案通り承認された。17年度は用途開発が進むセルロースナノファイバー(CNF)などを対象にした「革新素材研究会」(仮称)の開催を検討する。
【通常総会】モノづくり強さ忘れずに
総会ではまずモノづくり日本会議代表幹事の井水治博日刊工業新聞社社長が「前身のモノづくり推進会議から数え10年経過した。第4次産業革命のうねりが押し寄せている。活発に議論いただき、今後の活動を牽引(けんいん)してほしい」とあいさつした。
16年度はロボット革命実現に向けて人工知能(AI)をテーマにしたシンポジウムを国と連携して行ったほか、注目度の高い新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト成果発表などを通じ、ビジネスチャンス拡大を図った。またインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)の活動とも連動し、人材育成など多彩な活動を展開した。
17年度もIoT(モノのインターネット)、AI、ロボット、新素材などタイムリーなテーマを情報発信する。NEDOとの連携も強化する方針。
今回議長を務めたモノづくり日本会議共同議長の大坪文雄パナソニック特別顧問は「IoT、AI、ロボットといった言葉を目にしない日はない。日本企業は情報化の分野でやや遅れているが、それを自覚する一方で、モノづくりの強さを忘れてはならない。情報だけでモノづくりはできない。モノづくり日本会議の活動や日頃の経営を通じ、しっかりと備えてほしい」と締めくくった。
【超モノづくり部品大賞】大賞に日本電産シンポ、超偏平アクチュエータ
超モノづくり部品大賞の贈賞式は受賞企業関係者をはじめ、来賓、審査員など約180人が出席した。受賞企業には、モノづくり日本会議の大坪文雄共同議長や井水治博代表幹事らから賞状や目録、記念盾が贈呈された。
贈賞式ではまず、井水代表幹事が「戦後、わが国のモノづくり大国の地位を築くことができたのは、部品・部材が優れていた点にある。しかし、残念ながら優れた完成品が脚光を浴びることがあっても、部品・部材が脚光を浴びることはなかった」と本事業の設立の背景を説明した。
モノづくり・産業の屋台骨に
審査アドバイザーの稲崎一郎慶応義塾大学名誉教授は「モノづくりを支えている生産設備や装置、機器の動作の信頼性は部品の性能によって大きく左右される。その部品に焦点を当てた超モノづくり部品大賞は大変意義あるものだと感じており、モノづくり活動を活性化したいという思いがこもっている」と話し、応募製品について「理論的な背景を持っている製品が多くなってきている」(稲崎名誉教授)と総括した。
来賓として出席した経済産業省の徳増伸二製造産業局参事官は「経産省などが作成した部品・部材ごとの産業競争力を示すバルーンマップには、世界市場の100%に近いところに多くの部品や部材がプロットされている。
このことから、部品・部材はわが国産業の競争力の源泉であるといえる」とその重要性を強調した上で、「特に優れた部品・部材を作っている受賞企業の皆さまは、わが国のモノづくりと産業の屋台骨になっている」と祝辞を述べた。
さらに「リアルとバーチャルが世界的な潮流で融合する中、リアルそのものをよく知っていることの強みは多い。モノづくりにおいて高い技術と知見を持っている皆さまは、それをうまく利用することで変革が求められる中でも、輝いていける存在になれる」(徳増参事官)とたたえた。
最後に、大賞を受賞した日本電産シンポの井上仁取締役専務執行役員は「世界的にQCD(品質・コスト・納期)の競争が激しくなっており、今までのように自社だけの開発では競争に乗り遅れてしまう。コアコンピタンス(中核となる能力・技術)を堅持しつつ、足りない部分を他社と協力することが必要」と指摘。「機会があれば受賞企業の皆さんとも協働して新しい製品を世に出していきたい」(井上専務執行役員)と意気込みを語った。
超モノづくり部品大賞、モノづくり日本会議共同議長賞、ものづくり生命文明機構理事長賞を受賞した3件は開発のエピソードや製品の機能・特徴を紹介した映像を会場で上映した。映像は日刊工業新聞電子版(www.nikkan.co.jp/movies)、超モノづくり部品大賞専用サイト(www.cho-monodzukuri.jp/award)で視聴できる。
次回「第15回/2018年超モノづくり部品大賞」の募集は、18年3月1日から開始する予定。17年1月以降に開発・製品化した部品や部材が対象となる。
【主な受賞製品・企業】
■超モノづくり部品大賞=1件
超偏平アクチュエータ 日本電産シンポ
■モノづくり日本会議共同議長賞=1件
快適性を追求した家庭用エアコンの画像処理モジュール
日立製作所/日立ジョンソンコントロールズ空調
■ものづくり生命文明機構理事長賞=1件
メカニカルファイバーテープ(メカニカル疑似架橋) 共同技研化学
■日本力(にっぽんぶらんど)賞=3件
アーク溶接高電流水冷トーチ用銅合金3D積層造形部品 ダイヘン
アイドリングストップ車用鉛蓄電池「Tuflong G3」
日立化成/日立製作所
大型商用車用高性能2段過給エンジン「A09C」 日野自動車
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■機械部品賞=8件
■電気・電子部品賞=3件
■自動車部品賞=3件
■環境関連部品賞=3件
■健康・バイオ・医療機器部品賞=1件
■生活関連部品賞=4件
■奨励賞=9件
(受賞企業の一覧は日刊工業新聞電子版に掲載)
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【記念シンポジウム「超モノづくりへの挑戦」】
モノづくり日本会議は、記念シンポジウム「超モノづくりへの挑戦」を超モノづくり部品大賞の贈賞式と同時開催した。モノづくり日本会議共同議長の大坪文雄パナソニック特別顧問のあいさつに続き、大賞を受賞した日本電産シンポの井上仁専務執行役員が「日本電産シンポのモノづくり」、東京大学生産技術研究所の須田義大教授が「次世代モビリティ研究の最新動向と今後の方向性」と題して講演した。
【主催者あいさつ/モノづくり日本会議共同議長(パナソニック特別顧問)大坪文雄氏】原点回帰、市場視点の経営を
企業の経営環境が厳しさを増している中、ガバナンス改革が特に重要なテーマになっている。取締役会では、多様な視点を取り入れることが求められてきている。利益に対しても、営業利益や純利益だけでなく、株主資本利益率(ROE)や株価収益率(PER)など、新しい指標で多面的に企業の収益構造をチェックする時代になってきた。こうした経営環境の中で、経営幹部は解を見いだしていかなければならないという負担がある。
最近、製品検査データの改ざんなどで日本企業が最も優れていた品質力が揺らいでいるのは大変残念であるとともに、危惧すべき点だ。企業の利益というのは経営活動を社会や消費者が評価して結果的に得られるものだと思う。もしかすると経営層は経営活動の結果や評価を見ずに、何とか利益を確保したいという思いがあり、生産現場も利益を確保するために納期や数量を優先するという体質があったのかもしれない。こうした問題が生じる背景には経営層と生産現場に距離が生じていることに加え、その両者が社会・市場とも大きな距離を作ってしまっていることが考えられる。
本来、日本の企業は経営層と現場の距離が非常に近かった。そして、その両者が常に市場視点を忘れなかった。これが日本のモノづくりの強さの源であったと感じている。そのため、我々は原点に立ち戻ってこれからの企業経営を考えるべきだ。モノづくり日本会議で検討されている活動計画は従来にも増し、こうした経営の根本的な源にメスを入れる内容になっている。今後、モノづくり日本会議の活動が広がることを期待したい。
【日本電産シンポのモノづくり/日本電産シンポ取締役専務執行役員技術開発本部長・井上仁氏】既成概念にとらわれず挑戦
当社のモノづくりを紹介する上で、まず会社の歴史を紹介したい。私がシンポ工業(現日本電産シンポ)に入社した1975年当時の柏原学副社長が、当社の技術のルーツだ。柏原副社長はアイデアマンだった。ラジコンで飛行機を飛ばすことに成功したほか、羽根の角度を変えられる戦闘機のプロペラ開発などを経て、1952年にシンポ工業を設立した。
私が新入社員研修で柏原副社長から教わったことがある。一つは「夢」。柏原副社長は無線のラジコンで飛行機を飛ばそうとしたが、回路がなかなか完成しなかった。だがある日、青空の中に白い線で回路図が描かれる夢を見た。その回路を再現してみたところ、うまくいったそうだ。そのため「問題にぶつかった時は考えまくれ。考えまくったら夢で解決策を与えてくれる」といった話しが印象に残っている。
その研修の際、柏原副社長が長い針を持っていたことも印象に残っている。新入社員に対して「これを体に刺したら痛いと思うか」と問いかけた後、自分の腕に針を刺し始めた。そして「これは痛くないんだ。既成概念で物事を考えてはいけない」と話していた。
夢から発明のきっかけをつかむことや、針を腕に刺す場面を見て「なんちゅう会社に入ったんだ」といった印象を持った。だが今では私が新入社員に対して同じような話しをしている。
柏原副社長がいつも話していたのが「ピンチはチャンス」「パラレル思考」「信念、執念、行動」という言葉だ。何事もチャレンジして試練を乗り越えなさい、と話していた。また、一つの開発をシリーズとして手がけるのではなく、複数のテーマを持って順番に考えていけば、短時間で複数の成功を収められることなどを学んだ。
私の行動指針は、かつて当社が掲げていた社是「私たちは互いに援(たす)け合い 人格の向上と技術の錬磨に努め 社会に貢献し みんな豊かになろう」だ。この言葉には開発やモノの購買といった技術だけでなく、人格の向上が大切だという意味が込められている。柏原副社長は「技術ばかりではだめだ。顧客の立場に立って物事を考えて、最終的にはみんな豊かになろう」と話していた。
当社は産業用の無段変速機を日本で初めて販売した。さらに大映京都撮影所で使われた「撮影用カメラクレーン車」や、プロペラの技術を生かした「撮影用台風発生送風機」なども作成した。
また京都は陶芸が盛んなため京都府京都陶工補導所(現京都府立陶工高等技術専門校)から、電動ろくろを作ってほしいと依頼があり、作成したこともある。90年の映画「ゴースト ニューヨークの幻」に出てくるろくろも、当社の開発品だ。
今回受賞した減速機「超偏平アクチュエータ」は、モーターを内蔵することで小型・薄型化を実現した。パワーアシストスーツの関節などロボット用をはじめ、探査機や電動車いすの車輪などに活用できる。
みかん農家の方に、超偏平アクチュエータを使ったアシストスーツを使ってもらったことがある。200ワットの大型タイプと90ワットの小型タイプがあるが、小型の方が使われていた。お年寄りが筋肉を鍛えるために小型タイプを使っているという話を聞き、目からうろこが落ちるようだった。
今後は社会のロボット化がさらに進む。あらゆる減速機に挑戦し、社会に貢献していきたい。
【次世代モビリティ研究の最新動向と今後の方向性/東京大学生産技術研究所・須田義大教授】人間と機械、判断相違時の対処重要
次世代モビリティ研究センター(ITSセンター)は、東京大学生産技術研究所の中で“横ぐし”を通した研究所という特徴がある。モビリティーは、インフラや情報通信技術を融合しないと解決できない課題が多いとの考えからだ。機械系や社会基盤系、電子情報系のメンバーを集めて融合的な研究をしている。
ITSセンターが目指しているのは、サステナブルな交通システムの構築にある。そのためには、安全・安心や省エネルギー・低環境負荷が大きなターゲットになる。自動運転は手段であり、大切なことは自動運転で何が達成できるかということだ。
安全・安心の観点からいうと、交通事故の大半がヒューマン・エラーに起因する。これを自動化技術でなくせば、交通事故を減らすことができる。ドライバーの負荷を低減することで快適性も向上する。一定速度で走行することで省エネ運転が容易となり、省燃費化も図れる。高齢者をはじめとする交通弱者にとっても運転の自動化は有用な手段となり、交通体系の進化による社会の生産性向上にも貢献できる。自動運転化には、このような大きな社会的期待がある。
2008―13年に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで「大型トラックの自動運転・隊列走行」を実施した。このプロジェクトは学術研究の意味合いが強かったこともあり、技術的には成功したが、実用化には至らなかった。実用化段階になると、プラットフォームや車両を誰がつくるのかといったことや、保険や法律はどうするのかといった問題があったためだ。
ただ、トラックのドライバー不足などを背景に、状況は変わってきた。技術的なイノベーションのみでは、実用化に至らない。プロジェクトを成功させるためには、すべてのパートナーのコミットが必要となる。
一方、自動運転を進める上で重要なファクターとなるのが、情報通信技術との融合だ。自動運転の構成要素はドライバーや乗客などの人と車両、道路だ。これらがバラバラになっていると統合的な仕組みができない。人間と車両、インフラが情報通信技術でつなぐことが必要になる。
もう一つが、ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)だ。どの自動化レベルであっても、HMIは重要な課題となる。人間と機械の考えが違った時にどちらを優先させるか、どのタイミングで自動・手動の切り替わりを判断するかが問題になる。このため、ITSセンターでは研究用ドライビングシミュレーターを活用して研究を進めている。
15年から17年にかけて、自動運転を実現するために急激な進展が出始めている。経済産業省や国土交通省、警察庁、内閣官房などが精力的に動いている。内閣官房は「官民ITS構想・ロードマップ2016&2017」を策定し、20年までの高速道路での自動走行や限定地域での無人自動走行サービスの実現に向けて動いている。
自動運転が既存の自動車産業に与える影響は非常に大きい。部分的自動運転の「レベル2」は、すでに商品化段階にある。焦点となるのは、条件付き自動運転の「レベル3」以降だ。車メーカーは徐々にレベルを上げていく方針だが、IT産業などでは一気に高度運転自動化の「レベル4」に進むことをもくろんでいる。
現在の自動車ビジネスは、所用車を手動運転するモデルで、これを所有のまま自動運転化しようとしている。これに対して、ウーバーなどの新規参入カーシェア業者が目指すのは、シェアした車両の自動化だ。将来的にはパラダイムシフトが起き、自動車産業が“オート・モバイル・インダストリー”から“オート・モビリティー・インダストリー”に変容する可能性を秘めている。
(2017/12/9 05:00)