[ ロボット ]
(2017/12/27 05:00)
ロボットメーカーの代表が一堂に会して意見交換する「iREXロボットフォーラム2017」が11月29日に東京・有明の東京ビッグサイト国際会議場で開催された。「2017国際ロボット展(iREX2017)」の併催行事としてメーカー6社、ユーザー2社が参加し「働く現場を変える!ロボットとともに」のテーマのもとに、ロボットの用途拡大や労働人口不足への対応、安心安全の取り組みなどについて議論を交わした。パネルディスカッションの要旨を紙面紹介する。
■少量多品種生産に対応
【現場で変化】
三神 現場でロボットに、どういった変化が起きているのかという事例を話していただきたいと思います。まず、国内外のロボットメーカー6社より順にプレゼンテーションをお願いします。
ニース 歴史的には大量生産にロボットが使われてきましたが、今はより少量多品種生産対応になり、ロボットが協働しなければいけません。世界の多くで、課題なのが高齢化です。生産現場での熟練した労働者の確保が難しくなっています。そのためロボットが幅広い業界で適用されるようになっています。
従来、ロボットは安全柵で仕切られた場所で作業していました。今は、三つの違う次元のレベルのロボットとの協働が行われています。まずは共存で、同じ職場で働いているが、ロボットとのかかわり合いはない。次に分担作業で、同期して作業するというやり方。最終的には本当の意味での協調で、一緒に作業を行います。
人々が、よりロボットを簡単に使えるようにしなければなりません。その一つが協働でのロボット活用です。大量生産で協働作業ができるようになると、さまざまなレベルで柔軟性が増します。レイアウトも柔軟に、そして少量多品種にも対応できるようになります。ロボットユーザーの裾野が大企業だけではなく、中小企業にも広がるのです。、
もともと自動車業界といった大手企業しかロボットは使えませんでした。しかしながら今後は町のパン屋さんでもロボットが使えるようになると思うのです。
橋本 働く現場の課題として、高齢化社会を抜きに考えられません。今日は働く現場を変えるという意味で、適用範囲の拡大と、技能継承の問題に焦点を当てたいと思います。
共存ロボットが働き方を変えるのは間違いありません。これは適用範囲が広がるということです。共存ロボットになって、従来ないところにロボットを使いたいという範囲が広がると思います。工場であったものがショップだったりと、どんどん広がります。共通点は、今までロボットを使ったことがない、
あるいは共存ロボットをどう使えばいいのかわからないということ。従来のお客さまは皆さん、ある程度技術的なバックグラウンドがあったり、たくさんロボットを使ってきた経験があるのでわかるけれども、工場を飛び出して、あらゆる分野でロボットが使われるようになると、今度は共通的にもっと使いやすいロボットにしないといけないのです。
我々はその中で二つのテーマがあると思います。ロボットをいかに安全に使うかが非常に大事。お客さまにとってすぐに安全に使える。安全って何だろうということに関して、ロボットメーカーが力を合わせて取り組まないといけないと思いますし、操作をもっと簡単にしないといけない。それが働く現場を変えていく一つのキーワードです。
もう一つのテーマは、IoTやAIがロボットとつながることで働くスタイルが変わること。川崎重工は新しいロボットシステム「サクセサー(継承者)」を提案しています。このシステムは働く環境とか働く場所を変化させたり、結果的には高齢者が働くことを継続できたりとか、技能の伝承も可能にしていけると考える一つの提案です。人の単純動作をロボットに置き換え、人は人でしかできない部分に専念したり、ロボットを人のトレーニング機として使ったりし、ロボットの使い方が広がっていくと思っています。
稲葉 ファナックの考えるロボットは、生産財として壊れない、壊れる前に知らせる、壊れてもすぐ直せる、工場の中においてどれだけダウンタイムを減らせるかというのが重要だと思っています。
そのため、自社の信頼性評価棟でさまざまな外部環境でも使えるように耐久試験などを行っています。そして伝統的に行っているのが、自社の商品を自社内の製造現場で実際に使うことです。実際に現場で使うと、使いづらいという話をもらい、すぐに直すという取り組みを伝統的に行っています。実際に自社内で4000台ほどのロボットを使って生産しています。
次はロードマップの話をします。2000年前半までは、見て、感じて、動くということを当社のロボットは主体的にやっていました。そして2010年あたりから少しずつ考えるという機能を加え、同時につなげることも考えています。
機械と機械をつなげ、さらに今度は人をつなげていこうということで、協働ロボットを2010年あたりから始めました。最近は、プリファードネットワークスと一緒に組んで、非常に高いレベルの深層学習を実現しようとしています。
今度はAI同士が会話し、分散的につながっていく。そのために今回、フィールドシステムというAIのためのプラットフォームを10月に新しく出しました。機械、人、そしてセンサーなどがつながるオープンプラットフォームです。そしてさまざまなメーカーのアプリケーションも載せられます。
こうした特徴に加えてセキュリティーが重要です。セキュリティー技術はシスコシステムズから、
そのままフィールドシステムのプラットフォームに適用しています。
そして最後、AI分野で、二つの機能を3月に正式にリリースする予定です。ばら積みロボットは2年前に出したのですが、ばらばらに置いてあるものを取り出す調整が非常に難しかった。これをAIでやります。
そしてもう一つは傷検査で結構、難しい。携帯電話のフレームの傷も、300サンプルほど検査するとAIで判断できるようになります。こういった知見をネットワークでロボットたちは瞬時に共有します。経験、知見をデジタル化して伝えられるというのが今後、AIやネットワークの進む先として非常に重要な技術です。
ランパ 人々の働く環境を向上する、それが我々の企業理念です。ロボットは全ての労働者により良い方法で引退まで仕事してもらうための方法です。
インダストリー4・0を成功へ導くためのカギについてクカの観点からお話ししたいと思います。一つ目のカギは適用性です。コスト効率性の高いやり方でさまざまな製造の課題に適用する。二つ目のカギは、簡単で安価にロボットに視覚を与えなければなりません。これは静止画像のことではなく、感覚としての視覚です。
次にディープラーニングです。複数のロボットの情報を比較し、それぞれの働き方の最適化を図るのです。
そして、次のカギがモビリティーだと思います。工場へ入って、工場から出るまでを最も効率の良いやり方で実現していること。もう一つは、ロボット自身もモバイルでなければいけません。適切な職場環境でロボットが簡単に使えなければいけません。
そして、次のカギが接続性です。ロボットがつながる世界では、我々はサードパーティーの開発者と一緒になり、さまざまなソリューションをつくることが可能になります。
この先は協業ロボットであるということ、さまざまな感性をもっているということ、それら八つのカギ全てが組み合わさることで、全てが自由に動き、さらに簡単に使え、ロボット同士がつながることになります。それらのカギが組み合わさることで、インダストリー4・0、スマート製造が実現します。
■安全でより使いやすく
【自動化を推進】
国崎 まず、猫の手も借りたいほどの人手不足の現状です。溶接、塗装は自動化が進んでいますが、一方で組み立て、検査やその工程周りの物流、搬送も含んで自動化の進展が遅いという現状があります。
その中で、働く現場のニーズが少しずつ変化している。これまでロボットはその語源がそうであるように、苦役、労務を行う単純労働な作業者という見方だったものから、今後、より柔軟性、人との親和性、自律性を伴ったパートナーとしての能力を求められるようになってきます。
現在、ロボットを使いたいという範囲も広がっています。ただ、ロボット導入を阻むものがいくつかあります。
一つ目は、ロボットだけでは何もできない。手、目、足、口、耳に当たる部分を誰かがシステムインテグレーションする必要があります。もう一つは、誰もが使えるものではない。専門知識が必要という印象があると思います。もう一つは、基本的に危険なもので、安全装置が必要だったということです。
この三つについて少しご紹介いたします。
一つ目のインテグレーションが必要ということは、ロボットが目的の仕事をできるように、ロボットメーカーがロボットだけではなくて、全体をシステムエンジニアする、ロボットを含んだ全体のセルを提供する。さらに、ユーザーが機能を開発できる環境を提供するということです。
二つ目は、操作に関してです。もっと思いのままにロボットを使えるように、ロボットそのものを扱って教えたりという直感的な操作、あるいはジェスチャーでロボットが動くようにすることです。
三つ目は、安全に使うということで、触れると止まる、あるいは人が近づくと、それを検出して退く機能まで開発を進めました。あるいは、ロボットが自律的に目的の場所へ進んで作業する。このような開発をもって課題に取り組んでいます。
小川 産業ロボットが世の中に出始めて40年間。労働人口の減少により、ロボットに対する期待が必然的に生まれています。一方では多品種少量、また多彩な仕事という人の仕事に依存していた領域は、この間、自動化できなかった。それはなぜなのかをあらためて振り返ると、ロボット活用においてシステムのロバスト(堅牢)性、フレキシビリティーが非常に低いという課題が一つある。ロボットを使う場合、安全柵設置の規制、いわゆるフレキシビリティーと安全柵という二つの解を求める状態が課題の一つと思います。
そういう中で人協働型のロボットは、言い方を変えると安全ロボットなので、安全柵を外しましょうと。人の中に入っていくことができる。その姿は、現状までの課題をブレークスルーする考え方であると思っています。
現場の自動化が推進され、広がることによって労働人口の減少に対するソリューションになっていく。さらに、昨今のインダストリー4・0の話に対して、安川電機もi3(アイキューブ)‐メカトロニクスという我々の提唱するインダストリー4・0の考え方を発表しましたが、現場の自動化が進むと同時に、必然としてデータを使ったモノづくりの進化がそこから始まる。順番に人からロボットへ、さらには、データを使ってデジタル化された現場がより進化していく。こういうスキームをi3‐メカトロニクスというコンセプトの中で推進し、よりよいモノづくり、生産性を追求していくというのが我々の考え方です。
ロボットを必要なところにもっていくという考え方が次のステージとして考えられます。そして、もっとロボットの活躍する場面が自立するならば、自走というモバイルロボティクスが当然次に生まれます。これらを支える中で、いかに簡単に使うかというのは絶対的な話なので、イージー・トゥー・ユースの技術の進化または導入が生まれてきます。
次には、現場のデジタル化、自動化が進むことによって必然的にデジタルデータが集まってくる。現場のデータを上げていくエッジコンピューティングの領域において、安川コックピットという名称でエッジのプラットフォームを提唱しています。分析、AIの活用で、安川コックピットの中のコンテンツ、ソフトの拡張、進化を仕上げていきます。
■生産管理維持へ信頼性向上
【ユーザーの要望】
三神 話しから見えてきたのは、ロボットが多品種少量やカスタマイズに対応し、ユーザーが中小製造業や小売りにも広がる。そして人とロボットがつながるということ。もう一つは現場の人間はどのように教育されるのかということです。
次に、実際ロボットを使っているトヨタ自動車の大倉様お願いします。
大倉 ロボットシステムに対する技術の期待値は世界中で大きいというのが現実です。これは私ども、特にグローバル生産している会社ですので、世界中で労働力不足が始まり、こういったことがひしひしと伝わってくるところです。
今までの自動車の製造工程ですと、エンジンや足周り部品をつくるユニット系、それから車両そのものをつくる工程です。特にロボットが多く採用されているのが車両の工場でして、溶接や塗装などを行います。
トヨタは、スポット溶接やアーク溶接、塗装の自動化を進めるためにロボットを導入しています。海外を含めて当社で2万2000台ほどのロボットを現在導入しており、自動車業界の中でも多いと思います。一方、組み立て、キャスティング、鋳造、鍛造などはまだ人が行っています。特に、やわらかい部品を運んだり、裏返したり、組み込んだりするようなところへのロボットの活用を今後期待しています。
そういったところでロボットを使うのに、最も大事なのは安全です。昨今の協働ロボットに、実は私どももチャレンジしていまして、現在、数十台から数百台レベルに導入が始まっています。ただ、先ほどの2万台規模に比べると1%にも満たない。どううまく使うかと、考えながらやっています。そこで困り事が、いろいろな自動車部品をロボットでハンドリングすると、ロボット本体が安全であっても、ツールと挟まれたり、ワークと治具の挟まれ、切創とかがリスクとして想定されます。これらを1個ずつ潰していくのに大変時間を要しており、導入が進みません。これを包括的にシステム化してもらえると、協働ロボット導入も進みが早いと思います。
これは私どもの中の、過去3年ぐらいのロボットの故障箇所の比率です。CPUのボードなど、いろいろなものが壊れます。故障箇所が特定できないと、長時間停止によって生産が止まるのが現状です。ともかく、30分、1時間で復旧しなさいといった工場長からの命令を受けますので、私どもも工夫します。
例えばハーネスだとかモーターエンコーダーとか、何かよくわからないが壊れた。どうするかというと、それを短絡してでも、とにかく動かします。そういって一個一個、単軸を動かしながらロボットを動かす。復旧はライン終了後に、夜中にもう一度調べて復旧するやり方を、いまだに15年やっています。
日本ではメーカーのサービスが来ますけれども、ロシア、南アフリカなど海外ではこうしたことをやっているのが現状です。協働ロボットも、信頼性が上がらないと、広がらないのかなというのがユーザー側の現状です。
今、皆さまがIoTで兆候管理などを進めていますが、故障をなくす活動に生かしてもらいたい。自動車は20年前に比べ壊れにくくなったと思います。そうしたことで信頼をいただきながら、自動車という製品も進歩していますので、ロボットも進歩していただければと考えています。
松浦 私ども、ニトリのEコマース事業であったり、金融事業とか教育事業、物流事業をやっています。
ニトリグループの物流は、実は日本の輸入コンテナの2%を超える量を扱い、最終的には320万件、これは組み立て配送です。日本で最も大きな規模です。いわゆる宅急便で有名な会社の倍ほどの件数です。さらに、この320万件の中には、実はニトリの商品だけではなく、ニトリの競合となるインテリア会社さんなど、この2年間で150社契約し、配送しています。
日本のロジスティクス業界もここから数年でも15%、44万人減ってしまう。10代、20代がたった7%で補充される見込みはありません。取引先の大半は中小企業で、正直ロボットを入れられず、収益率も低い業界です。
我々は今5000億を超える売り上げですが、実は家具は売り上げの4割ぐらいです。通販が伸び、数年前に建てた倉庫内で働く人数は倍どころの騒ぎではありません。いったん機械を据えても、どんどん成長し、計画と狂うので、また移転し、追加するため、なかなか読めません。
コンテナを受けるところから組み立て配送の部分まで全ての作業や動作を確認し、ある程度スキル曲線でいうと止まってしまったところは全部、ITや機械化する。逆にいうと、相手が人でないといけない分野のみ、トレーニングなどで磨いて、それ以外はどんどん変えるという方針を決めました。マーケティング、テクノロジー、ヒューマンリソースという三つの柱で強化していったということです。
通販が伸びるなかで、オートストアを日本で初導入します。また、インドのグレイオレンジさんのバトラーという機械も試しています。どちらも日本で初です。正直ファーストオーダーというのは苦労します。それでもチャレンジです。その運用のノウハウこそが競争優位性になると思っています。
あわせて、ここから数年で500億規模のセンターを三つ四つ建てますので、それに対しての勉強代としては非常に安いと考えています。だめなら捨てればいいのです。一度投資したものに固執しない。さらに効率がいいテクノロジーが生まれますから、そのときに切りかえることを我々の方針にしています。
三神 新しいシステムをつくるのに、なぜ日本のロボットメーカーではなかったのですか。
松浦 もちろん日本メーカーともおつき合いがあります。ただ、世界中のロジスティクスの仕組みを変えていっているのは、通販、Eコマースです。そのEコマースが日本はまだとろいのです。お金がかかるインフラに彼らが投資しなかったのが致命的です。インフラを握れば市場も握れたと思います。そういう意味では中国とか、それから米国が産業構造を変えているということで、お金が集まっていると思います。
■AI・IoT技術重要に
【安全性向上】
三神 トヨタさんからも指摘があった故障の多さですとか、安全性の種類もいくつかあります。人に危害を加えない、部品を損傷させないといったものもあります。ロボット同士がつながったときのハッキング対策や、人のノウハウがロボットに移転したときに、ノウハウを守る手段はどうなるのだという安全性もフェーズがあります。この問題意識で、ご意見がありましたらお願いします。
橋本 ハッキングの問題では、外部のネットワークと我々のシステムをつなぐことは皆さんほとんど許していただけません。サービスにおいて、ネットワークを通じてサポートできるような仕組みはあると思います。ネットワークの可能性を知りながらも、それを守るという形で、仮想私設網(VPN)みたいに何かのときにはつながるが、普段は我々外部から切って、お客さまの内部でつながっているというやり方もあると思います。
先ほどの信頼性に関しては、何年か使うと消耗品なので、やられてしまう部品があります。ネットワークを使った故障予測に各社は取り組んでおり、お客さまがダウンタイムを起こさないという取り組みを各社はしています。
それと安全に関しては、ロボットとの共存にもあり方がいくつかあります。一緒にいながらという共存もありますし、少し離れた場所から人が関わっていくというのも一つのあり方だと思います。また、いろいろなメーカーが安全に対する提案、取り組みをたくさんし、それを組み合わせた中で、いいものが生まれると思います。
ニース クラウド経由で今、何千台ものロボットがつながっています。もちろんサイバーセキュリティーはほとんどのお客さまが最も懸念されています。我々も業界としてそれに対して真摯(しんし)に対抗策を講じていかなければなりません。我々はこの先もやはりサービスセキュリティーに継続して投資する必要があると思います。
確かに、自社内のネットワークを外につなげたくないという企業が多いのは存じ上げていますが、この先のコネクティッドサービス、そして予知保全を実現するためには、やはりロボットをクラウドにつなげるということもやっていかなければなりません。
小川 先ほどの現場の安全の話で、少し冒険的な発言かもしれませんが、もともと、現場は危険である。その認識を我々はすごくもっています。ロボットがあるから安全柵が必要だという議論から、現場全体の安全性をどう確保するか、人が作業していたとしても、安全というのはいかなる方法をとっても確保しなければならない。安全柵が全ての安全の確保ではなくて、現場のリスクアセスメントという部分を使う側、提供する側全てがやらなければいけない。
作業環境の安全性をどう確保するかという議論では、自動化という話がより進むと同時に、本質的な安全の確保ができるのではないかと思います。フェンスをなくすという考え方をより積極的に展開すれば、どのように作業現場を安全にするかという議論が加速すると私は期待しています。メーカーだけではなく、ユーザーとも議論を深めたいというのが強く思うところです。
稲葉 最近強く感じるのは、今まではコストカットをメーンに自動化を行いたいというお客さまが多かったのですが、人がいない、だから自動化をしなければという要望が非常に多いと感じます。
中小企業や多品種少量の現場の自動化ですが、今まではロボットを使う環境をまず用意してという話に対して、今度は逆に人がメーンでロボットが補助的にどう入るかという話に切り替わっています。ただ、ロボットは、決して安いものではない。リスクもあります。
最初から投資するのではなくて、リースとか、レンタルも一つの可能性として感じています。どうやって多品種少量の中で、ロボットが導入されていくのか、技術的な話と、対投資効果、この2点は今後も考えなければいけない。また、信頼性は非常に重要で、我々も努力しています。
ネットワークという話が先ほどありました。現場が緊急事態のときに冷静に話すことは結構難しいと思うのです。電話で聞いた情報の精度はどこまでかというのは結構ある。そういった意味でバーチャルという一つのツールは、物理的な距離を超えます。ネットワーク、バーチャル的な技術は今後非常に重要だと思います。何より学習、AIを使い、動きながらシミュレーションして、失敗をパラレルに考えられる。その一つの技術として非常に重要だと思います。
ネットワークは非常に重要な技術だと思いますが、一方でセキュリティーをいかに担保するかです。残念ながら、自社ではできなかったので、シスコと一緒に組んで今後展開したいと思っています。
ランパ ロボットの安全性が最も重要です。コラボレーションするロボットはたくさんの仕事ができるわけです。今この準備はかなりできています。でも、アプリケーションが必要です。サードパーティーのサプライヤーも一緒にこういった全てのサプライチェーンの中で安全にコラボレーションできるようにしないといけません。
今のロボットは非常に信頼性が高いのですけれども、非常に極端なサイクルで走っています。4・0のインダストリーロボットはつながっていますけれども、全てのメンテナンスを短期で行うところに適用できるものでもないと思います。ただ、つながっていれば、モーターが壊れないように温度を調べたり、トルクがどうなのか、センサーでフィードバックできます。何か起こる前にロボットを修理できます。
国崎 先ほどニトリさんの活動を聞いて、はっと思いました。製造現場で実際に作業する人の数よりも、実はその周りでパーツを受け取り、生産順に並べかえて、ラインに供給して、できた製品を出荷するという人たちのほうが多いということです。工場全体の自動化がモノづくりの課題というのに、私どもロボットメーカーは今までアーム式のロボットに中心を置いていて、そこに目が行き届いていなかったのが反省点と考えます。今回の展示会で、私ども、そのもとになる製品も展示していますが、これからその分野に発展させていかなければならないと考えています。
一方、信頼性の話も出ました。提供のデータでは、半分がメカ関係のハードウエアのエラーで、当方も認識しています。どういう壊れ方をするのかというのは、どういう使われ方をするのかの裏返しで、設計、開発を行った人間が全て把握しているとは言い切れない。今後AI、IoTを使うことで、どういう環境で使われているかというデータが手に入り、この分野の開発が進むと思います。幸いロボットはもともとコンピューターで動くので、このデータを使った今後の信頼性の向上について活用していきたいと考えています。
■セキュア状態の担保を
【“つながる”課題】
三神 メーカーサイドのお話でしたが、大倉様はどのように受けとめましたか。
大倉 最初にセキュリティーの話です。今年の春ぐらいから私たちの業界もランサムウエアに席巻され、大変でした。卵が先かニワトリが先かで、セキュリティーの担保ができないと、つなげられません。実際に今回のランサムウエアの件で実証したのです。私どもは、ロボットメーカー8社ぐらい使っているのですが、3社のものは実はランサムに対して若干不安定になるという結果が出ました。その内容が私どもユーザーにまで情報をいただいていなかったのです。結果的に、つないでいなくて良かった、こうなってしまうのです。ロボットというのはもうコンピューター化されています。ロボットそのものが外敵から大丈夫かというのを、常にソフトのアップデートや、その対応をしてもらうことで初めてつなげます。特にFA機器の中の一番肝な部分ですから、ロボットのセキュアの状態はぜひ担保してほしいと思います。
二つ目、信頼性の話は、過去何十年もいわれ、皆さまの努力で上がってきましたが、まだまだです。機械系が多かったのですが、最近はロボットもコンピューター化しているためか、制御系の不具合が増えています。逆にこれが私たちの工場の匠(たくみ)の人間にわかりにくいのです。減速機が故障だというと、音を聞くと、これが壊れそうだとか、グリースが切れているなとか、わかるのです。だから、制御系の故障が増えると、実は修理に時間がかかることになります。
最後に安全の話です。アミューズメントだとOKなのか、私たちから遊園地をみると危なくてしようがないのですけれども、これは工場の中だとアウトなのです。安全柵などないのに、よくこんなものが動いているなというのが遊園地にはあるのです。柵の話、議論はそうなのですが、そうはいっても、けが人が出ると労働災害になります。私どもユーザー企業としては正しくみなければいけない。皆さん一緒になって考えていきましょう。
最後に、ニトリさんと同じですけれども、労働単価の高い人がする仕事に競争優位性を発揮するためにテクノロジーを使ってきました。単純作業をロボット化して、では人は何をするのかというところに行き着く。アルファ碁ではないですが、ああいうAIが出てくると、また仕事が奪われます。私たちは何をしていけばいいのか。ただ、労働人口は減りますので、価値ある仕事を生むのにロボットが支えなければいけないとは思います。
三神 ニトリの松浦さんにもコメントをお願いします。
松浦 私が明日お披露目しようとしているバトラーというのはAIで生産性を上げるという仕組みですが、今テストをやっていて、一向にうまくいきません。何でそうなるか、いいときも悪いときもあるのです。つまり改善、改革活動が人間の手を離れてしまっています。我々がそれで学習したことをまた皆さんに投げたいという思いでやっています。
実はロボットメーカーは自動車で儲(もう)かっていたと思います。電気自動車になったら多分ロボットメーカーも厳しいと思います。
AIとかIoTといっています。私、グーグルといつも米国シリコンバレーでミーティングしていますけれども、結局そういう話になるとロボットメーカーそのものがウィンドウズが出てきたパソコンみたいになってしまって、コモディティー化してしまうのではないのかと、皆さんどうお考えなのか気になりました。
■世界共通の困り事解決
【業界の行方】
三神 今の問題提起とあわせて、ロボットメーカーはこれからどうなっていくのでしょうか。
国崎 非常に難しいテーマです。今までのモノづくりは、誰もが同じ方法で作れるという決まりをつくることに終始しました。一方、それができない、マイスターの部分も残されていて、これは特に日本のモノづくりの中でうまく残っていると思います。
ただ、ここまで人が少なくなり、海外生産も同じようにやるとなると、マイスターの標準化になってAIが入ってくる。私どもの開発者もいろいろ挑戦した成果について、何を良しとするかの判断はロボットメーカーだけではできない。こういう製品がいいというのは、ほかならぬお客さま、現場で決めることです。AIの部分を一緒につくらないとできないと考えています。
橋本 きょう、匠という話がありました。AIがあるとロボットはコモディティーになるという言われ方には憤慨します。頭のいい人が匠の作業ができるかというとそうではなくて、たゆまぬ鍛錬によって得られる作業はいっぱいあります。
我々は、それだけ動きをつかさどる部分に特化して、やわらかく、器用な動きをしていく。つまり、どんなに頭がよくても、器用な動きがどこまでできるかです。匠の技ができるロボットを供給し、IoTの力と一緒になって、よりそれが発揮される社会にしないといけないと思います。
それと、我々が今考えているAIは、人間をお手本にするというものです。人を超えられないかもしれないけれども、人をお手本にやることは十分できます。AIをどこにフォーカスして、どこに使うか、実際ロボットとAIが融合する道だと考えています。
小川 今までもロボットは、必ずしも高度なことができているわけではないし、人間を助けますといいながら、できることは非常に少ない。その中で、AIを活用し人間のやることにより近いスキルをロボットに持たせたいというところに今のステージがあります。
人間のやることをロボットがやるので、そんなに大きなリスクはないと思っています。ただ学習する中で、なぜこんな結果になったのかというアルゴリズムは、意外と解明できていない。結果がだんだん人間のパフォーマンスに近づけば良かったということであって、それをどうすればいいのかという論理は意外とわかっていないという現実は、今後の課題です。これは我々だけではなくて、アカデミックな領域の人たちともやっていかなければいけない話と理解しています。
もう一つ、ロボットはコモディティー化するのではないのかという話しです。なにをもってコモディティー化かということですが、ロボットアームといったハードウエアは、あくまでもアプリケーションに適合するための道具であると考えれば、モーターをどうコントロールするかという部分は今もコモディティーになっているのだろうと思います。今後はそれをどう生かすかというアプリケーションであったり、ソリューションのアイデアの進化によって多彩さが生まれ、さらに広がるのだろうと、我々も柔軟に対応しなければいけないと思います。
ランパ 製造拠点での仕事を子どもたちにはさせたくない。危険な仕事はさせたくない。何か退屈な仕事はさせたくない。欧州連合(EU)の28の国々で4000人以上の人々が昨年、命を落としました。これは普通の製造拠点の事故で亡くなられたのです。こうした状況は悲劇だと思います。ですから、ロボットをつくっていくときにはここに焦点を絞らないといけないと思うのです。危険で、汚い、そして大変な4Kの仕事をロボットにしてもらえればということです。ハイレベルな仕事は、ロボットと人と一緒にするべきだと思うのです。
ニース 中核となる産業ロボットの力はやはりハードウエアの力です。コモディティーになるという話がありましたが、今も、将来もハードウエアはやはりコアだと思います。どのようにロボットをコントロールするか、そして強いアプリケーションと結びつけるかがカギです。
コモディティー化されてしまうであろうという場合、私たちロボット会社はAI、マシンラーニング、ディープラーニングといった分野にもっと多くの努力を投入しなくてはいけない。メンテナンス分野でもマシンラーニングができるでしょう。
ということで、ほとんどの作業はロボットに代替できるでしょう。それに、ロボットはもっとインテリジェントにできます。そして制約のないところで強い力を使い、長い経験を培っていくことができると思うのです。またシンプルにすることもできますし、そして自分で動けるようなロボットもできます。ですから、コモディティーになることはないと思うのです。私たちは高齢化社会を助けることができる、次の段階だと感じております。
三神 今のご意見を受けて、一言ずつお願いします。
大倉 油圧ロボットの時代からお世話になっていまして、30数年進化し、これから先もますます進化すると思います。皆さんの働き方が変わるようなロボットをたくさん開発してください。自動車以外の業界にも活躍の場は広がると思います。
松浦 今回は役割としてハードボールを投げたということでご理解下さい。日本の物流業だけでなく、世界で働く人が足りない。困り事は世界共通です。ロボットメーカーの皆さまに、いろいろな知恵を提供いただき、産業発展に貢献していきたいと考えています。
ニース 今のロボット業界で起こっていることはすばらしいと思います。劇的に進化し、技術が変わり、この速度はさらに加速するでしょう。それをけん引しているのは日本の企業や市場でもあると思います。市場は新しいソリューションを求めています。さまざまな業界の助けになるソリューションを提供したいと思います。
橋本 ロボットに対して期待やニーズをいただきました。大変チャレンジングですが、やりがいもあります。皆さんのご期待に沿えるようなものをこれからも提供し続けたいと思います。
稲葉 異業種との交わりが非常に強くなるなか、IoTによって、新しい分野が開けてきていると思います。今後、いろいろな業界で、さらにカスタマイゼーションが進んでいくことにどう対応していくかです。現場の知見がないと実際にはAIは使えませんが、モノづくりが強い日本だったり、ドイツだったりの自慢の知見が、ロボットメーカーの競争力にも直結していると思います。
ランパ スマート製造、インダストリー4・0を実現する技術はあるのです。我々に必要なのは勇気だと思います。我々はこの技術をいかに実現し、本当に使うか、そのためには一緒に歩まなければ実現しません。ロボットは近未来にEコマースや車と同じように我々の日常の一部となるでしょう。
国崎 刺激を受けました。多分、前回、前々回のロボットサミットよりも強い刺激だったと思います。ニーズもたくさんあって、幸い開発するテーマもたくさんあるのですが、最終的なゴールとして、人に代わり、人を超えるパートナーとしてのロボットの開発をもっと加速したいと思います。
小川 自動化が労働人口不足に必要なものというように変わっています。我々がそれに応えられているのはまだほんの一部ですが少しずつ進歩しているのも事実だと思います。ユーザーともっと密接に、ソリューションから物をつくるというスタンスがより必要な時期だと思います。そのための技術は、我々も切磋琢磨(せっさたくま)します。競合ではなくて協調を推進すべきと思います。
三神 2020年を過ぎると、産業用ロボットの使用が多い韓国、中国も一気に高齢化が進みます。ここに対してどのようなソリューションを提供できるのか。同時に、ロボットのマーケットの多様化が一気に進みます。ただカスタマイズは人間でなければできない。人間にどんな仕事が残るかですが、そんな近未来も見えたと思います。ありがとうございました。
【iREXロボットフォーラム2017・パネリスト】
■メーカー代表
川崎重工業 常務執行役員 ロボットビジネスセンター長 橋本康彦氏
ファナック 取締役専務執行役員 ロボット事業本部長 稲葉清典氏
不二越 フェロー 国崎晃氏
安川電機 執行役員 ロボット事業部長 小川昌寛氏
ABBグループ ロボティクス&モーション事業本部
マネージングディレクター ロボティクス事業責任者 パーベガード・ニース氏
KUKA Roboter 最高経営責任者(CEO) ステファン・ランパ氏
■ユーザー代表
トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー 工程改善部長 大倉守彦氏
ニトリホールディングス 上席執行役員 ホームロジスティクス 社長 松浦学氏
■モデレーター
ジャーナリスト 三神万里子氏
(2017/12/27 05:00)