[ ICT ]

【電子版】松岡功の「IoT&AI最前線」(20)国立情報学研・喜連川所長が説く「AI活用で最も重要なのはデータ」

(2017/12/29 05:00)

  • 国立情報学研の喜連川所長

「人工知能(AI)を活用するうえで最も重要な役割を果たすのはデータだ」――。こう語るのは、国立情報学研究所(NII)の喜連川優所長だ。1年の節目を迎えたタイミングでの今回の本連載は、日本の情報学の第一人者である同氏の発言に注目したい。

NIIが「医療ビッグデータ研究センター」を設置

喜連川氏の上記の発言は、NIIが先頃、AIをはじめとした最先端情報技術の活用によって医療分野の課題解決を推進する「医療ビッグデータ研究センター」を設置し、本格的な活動を開始したことを発表した会見でのひとコマである。

NIIはこれまで、日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業に採択された日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本眼科学会とそれぞれ連携して研究開発を進めてきた。さらに、今後は同センターを基盤として、NIIが構築・運用する学術情報ネットワーク「SINET5」を活用した医療画像ビッグデータのクラウド基盤の構築やAI技術による医療画像解析の研究開発に取り組んでいく構えだ。連携する医療分野の学会も今後増える予定だ。

医療ビッグデータ研究センターが取り組む研究開発事業では、各学会の段階で匿名化された医療画像情報を安全な環境で収集し、研究者がクラウド上でデータ解析を行えるようにする「医療画像ビッグデータクラウド基盤」を構築する。

大学や病院から各学会のサーバへ、そして各学会のサーバから医療画像ビッグデータクラウド基盤への医療画像情報の安全な環境での転送には、全都道府県を100Gbps(毎秒100ギガビット)の超高速回線で結んでいるSINET5と、SINET5が提供する仮想プライベートネットワーク(VPN)の機能を活用する。収集された医療画像ビッグデータについては、深層学習/機械学習や画像認識といったAIを活用して解析する「AI解析」の技術を開発するとしている。【下図参照】

  • 【図】医療画像ビッグデータクラウド基盤のイメージ

医療ビッグデータ活用でオールジャパン態勢に

医療ビッグデータ研究センターでは、日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会、日本眼科学会が収集し、匿名化した医療画像情報について、2017年度中にデータ登録を進めていきたい考えだ。

同年度のデータ登録症例数(研究協力病院数)としては、日本消化器内視鏡学会が1万(62)、日本病理学会が11万(23)、日本医学放射線学会が1万5000(6)、日本眼科学会が2万(21)、合計15万5000(112)を目標としている。18年度以降は、より多くの病院などの強力を得てデータ収集の規模を拡大していく予定だ。

この会見で、筆者が最も印象深かったのは、冒頭の喜連川氏の発言である。質疑応答で「この取り組みは医療分野のビッグデータ活用としてオールジャパンの態勢になり得るか」と聞いたところ、同氏は次のように答えた。

  • (左から)NIIコンテンツ科学研究系教授で医療ビッグデータ研究センター長に就任した佐藤真一氏、喜連川氏、AMED理事長の末松誠氏、日本消化器内視鏡学会理事長特別補佐の田中聖人氏

「なり得るかどうかではなく、オールジャパンの態勢にしていかないといけない。その可能性は十分にある。というのは、これまでの医療分野におけるIT活用は、特定の医療機関とIT企業による取り組みだったので、そこから得られるデータの量は限られていた。しかし、今回はNIIが医療分野の各学会と連携するというこれまでになかった取り組みなので、従来に比べて圧倒的に大量のデータを収集できるようになり、それによってAIを十分に活用できるようになる。この取り組みが、医療業界にもIT業界にも大きな変革をもたらすと確信している」

この見解を聞いて、「AI活用で最も重要なのはデータ」という喜連川氏の冒頭の発言が一層重みを増した。改めて、そのことを忘れないようにしておきたい。

(隔週金曜日に掲載)

【著者プロフィール】

松岡 功(まつおか・いさお)

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT」の3分野をテーマに、複数のメディアでコラムや解説記事を執筆中。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌の編集長を歴任後、フリーに。危機管理コンサルティング会社が行うメディアトレーニングのアドバイザーも務める。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年生まれ、大阪府出身。

(2017/12/29 05:00)

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