[ オピニオン ]
(2018/1/9 18:30)
クルマがスマホ化する-。ちょっと前まで自動運転車やコネクテッドカーへのクルマの進化を言い表すのに、こうした言い回しがなされ、「なるほど!」と膝を打った覚えがある。クルマだけではない。人型ロボットの「ペッパー」も常時ネットワークにつながり、さまざまな情報を提供してくれる。こちらはロボットがスマホになったようなものだ。
だが、今から思えば、そうした見立てはいかにも底が浅いものだった。それをしっかり再認識させてくれたのが、トヨタ自動車が米ラスベガスの「CES2018」向けに8日発表した電気自動車(EV)「eパレット・コンセプト」だ。完全自動運転機能を搭載し、箱型で床が低く大きな室内空間を持つこの商用EVコンセプトカーは、単に走って人やモノを運ぶだけではない。自動運転車と車両空間をさまざまなビジネスと組み合わせ、「モビリティー・エコノミー」(移動手段経済)という新しい産業分野での物理的なプラットフォーム(基盤)を担うものだ。
トヨタのeパレットでは、事業の用途に応じた設備を搭載しながら、ネット通販の商品配送・宅配から、無人タクシーやライドシェア(相乗り)、移動店舗、レストラン、オフィス、ホテルと、さまざまな業務への展開を想定。米アマゾン・ドット・コムや米ウーバー、中国配車サービス大手の滴滴出行(ディディチューシン)、米ピザハット、マツダの5社と提携し、2020年代前半に米国で実証実験を始める。20年の東京五輪・パラリンピックでは、一部の技術を活用した車両を移動手段として提供するという。
豊田章男社長はニュースリリースの中で「これまでのクルマの概念を超え、お客様にサービスを含めた新たな価値が提供できる未来のモビリティー社会の実現に向けた大きな一歩」とコメントしている。これまでのようにより良いクルマを作って顧客に提供するだけでなく、それを使ったサービスの提供が今後の成長には不可欠との認識を示した。
実際、自動運転機能を使ったサービス事業の比重が近い将来、急速に増すとの予測もある。インテルなどが17年6月にまとめたレポートでは、自動運転車が将来生み出すモノやサービスへの経済効果を「パッセンジャー・エコノミー」(乗客経済)と名付け、2035年の8000億ドル(約90兆円)から、2050年には7兆ドル(約791兆円)規模にまで拡大するとの試算を明らかにした。
そこでは、自動運転車による移動手段を事業者や個人に提供する「モビリティー・アズ・ア・サービス(MaaS)」という事業形態が登場。特に個人向けでは、それまで運転に費やしていた時間を別のことに使ったり、移動中に乗客にサービスを提供したりする新しいビジネスが生まれ、現在注目を浴びる「シェアリングエコノミー」の2倍以上の経済規模になると予測している。
ただ、こうした商用分野を狙っているのはトヨタだけではないだろう。そのためか、トヨタは5社の提携相手とともにMaaSの実用化を急ぐとともに、eパレットに使われる車両制御インターフェースを自動運転制御ソフトウエアやカメラ、センサーなど自動運転関連のソフト・ハードを手がける開発会社に公開、仲間づくりを進める方針でいる。
この分野で当面の強敵とみられるのは米グーグルか。グーグルは自動運転車の完成車開発をあきらめたとはいえ、人工知能(AI)を含めた自動運転のコア技術と豊富な公道走行データを持ち、自動運転車部門のウェイモはFCAやホンダ、さらにはウーバーのライバルでもある米リフトとも提携済み。グーグル自体、ネット通販や広告、モバイル決済のプラットフォームを押さえていることから、モビリティー・エコノミーでも自動運転システム込みでのプラットフォーム獲得を狙ってくるだろう。
自動運転は主に技術面で自動車とITが融合し、モビリティー・エコノミーではそれらがビジネスの推進力となる。自動車メーカーもプラットフォームを握っておかないと、巨大IT企業のために車両を提供する下請けに甘んじることになりかねない。新たな成長分野の出現を前に、自動車メーカー、IT企業、大手ユーザーを巻き込んだ激しいプラットフォーム争いや合従連衡が予想される。
(デジタル編集部・藤元正)
(2018/1/9 18:30)