[ ICT ]
(2018/1/12 05:00)
2018年最初の本連載にあたり、人工知能(AI)の今後を、電子情報技術産業協会(JEITA)およびIDC Japanが公表した予測レポートをもとに展望してみたい。
世界のAI市場規模は2025年で317兆8500億円へ
まずは電子情報技術産業協会の予測レポートから。同協会がまとめた「調査統計ガイドブック2017-2018」では、AIについて次のように述べている。
「機械学習やディープラーニングの進展による判断・識別精度の大幅な向上により、AI技術を活用した製品やサービスが産業全体に大きく拡大することが見込まれる。このAIインパクトにより、移動、買い物、会話・交流、健康維持、製造、食の安全・農業など、私たちの生活やさまざまな産業は効率的に進歩して豊かになり、人とAIが安心安全に共存する社会の実現が期待できる」
さらに、「従来の機器・機械は“AI搭載”によって高い付加価値のある全く新しい製品に生まれ変わる可能性を秘めており、AI市場規模として、2025年には世界全体で317兆8500億円、それまでの10年間の年平均成長率は41.0%増で推移する。また、そのうちAI搭載ロボット市場の規模は130兆4000億円、年平均成長率36.5%となる見通しだ」としている。【図1参照】
ちなみに、2025年に317兆8500億円という数字は、2015年が10兆3000億円だったことから、30倍超になる計算だ。日本の業界団体が世界全体のAI市場規模を示しているのが非常に興味深いところである。
今年、普及期に入るコグニティブ/AIシステム
次にIDC Japanの予測レポートから。同社が先頃発表した「2018年 国内IT市場の主要10項目」では、そのうちの1項目で「コグニティブ/AIシステムが普及期に入り、2018年には2017年の2倍に市場が拡大する」と予測し、次のように説明している。
「コグニティブ/AIシステム市場は、2017年の国内市場ではブームとも言える状況だったが、IDCでは実際のビジネスに対する適用は少数であり、POC(実証実験)が大多数を占めていたと推定している。こうしたユーザーは2018年以降に、AIの効果的な適用領域を見付け出して、本格導入フェーズに移行する」
「この背景には、AIの適用領域(用途)の拡大があり、現在の主流である大規模なデータ分析に対する集計の迅速化と異常値の検出、顧客サポート(コンタクトセンターでのオペレーター補助など)や金融機関での不正検知から、サービス業での専門家サービスの補助や、業務と製品品質の向上を目指す製造プロセスの改善、チャットボットへの適用による流通業での自動受注プロセスの実行、サイバーセキュリティ対策へのAIの利用など、より具体的な業務補助の役割への拡大が見込まれる。さらには、AIスピーカー、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)への適用や、消費者向けロボット、自動車などの消費者向けのAI利用の拡大が進み、“誰でもどこでもAI”に触れる環境が整う」
AIはこのように適用範囲を広げ、IoTやOT(制御技術)を含むあらゆるアプリケーションで活用されるとIDCではみており、これを「パーベイシブAI」と呼んでいる。
こうしたAIの適用領域の拡大は、働き方改革の本格化を迎える2018~2019年には東京オリンピック/パラリンピック向けの投資とともに、急速に普及するとIDCではみており、2017年の市場規模275億円から2018年には549億円と約2倍の規模に急成長し、2019年には1000億円を超える規模になると予測している。
また、AIのパーベイシブ化によって、あらゆるアプリケーション/ワークロードにAIが利用されることになり、既存の「第2のプラットフォーム」をベースとしたアプリケーション/サービスに対して「第3のプラットフォーム」への移行を促進し、新たな付加価値やイノベーションを提供することになる。この潮流に乗り遅れるIT(第2のプラットフォームに留まり続けるIT)は次第に競争力を失い、市場から脱落していくとIDCではみている。
IDCの思惑通り、パーベイシブAIという表現が定着するかどうかは分からないが、AIがあらゆるアプリケーションで活用されるようになるのは間違いないだろう。2018年もなお一層“AI旋風”が巻き起こりそうだ。
(隔週金曜日に掲載)
【著者プロフィール】
松岡 功(まつおか・いさお)
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT」の3分野をテーマに、複数のメディアでコラムや解説記事を執筆中。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌の編集長を歴任後、フリーに。危機管理コンサルティング会社が行うメディアトレーニングのアドバイザーも務める。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年生まれ、大阪府出身。
(2018/1/12 05:00)