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[ 医療・健康・食品 ]
(2018/1/30 05:00)
抗がん剤など副作用低減
既存薬の有効成分を“再利用”して新薬を生み出そうとする動きが広がってきた。薬剤を必要な部位に送達する技術のドラッグ・デリバリー・システム(DDS)を見直すことなどにより、有効成分の薬効を高めたり副作用を低減したりできる可能性があるためだ。創薬手法や未充足の医療ニーズは変化を続けており、新規有効成分の創出が難しくなりつつある。既存の資産を活用する割り切りは武器になり得る。(斎藤弘和)
「新しい化合物の開発難易度が上がる中では、既存化合物の改良がもう一度見直されるべきだ」。田辺三菱製薬の三津家正之社長はこう力を込める。同社は製剤の工夫や、薬と機器の組み合わせで患者ニーズを満たす「デザインド・ファーマシューティカルズ」に力を注いでいる。この一環で2017年10月、イスラエルのニューロダーム(レホヴォト市)を買収した。買収で得たパーキンソン病治療薬「ND0612(開発コード)」を19年度に米国で発売する計画だ。
同剤は、すでに普及しているパーキンソン病の経口治療薬「レボドパ」や「カルビドパ」を液剤化し、携帯ポンプにより24時間持続的に皮下注射する製剤。これにより、薬の効き目が切れたり効き過ぎたりする現象を減らすことが期待できるという。田辺三菱は現中期経営計画で掲げている、20年度までに米国売上高を800億円にする目標の達成にもND0612が寄与すると見込んでいる。
富士フイルムもDDSを重視する。24年までに米国での承認を目指す抗がん剤「FF―10832(開発コード)」は、すい臓がん治療の第一選択薬として知られる「ゲムシタビン(一般名)」を、有機物のリン脂質などをカプセル状にした微粒子であるリポソームに内包した製剤。助野健児社長は「がんに有効ではあるが、そのまま投与すると副作用が強い薬を、我々のリポソームで包んでお届けしたい」と語る。
同社はこの観点で、約80ナノメートル(ナノは10億分の1)の大きさに均一化したリポソームを設計。がん組織周辺の血管壁を透過しやすくし、薬剤のがん組織への集積を向上した。動物実験では投与量をゲムシタビンの60分の1にしても同剤を大幅に上回る薬効を示した。
ゲムシタビンのピーク時世界売上高は約1500億円だったため、富士フイルムはFF―10832の大型化を期待している。ゲムシタビン以外の薬剤を内包したリポソーム製剤の検討も進める。
「抗体薬物複合体(ADC)も広義のDDSと言えるかも知れない」。エーザイの大和隆志執行役はこう話す。同社の乳がん治療薬「MORAb―202(開発コード)」は、動物細胞を培養してつくる抗体に薬剤を融合したADC。薬剤には、承認済みの自社の抗がん剤「ハラヴェン」が使われている。
ADCは抗体が標的細胞まで薬剤を運び、薬剤が標的を攻撃する。MORAb―202の非臨床データからは、ハラヴェンの臨床用量の約5分の1の用量で有効性・安全性を確保できる可能性が示唆された。20年度に第2相臨床試験の結果が出る見通しだ。
製薬業界では生活習慣病の薬の開発が一巡し、創薬手法も化学合成の低分子薬から生物由来のバイオ薬に移りつつある。こうした中で新薬創製の難易度は高まり続けていると言われる。DDSの見直しをはじめ、薬剤の価値を高める多様なアプローチが欠かせない。
(2018/1/30 05:00)