[ トピックス ]
(2018/3/31 08:00)
今回は、技術革新が牽引する次世代市場の中でも、とりわけ注目されているAI(人工知能)適用製品とマーケティングの深化について、車載音声アシスタントを例にご紹介させていただきます。
最新の車載音声アシスタントに見る近未来の自動運転
クルマの運転時に、目的地検索(ナビ)やエアコン、オーディオ等、さまざまな機器を操作しますが、これらを音声で操作されている人はどれぐらいでしょうか?
車内の音声操作(アシスタント機能)は、運転時のハンズフリー電話に始まり、現在のコネクテッドカーに留まらず、更にドライバーをより積極的にサポートする形に進化しようとしています。
例えば、仕事帰りの運転中に、奥さんとの夕食を予定する場合、「場所を◯◯レストランに設定。着く時間を妻に連絡」と声で音声アシスタントに指示します。アシスタントは、ナビの行き先を設定し、パーソナリゼーション機能により“奥さん”が誰を意味するのかを理解、レストランの到着時間を予測し、“奥さん”に「◯◯レストランで7時に会おう」という内容をメール送信します。そして、運転中にこのメールを受信した奥さんは、都合がよければ「はい」と応えることで、アシスタントはナビにレストランの場所を設定します。
このAI適用の車載音声アシスタントは、音声合成・音声認識技術のパイオニアである米国ニュアンス・コミュニケーションズ社のバーチャルアシスタント「Dragon Drive Automotive Assistant」(CES 2016 イノベーション・アワード受賞)の最新機能ですが、これらAI適用製品の開発には、人と製品の関わり方(製品の利用方法、利用体験)を再発見するような、非連続的なマーケティングの進化が求められます。
AIによる新たなユーザー・エクスペリエンス
従来のカーナビにもルート設定に音声認識が対応しているモデルはありますが、これらの多くは登録された地名や単語のみを解釈しているに過ぎず、ドライバーと対話しながら必要な情報を認識し、ドライバーがしたい目的をサポートするような機能はありません。例えば「〇〇周辺のレストラン」といえば、AIがレストランの種類(フレンチ、和食、その他)を対話で聞き出し、必要なら予約もいれる、また「近くに駐車場はあるか?」といえば、現在位置近くの駐車場ではなく、レストラン近くの駐車場を探すことができるような新たなユーザー・エクスペリエンスが求められています。
音声HMI設計のポイント
音声HMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)が様々な機器へ採用される中、先のニュアンス社は、人と機器との対話インタフェースの固有性に考慮した設計ポイントを5つ提示しています。
1.入力品質(認識精度)の向上
音質は、音声認識システムの要(かなめ)となります。JD Powerの米国自動車初期品質調査(IQS)では、「音声認識システムが発話を理解しないことが原因で、音声認識が使われなくなる」との結果があり、音声処理と音声認識技術の品質向上は、音声によるユーザビリティの向上に不可欠です。
2.過不足ない情報の提供
運転中の認知的負荷の高さ、同乗者との会話、仕事や生活の思案などさまざまな状態を考慮し、過度な情報提供は避ける必要があります。ドライバーが必要とし、かつ負担無く判断できる情報について分析検討し、ドライバーが最も重要だと考える情報を質・量バランスよく提供することが重要です。
3.適切な応答と処理
ドライバーが複数の意味に解釈できるような曖昧な言い方をした場合、音声アシスタントは適切な応答と処理ができません。そのため、ドライバーが負荷を感じない自然なやり取りを介して、ドライバーの意味を認識する必要があります。
4.エラーの許容
一般的に優れたユーザビリティは、できるだけエラーを減らし、エラーが生じた時には適切な対応が求められますが、音声HMIは、必ずしも完璧である必要はありません。エラーに至る経緯やその意味を理解し、ユーザーがストレスにならない範囲で正解を返すことがより重要であり、合理的なエラー処理によってシステムとの信頼性を確保することが肝要です。
5.対話の適切な長さ
認識精度の向上に短い対話を採用しがちですが、対話の自然性を犠牲にするべきではありません。例えば、「オーケー、それでは、この3つのオプションのうちの1つはいかがでしょう?」と言った方が、「オーケー」や「~はいかがでしょう?」などの言葉を省略するよりも満足度が高まります。
AI適用商品の課題
AIを適用した音声アシスタントには、現在2つの課題があります。1つ目は、高度なサービス、パーソナライズ化の実現に際して、個人情報を収集することに対するユーザーの理解、許容度、2つ目は、開発コストが回収できる新たなビジネス(サービス)モデルの確立です。
1つ目の課題に関して、【表1】と【表2】の調査結果を参考にご紹介します。
2つ目の課題であるビジネス(サービス)モデルについては、クルマの場合は、所有からシェアや相乗りサービス等のモデルが創出されつつありますが、これらのサービスが主流になるかは未知数です。最後に、車載、およびスマートフォンの音声アシスタント機能の利用率について【表3】の調査結果を参考にご紹介します。
当調査結果では音声HMIで先行する車載、並びにスマートフォンにあってもまだ音声アシスタントの利用率が高くありません。これらの利用動向は、今後のAIスピーカー(AI Home Assistant)市場の先行指標としても注目される所です。
注)表1、2、3の調査結果は、米国ニュアンス・コミュニケーションズ社による国内外の調査結果を抜粋編集しています。
(『新製品情報』2017年8月号掲載)
(土曜日掲載)
【著者紹介】
武道 誠芳
株式会社テンプロテクシー代表取締役
(マネジメントコンサルタント)
所属:(株)テンプロクシー にて、コンサルティングサービス、マーケティングサービス、ロボットビジネスを展開
生年:1960年
出身:富山県
学歴:横浜市立大学商学部卒業
経歴:外資系コンピュータメーカー、システムコンサルティング会社、サイパン航空事業への参画後、1996年起業
(2018/3/31 08:00)