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(2018/4/26 05:00)
近年、知財戦略の重要性が叫ばれる中、企業の知財活動に対する意識は高まっており、中小企業による特許出願件数は増加している。しかし、中小企業の知財活動はまだ十分とは言えない。中小企業の数は国内企業のうち99.7%を占めているが、国内からの特許出願件数に占める中小企業の割合は15%にとどまる。知財の活用をより進めるには、どのような方策が有効なのか。日本弁理士会会長と発明推進協会副会長に、中小企業の知財活動を活性させる取り組みについて聞いた。
全国に「知財広め隊」 日本弁理士会会長 渡邉敬介氏に聞く
訪問型知財コンサルにも力
―中小企業に知財の有用性を認識してもらうセミナー「知財広め隊」を2017年度から実施しており、2年で100カ所程度の開催を目指しています。
「全国網羅的に実施することで、中小企業の知財に関するマインド改革を広範囲に効果的に行っていく。初年度は41都道府県・合計55カ所で開催した。復興支援も兼ね、福島県郡山市で開催した第1回には250人を超える参加者を得た。これに勢いを得て通年で実施できた」
―特許事務所への依頼経験がほとんどない中小企業の発掘を目標の一つに掲げます。達成度合いはいかがでしょうか。
「アンケートや交流会を通して、これまで知財に関心の薄かった企業から『弁理士に相談してみたい』という声を多くいただいた。特に、日本弁理士会のセミナー開催実績がなかった地域では、当会イベントに始めて参加する企業が多かった。地方銀行や信用金庫など地域金融機関の協力が有効であることが分かったので、引き続き連携強化を図りたい」
―18年度の目標や新たな方針があれば教えてください。
「知財広め隊の2年目の活動として、スタートアップ企業や起業を目指す学生に対してセミナーや座談会、交流会への参加を働きかけ、若い世代での知財活用意識を高めていきたい。また、1年目で未開催の府県での開催を含め、50カ所での開催を目指す」
―「弁理士知財キャラバン」にも力を入れています。
「特許やデザイン、ブランド、コンテンツ、製造ノウハウなどの知財をうまく活用し、成長を目指す中小企業を応援する。知財経営コンサルティングのスキルを持った弁理士が直接企業を訪問し、ともに課題を解決する。これまで累計で308人が研修を修了し、108人の弁理士がコンサルティングを実施した。訪問した企業数は144社にのぼる」
―弁理士知財キャラバンについて18年度の活動方針は。
「企業からの申し込みを待って実施するだけではなく、知財広め隊の交流会などの場を利用して、伸びそうな企業を積極的に勧誘していきたい。また、知的財産経営センターが選んだ企業や、地方自治体、地域金融機関などから紹介された企業にも積極的に働きかけ、実施することを視野に入れる」
―訪問型知財コンサルを受けた企業の反応は。
「訪問型知財コンサルを受けた企業にアンケートしたところ、回答企業のうち『非常に良かった』と回答が80%に達し、次いで『良かった』が20%と非常に好評だった。企業からは『知財について直面する具体的課題を解決するためのヒントを得た』『経営上の方針を定める上でのヒントを得た』などの声が多く、弁理士も業としてコンサルティングを行うことができると実感している」
【略歴】わたなべ・けいすけ 1975年千葉工業大学工学部機械工学科卒業。卒業後、豊田内外特許事務所(現・豊栄特許事務所)入所し、88年弁理士登録。日本弁理士会では、2006年度に副会長を務め、17年4月会長就任。千葉県出身、67歳
知財も資産 日本発明推進協会副会長 中島誠氏に聞く
三位一体の経営戦略を
―企業数のうち99%以上を占める中小企業を取り巻く知的財産の状況は。
「特許などの知財が中小経営者にとって身近になりつつある。だが2017年の中小企業白書によると、日本では年間の特許出願数26万件のうち、中小企業からは4万件と全体の15%しかなかった。米国の中小企業は同25%で、日本はまだまだ改善の余地がある」
―知財は中小企業にとって薬にも毒にもなりえます。
「今まで融資を受ける際、担保にしていた土地や株だけでなく、特許などの知財も企業の資産と見なされることがある。金融機関から融資が受けられる可能性があり、資金や人材に制限がある中小企業にとって知財の意義は大きい」
「知財は企業経営の成功のカギとなるが、一方でつまずきの原因にもなる。中小企業では研究開発に夢中になるが、先行事例の有無や大学との連携の必要性など研究前に知財の事前調査が必要だ。知財は独立したものではなく、事業と研究開発の三位一体で行わなくてはならない。道具として知財を使いこなすことが経営者として求められる」
―協会の取り組みは何でしょう。
「11年から工業所有権情報・研修館(INPIT)からの受託事業として、中小企業の経営者が知財を含む企業経営について相談するための支援事業を行っている。47都道府県の受け入れ機関と提携し、各都道府県窓口で数人を常駐させ、中小経営者からの相談を受け付けている。相談に来る事業者は中小のモノづくり企業やサービス、旅館業、地域団体、農業など幅広い」
―支援の中で重要なことは何でしょう。
「主に二つある。一つはビジネスアイデアが具体化した時の対応だ。中には専門職しか取り扱えない領域がある。その際には登録している弁理士や弁護士に中小経営者をつなぐこともある。知財を扱う経験がない中小経営者にとって、弁理士や弁護士にいきなり相談することは不安だと思う。気楽に自社の技術の種を無料相談できるようにしている」
「もうひとつは出願に関する相談。海外企業による模倣品の対策や海外展開など『経営者が何をしたいのか』を事例ごとに聞く必要がある。特許を出願するかしないかの判断もあるだろう。国内外のビジネスにおいて知財で工夫するべき点を経営者に理解してもらうよう努力している」
【略歴】なかじま・まこと 1974年東京大学法学部卒。同年通商産業省(現経済産業省)入省、2001年近畿経済産業局長、04年貿易経済協力局長、05年特許庁長官就任。退官後、08年住友電気工業顧問、14年同社専務取締役就任。退任後、16年発明推進協会副会長就任。66歳。
【業界展望台】発明の日特集は、5/1まで全9回連載予定です。ご期待ください。
(2018/4/26 05:00)