[ その他 ]
(2019/4/30 05:00)
企業経営で備えるべきリスクの一つとして「知財リスク」がある。代表的なものに、自社の製品が他社の権利を侵害してしまうリスクがある。万一、知財トラブルに巻き込まれた場合、大きな不利益を被ることもある。決して軽視せず、早い段階で備えたい。製造業にありがちな知財に関する悩みについて、専門家である弁理士に回答してもらった。
Q.特許取得しているのにクレームが…
ライバルのX社から、わが社の売り上げ好調の製品がX社の特許を侵害しているとのクレームを受けました。わが社はその製品の特許を取得しています。X社のクレームはおかしくないですか?
A.直ちにおかしいとは言えません。
ある発明(例えば製品)が特許に「なる/ならない」ということと、その発明について製造したり販売したりすることが他人の特許を「侵害する/しない」ということは、何の関係性もありません。
特許に「なる/ならない」の判断は、行政機関である特許庁によって行われます。これに対し、特許を「侵害する/しない」の判断は、司法機関である裁判所によって行われます。
したがって、自社の製品について特許を取得したことで、他社の特許を侵害しないことの保障が得られる訳ではありませんので、貴社がその製品の特許を取得していても、その製品がX社の特許を侵害する場合はあり得ます。
具体例を用いて説明しましょう。自社の製品が、部品Aと部品Bから構成されている他社の製品に部品Cを追加することで、他社の製品よりも性能に優れる場合を考えてみます。
すなわち、他社の製品は部品Aと部品Bから構成されているのに対し、自社の製品は部品Aと部品Bと部品Cから構成されていることで、他社の製品よりも性能に優れる場合です。
この場合、他社の部品Aと部品Bから構成されている製品(既存製品との位置付け)に部品Cを追加したことに特許性が認められれば、自社の製品の特許を取得できます。
しかしながら、他社が部品Aと部品Bを含んで構成されている製品の特許を取得している場合、部品Aと部品Bを含んで構成されている自社の製品は、他社の特許を侵害することになります(こうした両者の関係を特許発明の利用関係といいます)。
よって、今回のX社のクレームを「売り上げ好調のわが社の製品をねたむX社の嫌がらせだろう」などと考えて無視するといった対応をしてはいけません。
もっともX社のクレームをうのみにする必要はありません。貴社の製品が本当にX社の特許を侵害しているかどうかの検討が必要です。
そもそもX社はその特許を持っているのでしょうか。過去にその特許を第三者に譲り渡したことで現在は手放しているということもあります。その特許は今も生きた状態なのでしょうか。特許は出願日から20年で満了します。また、特許を維持するためには各年の特許料の納付が必要です。各年の特許料を支払わなければ満了前であっても特許は死んでしまいます。
「誰がその特許を持っているのか」「その特許は今も生きているのか」といった情報は、パソコンから工業所有権情報・研修館(INPIT)が提供するJ―PlatPat(特許情報プラットフォーム)を用いてご自身で簡単に調べることができます(もちろん特許の内容を知ることもできます。使用料はかかりません)。
しかしながら、貴社の製品がX社の特許の範囲に含まれるか否かについての素人判断は禁物です。したがって、いずれにしましても、今回のX社のクレームにどう対応するかについては、知的財産の専門家である弁理士にご相談されることをお勧めします。
【回答者】辻田特許事務所所長 弁理士 辻田幸史
専門分野は化学、薬学、医学、バイオテクノロジーなど。2018年度日本弁理士会副会長、国立大学法人岩手大学地域連携推進センター客員教授、神奈川県科学技術会議研究推進委員会委員。
【業界展望台】発明の日特集は、5/1まで全7回連載予定です。ご期待ください。
(2019/4/30 05:00)