[ オピニオン ]

社説/鉄鋼大手が65歳定年へ 確実な技術継承で現場力鍛えよ

(2019/4/24 05:00)

日本製鉄など鉄鋼大手4社が、従業員の定年を現行の60歳から65歳まで引き上げる方針を決めた。2021年度以降に60歳になる従業員に適用する。このところ鉄鋼業界では製造現場の世代交代が急速に進み、若手の技術・技能習得が追い付かない中で、設備の故障や操業トラブルが頻繁に起きている。熟練工が長年の経験で培った知識を若い世代にしっかり継承させて「現場力」の底上げにつなげなければならない。

法令では、65歳までの定年引き上げか、希望者全員を再雇用するなどの継続雇用制度の導入、定年制廃止のいずれかの措置を講じるよう事業者に義務付けており、継続雇用制度導入への経過措置期間を含めて、25年3月が最終期限となる。

義務化の背景には、少子化に伴って深刻になる労働力不足や、公的年金の受給開始年齢引き上げがある。日本経済が成長を続けるには、60歳以上を含む多様な人材が活躍できる社会づくりと、年金受給の後ずれで強まる生活不安や将来不安の解消が欠かせない。現役世代が高齢者を支える「賦課方式」の年金財政を永続させるためにも、現役の層を厚くする必要がある。

企業の対応で最も多いのは再雇用だが、大半は1年単位の有期雇用契約で、賃金水準引き下げを伴うケースもあり、本人の士気や若手・中堅層との連帯感を保つのが難しいとされる。60歳を過ぎても、50代以前と同じように働き続ける意欲と能力を持つ人材は多い。「65歳現役社会」を実現する上で、定年引き上げは望ましい選択と言える。

一方、鉄鋼業界には熟練工の定年退職が相次ぐ中で、高炉をはじめとする巨大システムの安定操業に必要な技術・技能を、どう守っていくかという課題がある。定年引き上げで熟練工の経験と知識を次世代に継承させ、若手を鍛え上げる時間的な余裕が生まれる。

年齢を重ねれば体力などに不安が生じる可能性もあるが、いつまでも士気と誇りを持ち続けられる処遇を心がけ、若手としっかり向き合うよう背中を押してもらいたい。

(2019/4/24 05:00)

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