[ オピニオン ]
(2019/5/31 05:00)
少子高齢化が進行し、産業界では人手不足が叫ばれている。働く意思のある人が長い間、健康で活躍するためには、病気の予防や治療が不可欠。革新的な新薬が登場し、治療の難しかった疾患が治癒するならば、働き手の増加にもつながる。こうした意味で製薬企業への期待は大きい。メーカーは研究開発効率の向上のため、“自前主義”と外部委託の最適なバランスを追求し続ける必要がある。そのためには、例えば疾患領域に関する選択と集中も必要だろう。
近年、創薬の難易度は高い。日本製薬工業協会によると、2012―16年度の間、基礎研究段階で合成された化合物が最終的に承認へ至る確率は2万5956分の1だ。生活習慣病の薬の開発が一巡し、メーカーの研究対象が、がんや中枢神経など未充足の医療ニーズが多く残る領域に移りつつあることが一因と考えられる。
創薬手法も多様化した。化学合成による低分子医薬以外に、遺伝子を組み換えた動物細胞を培養してつくる抗体医薬が普及。DNAやリボ核酸(RNA)の構成成分である塩基を組み合わせて合成する核酸医薬も注目される。国内では低分子薬を得意としてきたメーカーが多く、新手法に習熟する道は険しい。
こうした環境下では、製薬企業は自前主義に拘泥できない。一般的に自社で創製した新薬は、ライセンス費用の支払いが不要なことなどから、収益性が高い。しかし新薬開発の成功確率が極めて低い以上、学術機関やベンチャーから創薬シーズを導入し、開発品の充実を図ることは必須だ。昨今はこの観点で、研究開発業務の一部を外部に委託する事例も目立つ。
だからと言って“丸投げ”は許されない。製薬企業は適切な規模の研究資源を維持しなければ、外部の創薬シーズの目利きができなくなる。自社で試行錯誤を繰り返し、知見を蓄積し続けているからこそ、先端的な科学の評価も可能となる。
全ての病気に詳しい人は誰もいない。自らの立ち位置や能力を見定めることが、革新的な新薬の創出への第一歩となる。
(2019/5/31 05:00)
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