[ オピニオン ]
(2019/7/29 05:00)
国内創薬ベンチャーの育成で苦闘が続いている。未充足の医療ニーズや創薬手法が変化し、大手製薬企業といえども、“自前主義”での新薬創製が難しくなった中では、新興企業の発想や機動力に期待がかかる。従来、医薬品産業で存在感を発揮してきたのは海外のスタートアップが多い。世界に通用するベンチャーを1社でも多く送り出すには、業界の風土まで踏み込んで考える必要がある。
2016年に米食品医薬品局(FDA)が承認した新薬20品目の中で、ベンチャーが起源のものは15品目。そのうち、日本企業はゼロ―。政府が19年5月に開いた健康・医療戦略参与会合で、こうした資料が示された。また、経済産業省が18年4月にまとめた報告書によると、国内創薬型ベンチャーの時価総額は欧米のみならず、中国や韓国より小さいと指摘されている。
こうした状況に至った原因は複雑であり単純に語れないものの、日本の製薬業界全体が成功体験に油断していたとの見方はできる。国内メーカーの多くは伝統的に化学合成でつくる低分子医薬品の創製を得意とし、90年代を中心に年間売上高が1000億円を超える製品を、いくつも世界に送り出してきた。
一方で遺伝子を組み換えた動物細胞を培養して製造する抗体医薬品など、新しい創薬手法には乗り遅れ、欧米勢の席巻を許した。近年、国内製薬大手は社外との連携を促進したり、自社の研究者によるベンチャー企業の設立を支援したりする動きも出てはいるが、自力で新薬をつくってきた誇りが足かせになった感は否めない。
創薬の成功確率はいまだに2万分の1を下回ると言われている。医薬品産業関係者はいま一度、オープンイノベーションの重要性を認識した上で、従来の枠組みにとらわれない挑戦をする人々に敬意を払う必要がある。そうした風土が醸成されれば、起業家精神も喚起しやすい。
06年設立のペプチドリームが18年6月期に過去最高の売上高を記録するなど、成功例は出てきている。後に多くのベンチャーが続くことを期待したい。
(2019/7/29 05:00)