(2019/10/30 05:00)
【トヨタ・モータースポーツ(TMG)】
トヨタ自動車は、2018年度にFIA世界ラリー選手権(WRC)参戦2年目で王座を獲得する快挙を遂げた。19年WRCはトヨタのオット・タナック選手が同年の総合優勝を飾った。参戦車両「ヤリスWRC」の心臓部であるエンジンを開発、製造するのが、独ケルンにあるトヨタ・モータースポーツ(TMG)だ。
世界最高峰のモータースポーツのエンジン開発は「設計、計算、実験のループを高速でぐるぐると回す」(青木徳生WRCエンジン・プロジェクト・マネージャー)と、スピードが最重要要件の一つだ。エンジン部品を削る工作機械にはこの要件に応えられる効率の良さが求められる。WRCでは1台当たり3基のエンジンが用意される。エンジンの性能に個体差は許されず、「そのためにも精度が大事」とファルク・シュルコフスキTMGエンジンデザインマネージャーは熱く語る。
工場よりむしろ研究所といった雰囲気の製造部門には、DMG森精機の工作機械がずらりと並ぶ。特別仕様のマシニングセンター(MC)、棒材加工のターニングセンターなど同社製品を中心とした機械設備であり、「試作機」(同)と言うガントリー型MCは超音波加工用の主軸を搭載し、アルミ部品を加工していた。同ガントリー正面にはドイツメーカー製のガントリーもあり、ルマン参戦車両用に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製車体の型を製造している。CFRP成形も社内で行う。
工場メーンエリアでのシリンダーヘッドの加工には、やはりDMG森精機のMC「DMC125U」が稼働していた。燃料効率を高めるための独自の長尺加工を、同MCで10時間短縮したという。ちなみにTMGの基幹CAD/CAM(コンピューター利用製造)は「CATIA」、金型CAMは「TEBIS」と、当然だが機械設備同様に最先端をそろえる。
それでも大切なのは人間同士の信頼関係だそうだ。02ー09年のF1参戦時は「図面が終わる前に製造指示がきた。互いの信頼があってこそできた」(ファルクマネージャー)。F1から撤退してちょうど10年がたつが、信頼の文化は薄れておらず、TMGの財産だ。設備力、加工技術、そして信頼が極限を攻める四輪を駆動させている。
ドイツで加工会社が輝く方程式
【CNCテクノロジー・マック】
高付加価値の加工を徹底追求する。成熟国で金属加工会社が取るべき手だてを実践する先端モデルのような会社が、ドイツ南部のバーデン=ヴュルテンベルク州にある。独CNCテクノロジー・マック(ドルンシュタット)だ。
マックは州内に計3工場(延べ床面積約2万平方メートル)を構え、約300人が働く。本社工場の事務エリアから構内に足を踏み入れてまもなく目に飛び込むのが、DMG森精機の大型5面加工機「DMC210U」だ。同社から受託した回転傾斜テーブルを製造している。今秋、DMG森精機の優秀サプライヤーの1社に選ばれたばかりだ。
工場の上階に行くと、改装したばかりのスペースに、やはりDMG森精機の金属積層造形機「LASETEC12 SLM」「LASETEC30 SLM」が並んでいた。加工を請け負う人口歯のインプラントなどに使う。生産量は1日約600個。すべてが1品一様だが、出荷までリードタイムは24ー28時間と短い。
産業分野幅広く、大小さまざまな精密部品を受託し、経営の安定化を図っている。宇宙航空や建設機械を含め顧客は25分野ほどに散らばる。さらに半導体製造装置の真空炉をはじめ部品加工から組み立てまでの一貫体制も強みだ。
アレキサンダー・マック社長は品質の肝は「顧客の声を聞き、各産業で異なる基準にしっかりと応える」ことだと話す。そのためのこだわりが、随所に見え隠れする。インプラント加工用の切削工具は、全量が自社製だ。
さらに超音波加工機(2001年導入)や金属積層造形機、トポロジー最適設計などと先端技術に貪欲だ。現在、本社工場で力を入れるのが「納期短縮や透明性など付加価値づくりに絶対欠かせないデジタル化」(マック社長)だ。米MIT(マサチューセッツ工科大学)発のスタートアップ企業が開発した、ドラッグ&ドロップで作業支援システムが組めるデジタル製品「TULIP」を採用したばかり。
ドイツはコスト重視の量産品が、日本から中国へ生産移管されたように、東欧に移った。「だからこそ最新の生産技術や機械などで生産性を高めている」(同)。先端技術を積極採用して巧みに使いこなし、付加価値を生み出している。
(2019/10/30 05:00)