(2020/2/25 05:00)
金型加熱からせんべい焼き機、酒米蒸し器(甑)など幅広い用途に使用されている、メトロ電気工業の赤外線カーボンランプヒーター「オレンジヒート」。開発にはどのような苦労があったのだろうか。(取材・昆梓紗)
分野拡大のために試作機を
もともと電気ストーブヒーターなど家電関係の民生用製品向けをメインで製造していた同社。現在もこたつ用ヒーターなどを海外拠点で製造している。産業機器向けの営業も行っていたが、「ヒーター管そのものを持って行ってもイメージがつきにくく、導入に至らなかった」と川合社長は振り返る。そこで自社で簡単な商品をつくり、それをヒントに顧客に応用してもらおうと考えた。
まず試作に着手したのは「サンマ焼き機」だ。サンマを吊るし、その両面にヒーターを置いて焼くというもの。冷凍サンマで何尾も実験を重ね、社食で試作品を提供し社員に食べてもらったところ、「吊るして焼くため脂が適度に落ち、皮も破れないため好評だった」(川合社長)。しかし生サンマで試したところ、冷凍に比べ柔らかいため骨が切れて落ちてしまい、うまくいかないことが判明。完成には至らなかった。
このサンマ焼き機をたまたま中部電力の営業に見せたところ、「金型加熱に応用したい」と話があった。自動車の金型加熱はもともとガスで行っていたが、電気に置き換えられないか検討を重ねていたという。そこで同社と共同で「赤外線ヒーター式HIGH POWER金型加熱器」を開発した。
省エネも実現
複雑な形状の金型の場合、ガスバーナー式だと場所により温度ムラが発生しやすく、金型の劣化や製品不良につながる。ヒーター式の場合は面で均一に加熱できるのでムラを防げる。顧客からは、歩留まり向上や金型メンテナンスが少なくなったという声が届いた。
また、電気はガスよりコストがかさむイメージがあるが、省エネにも貢献することが認められ、「平成27年度省エネ大賞『省エネ事例部門』資源エネルギー庁長官賞」を受賞。鋳造開始前に金型を予熱する必要があるのだが、電化により狙った温度にする「立ち上げ時間」が大幅に短縮できた。また加熱ムラも少ないため加工時間も32%削減。エネルギー使用量58%削減を実現した。「ガスは熱風が発生し周りの温度を上げてしまう。電気は狙った場所に照射できるため作業環境の改善にもつながった」(川合社長)。現在多くの自動車メーカーに採用されている。金型加熱器の成功が、産業機器分野へ進出する足がかりとなった。
その後、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)プレス成型前の加熱に使用する急速加熱装置を中部電力と佐藤鉄工所と共同開発。現在も自動車メーカーと共同研究を手掛けるなど、顧客や協力会社との共同開発により製品の幅を広げている。
自社でできることを拡大
大きさも出力も自由に設計ができる、カスタマイズ性の高いヒーターが作れるというのが同社の強みだ。自社製品を見た顧客から「こういった製品は作れないか」という依頼が来ることが増えている。当初はヒーター管のみを製造していたが、「さまざまな機器を作るようになると、次第にヒーター管以外の製造を外注していてはリードタイムが長くなってしまった」(川合社長)。
そこで自社で板金加工や制御システムの開発ができるように機材と人員を増やしている。2019年4月からはレーザー複合機とベンディングマシンを導入した。自社である程度一貫生産できるようになると、コストも下げられ納期短縮にもつながっている。島根工場にもレーザー加工機を導入し、オーダーメイド品は国内で請け負えるような体制を構築しつつある。工業機器向けだけでなく食品、化学などへの導入も進んでいる。今後もさらに導入業界、業種を増やしていく構えだ。
(2020/2/25 05:00)