(2020/3/19 05:00)
国立大学の授業料の横並びが崩れかけている。値上げを表明した5大学を踏まえ、文部科学省は授業料自由化の議論を始めた。学費の安さや地元密着といった、国立大に対する国民の安心感を裏切らないよう、慎重に進めてほしい。
国立大の授業料は省令で標準額が年53万5800円と定められており、2割を上限に各大学の判断で変えることが可能だ。しかし運営費交付金の削減が続く中でも、値上げを表明する大学は長い間、見られなかった。
動きが出たのは2018年秋、先陣を切ったのは東京工業大学だ。19年度入学生の値上げで東京芸術大が後を追った。20年度は千葉大、一橋大、東京医科歯科大が実施する。いずれも上限の2割増相当で、国際化への対応や教育の充実が理由だ。
運営費交付金が苦しい中で国際化など資金の必要な活動が増えているのは、どの国立大でも共通だ。その中で先んじたのは学生の全員留学を掲げる千葉大と、各分野トップクラスの単科大学だ。「やや高い授業料に納得の学生を集めればよい」との判断があったのだろう。
対して地方総合大学をはじめとする大勢は動いていない。国立大学協会の永田恭介会長(筑波大学長)は値上げについて、「全ての地域で高等教育を受けられる(教育の機会均等を与える)という国立大の使命を考えると、地域住民の給与水準の差などから簡単に決めらない」と説明する。
家庭や経済環境がまちまちな学生にとって、「国立大ならどの地域、どの大学、どの学部でも授業料が同じ」ということは大きな安心であるはずだ。
文科省はこのほど国立大学の戦略的経営についての新たな会議を設置。経営基盤を強化する規制緩和への項目の一つに、授業料の自由化の是非を置いた。
国立大の多くはすでに、経営強化に向けた外部資金獲得や資産活用などに取り組んでいる。授業料の自由化もそれと同じというのは違和感を覚える。次世代の人材育成で国民の信頼を損なわないよう、慎重な議論をしてもらいたい。
(2020/3/19 05:00)
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