5Gソリューション

(2020/6/4 05:00)

業界展望台

第5世代通信(5G)の国内商用サービスが、3月25日、NTTドコモで始まりワイヤレステクノロジーが大きく成長しようとしている。5Gは超高速・超大容量・多数同時接続・超低遅延を実現し、遠隔医療やスマート工場など新産業の創出、自動車・鉄道、放送などの業界参入が見込まれている。さまざまな産業の需要増加要因の一つとして、注目が集まる。

23年度 2兆円市場に

エリア拡大、新産業創出へ

5Gは現行の4GのひとつであるLTEと比べて、データ通信速度は約100倍となる1秒当たり10ギガビット(ギガは10億)、伝送時の遅れは10分の1となる1ミリ秒(1000分の1秒)を実現する。2時間映画のダウンロードにかかる時間は5分必要であったのが3秒で済み、4K映像の受信も可能だ。

多数同時接続は1平方キロメートル当たり100万台。超低遅延のためリアルタイムに建機やロボットなどの遠隔操作が可能で、屋内外の家電やセンサー、自動車などあらゆる機器が接続できる。

NTTドコモに続き、KDDIが3月26日、ソフトバンクが同月27日に商用サービスをスタートさせ、スマートフォンなどの端末も出そろった。

当初の対応エリアはNTTドコモが主要な競技場や交通・観光施設など150カ所で、KDDIも15都道府県の一部エリアにとどまる。両社はともに2021年度中に5Gの基地局を2万局超とし、ソフトバンクは21年末までに国内人口の9割をカバーする予定だ。

楽天モバイルは新型コロナウイルス感染拡大で海外のサプライチェーンの一部が影響し、5Gサービス開始を6月予定から約3カ月延期すると発表した。21年3月までに5G基地局677局設置と全国展開は計画通り。

  • 5G対応端末の国内市場

また、NTTドコモ、KDDIは20年度までの5G端末販売数をそれぞれ二百数十万台と予想している。

富士キメラ総研は19年11月、23年度の国内5G市場について発表し、5G対応の端末は20年度比2.4倍の2兆1920億円と予測した。5Gのサービスエリアの拡大や対応端末の増加が市場を拡大させるとする。通信端末はスマートフォンを中心に拡大し、タブレット端末やモバイルルーターなども5G対応への買い替えが進行する。5G対応端末の比率は20年度41.4%、23年度89.6%を見込んでいる。端末だけでなく、5G通信サービスエリア拡大は20度年以降も広がりを見せ、光伝送装置、ルーター、スイッチ、基地局が伸長して市場の拡大を予想している。

日本のLTEサービスは10年12月24日から始まった。これまでも10年を区切りに、新しい通信システムが登場し社会や我々の生活環境に変化をもたらしている。ワイヤレステクノロジーの大きな成長は、あらゆる産業の需要促進に期待が高まる。

ローカル5G 工場・研究所へ導入加速

5Gのテクノロジーは新しい産業やサービスを創出するとして期待が高まっている。地域の企業や自治体など通信事業者以外が自らの建物内や敷地内でスポット的な5Gのシステムを柔軟に構築できる「ローカル5G」だ。

電子情報技術産業協会(JEITA)は19年12月にローカル5Gの国内市場の需要予測を発表し、30年には1.3兆円とした。ローカル5Gは高度なセキュリティー性と通信の安定性も高いというメリットから、これまで無線化が進んでいなかった工場や農場、建設現場やイベント会場、病院などで導入が期待されている。IoT(モノのインターネット)機器としてはロボットやドローン、自動車の自動運転が需要をけん引し、ソリューションサービスとしては製造分野向けが需要を伸ばすと同協会は予測している。

工作機械による5Gを活用した実証テストが相次ぎ始まっている。人材不足や多品種少量生産への対応、生産性・品質向上などの要求が高まる中、5Gはこれら要求に応える有効な技術として高く期待される。

DMG森精機はローカル5Gを活用して、ロボットを搭載した無人搬送車(AGV)の遠隔操作などを行う実証実験を始めている。より高度な生産改善の実現に向けた製品やソリューション開発を継続している。

総務省の「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証等について」では携帯電話通信事業者による5Gサービスエリア展開より、先行して5Gシステムが構築できることや通信障害・災害の影響を受けにくいことをローカル5Gの特徴に挙げている。

ローカル5Gの利用には国で指定された免許の取得が必要で、総務省は19年12月24日から申請受け付けを始め、3月27日にローカル5G用無線局の免許を富士通に付与したと発表した。NECやNTT東日本、東京都なども無線局の免許を申請しており、工場や研究所などへのローカル5Gの導入も加速することになる。

  • 5Gネットワーク

 

6Gへ 宇宙で利用も

5Gの商用化は19年には米国、韓国に加えて欧州の一部でもサービスが始まった。中国は19年11月に50都市13万カ所で5Gサービスを開始。前後して華為技術(ファーウェイ)、ZTE(中興通訊)、小米(シャオミ)やOPPO(オッポ)、vivo(ビボ)など中国主要企業から5G端末が発売されている。

こうした中、NTTドコモは5Gの次の6Gに関する技術概念(ホワイトペーパー)を発表した。30年頃の導入を見込んでいる。6Gでは通信速度が1秒当たり100ギガビット超を想定する。高度1万メートルの上空や、宇宙で利用ができそうだ。空飛ぶ車や宇宙旅行への応用が考えられる。

6Gの世界ではメガネ型端末の進化で、現実の体感品質を超えるような仮想世界でのサービスを提供できるようになると考えられている。

6Gの国際標準の策定過程に日本が深く関与し国際競争力で優位性を目指す。総務省は今夏をめどに、導入時に見込まれる需要や技術進歩を踏まえた総合戦略を策定する予定だ。

部品・測定器など需要増に期待 新たな無線技術・部材に注目

5Gには新たな無線技術が求められる。超高速通信に必要な数百メガヘルツ以上の広周波数帯域への対応や、ミリ波などの高い周波数帯への対応、超低遅延を実現する無線フレーム構成などの無線技術が必要だ。高い周波数(SHF帯、EHF帯)におけるアンテナ素子の小型化や、多素子アンテナの位相や振幅制御により指向性を持たせたビーム(ビームフォーミング)を作り出す超多素子アンテナ(マッシブMIMOアンテナ)が重要となる。周波数帯や通信速度が各段に上がることで、従来なかったノイズ環境が想定される。

【電子部品・製造装置】

表面処理技術のJCUは19年度連結決算で、中国市場において5Gの基地局に使用されるアンテナ用基板用薬品需要が増加と発表し、5G端末への広がりを期待している。

トーキンはSHF帯(3ギガ-30ギガヘルツ)用ノイズ抑制シートに注力。基地局やデータ通信の際に信号を送受信する光トランシーバーに欠かせない部材だ。

日本航空電子工業は19年10月に幕張メッセで開催されたエレクトロニクスの見本市「CEATEC]で、コネクターにSFP(光と電気信号を変換するモジュール)を内蔵する構造で放熱性を高めた光化対応の防水型インターフェースコネクターを、基地局搭載向けに参考出品した。

ケルは高速伝送技術を生かして毎秒32ギガビットの高速伝送を実現したコネクターを4月に発売した。同社が全数検査することで高速伝送と信号品質を保証する。

FUJIは電子部品を実装する表面実装の工程において、電子部品の微細化・高品質化に応え、生産性向上を示現した新製品を訴求している。

【電子測定器】

  • 工場の無線化に伴う測定器需要の拡大が期待される

5G端末や基地局の開発、生産、保守・メンテナンスに欠かせないのが電子測定器だ。

アンリツは今月19日、ミリ波帯における不要な周波数成分の計測試験で、同社測定システムが国際的な認証機関「GCF」の認証を業界に先駆けて取得したと発表した。端末の早期市場投入を支援する。

独ローデ・シュワルツの日本法人はローカル5Gの受注と問い合わせが飛躍的に増加している。ローカル5Gを工場などに敷設する場合のネットワークのパフォーマンス評価試験などの需要が高まっている。同社は「ローカル5Gに関しては新規参入企業が多く、無線機器や技術について前向きに学ぶユーザーが多い」と言う。19年12月に東京ビッグサイトで開催した「国際ロボット展」に初出展した同社は、スマート工場など構内の無線化を視野に入れて、ノイズを計測する測定器などを紹介した。

米キーサイト・テクノロジーは5Gとカーエレクトロニクスを重要市場と位置付けている。日本法人は国内企業と協調し5Gの早期普及を支援している。19年はプライベートショーやセミナーを通じて、同社の測定器を広く訴求すると同時に、韓国の通信事業者の動向を紹介。「5Gはシェアチェンジの要素を持っている」として、新規参入企業のビジネスチャンスや、5Gで業界順位の入れ替わりがあると言う。

横河計測は光パルス試験器(OTDR)や光パワーメーターなど光測定器を強みの一つとしている。5Gの基地局設置には光ファイバーの敷設が必要で需要増に期待が高まる。

電子測定器の大手商社である日本電計は、5Gを背景に需要伸長が見込める通信系半導体やモジュールの開発・生産に期待を高める。スペクトラムアナライザーやネットワークアナライザーなど高周波を計測する電子測定器の需要の増加を予測する。同社は5G利活用として自動車の先進運転支援システム(ADAS)に注力。新たな規格・認証試験への対応したソリューションを提案する。

電子測定器のレンタルを手掛けるSMFLレンタルは、5Gに使用される周波数帯域の試験環境を省スペースで実現するサービスなどを行っている。ローカル5Gの導入を検討している企業や事業者に向けて、評価環境の導入や申請など計測器レンタル・代行業者・技術サポートをパッケージ化したサービス提供を始めた。

米国第三者安全科学機関であるULの日本法人UL Japanは、車内外でさまざまな通信方式を集中制御するテレマティクス制御ユニット(TCU)やスマートフォン、パソコン市場から5Gの認証サービスが増加している。5G端末や通信モジュールの市場投入や、ネットワーク環境が整備され始めてきたことが、要因と分析する。

国内外で5Gの商用化が始まり、普及に向けて関連産業は動きが活発化している。

(2020/6/4 05:00)

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