(2020/8/11 05:00)
研究開発人材 優秀な人材、獲得競争が激化
研究開発者に関する設問では、まず現状での採用のしやすさを聞いたところ、有効回答218社のうち「難しくなっている」が2019年度調査比12・4ポイント減の47・2%で、「変わらない」が同11・7ポイント増の49・5%だった。「変わらない」と回答した企業の多くは「採用が難しい状況にあることは変わらない」としており、依然として売り手市場で優秀な人材の獲得競争が激化している状況が読み取れた。
「難しくなっている」理由として、同業他社との競合激化を挙げる企業が複数あったほか、人工知能(AI)、デジタル変革(DX)推進に向けたデジタル人材の不足を挙げる企業もあった。
自社の求める人材像の変化が影響しているとみられる回答もあった。「ターゲットが修士から博士に移ってきており、他社も優秀な博士学生の採用に積極的となっているため」(三菱ケミカルHD)、「これまでとは異なる専門分野の人材が必要になっている」(ダイキン工業)など、環境の変化に順応したい企業の採用市場での葛藤が垣間見られた。
また、研究開発人員の採用について「変わらない」と回答したアサヒグループHDは「コロナ禍で説明会やその他イベントが実施できず、学生との接触がリモート環境に限られ、会社への十分な理解が難しくなっている」とコメントするなど、オンライン面接の難しさを指摘する企業もあった。
次に向こう数年を見通した研究開発人員数を聞いた設問では、有効回答220社のうち「増やす」と答えたのは同13・9ポイント減の28・6%にとどまり、「横ばい」が同4・1ポイント増の40・9%、「未定」が同9・3ポイント増の29・5%だった。業種別にみると「増やす」と答えた企業が過半数を占めたのは、電力・ガス業だけだった。
さらに研究開発人員の確保の仕方を複数回答で尋ねると、有効回答212社のうち最多は「中途採用の拡大」で63・2%、これに「新規採用の拡大」が49・1%で続いた。質問項目が設けられた18年度調査から順位の変動は大きくみられず、19年度に比べて4位と5位が逆転しただけだった。
ただし「その他」にも記入した大和ハウス工業は「必要に応じて新卒やキャリア、配置転換など、さまざまな手法を検討し実施する」とコメントしており、確保の仕方に多様性がみられる。
事実、「社内の配置転換」「研究部門間での配置転換」「働きやすさの向上」を選択した回答のポイント数が2年連続で前年度を上回ったことから、研究開発人材を外部から採用するだけでなく、今ある人的資源を最大限有効活用した取り組みも進められていることがわかった。環境が変化する中で人材の流動性や柔軟な働き方が研究開発の現場でも加速している。
テレワーク/コロナ関連 導入95%、大企業への浸透鮮明
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、研究開発部門で在宅勤務(テレワーク)を取り入れた企業は回答223社のうち213社で、全体の95・5%に達した。このうちテレワークを「今回初めて導入した」のは39・9%で、残りの55・6%が「以前から導入している」と回答。今後の「検討・計画はない」としたのはわずか1・3%にとどまり、大手企業のテレワークの浸透ぶりが初めて明らかになった。
さらに、テレワークを利用した社員の割合は最大何%だったかとの設問には「100%」と答えた企業が全回答の約1割となる18社と最も多かった。例えば、三菱ふそうトラック・バスは「就業規定により、開発部門を含む間接部門では100%在宅勤務可能になっている」という。
また「90%以上」だったのは54社で全体の約3割に及び、「80%以上」は85社と約半数を占めた。政府が求めた「出勤者の7割減」を実施(「70%以上」と回答)したのは106社で、全体の約6割の企業が要請を受け入れたことが分かる。
一方、コロナ感染症の治療や対策に関する研究開発について、全体の約4割となる84社が「開始した」、または「以前から開始している」ようだ。
製薬業界では、武田薬品工業が新型コロナウイルスの治療薬になり得る高度免疫グロブリン製剤の開発を急ぐ。第一三共は日本医療研究開発機構(AMED)が支援し、東京大学医科学研究所が進める遺伝子(mRNA)ワクチン開発などに参画した。
中外製薬は重症の新型コロナウイルス肺炎の入院患者を対象とした、国産初の抗体医薬品「アクテムラ」の臨床試験に乗り出している。
富士フイルムHDも、コロナ治療薬候補アビガンの臨床試験を3月に国内で始めた。コロナウイルスの簡易検査キットの開発には、JSRやデンカ、積水化学工業、東洋紡などが取り組む。トヨタ紡織やジェイテクトなどはマスク生産に参入し、東レや三井化学はマスク用不織布の開発を急ピッチで進める。
重工業では、三菱重工業が「殺菌機能を備えた空調設備」、川崎重工業が「ロボットによるPCR検査の自動化」、IHIが「オゾン機器」の開発などに取り組む。大手ゼネコンは、大林組や鹿島、清水建設が最新の空調制御によって感染リスクを減らした緊急病棟などを整備する。
電機・IT関連でも「医療現場向けフェースシールドの設計開発」(日立製作所)、「オンライン授業向け字幕システム」(東芝)、「人の混雑予測」(三菱電機)などのほか「ワクチン設計に向けた人工知能(AI)活用の遺伝子解析」(NEC)、「スーパーコンピューター『富岳』による創薬」(富士通)など多くのテーマが挙がる。
そのほか「食を通じた免疫力強化に関する研究」(キリンHD)、「混雑可視化システムの開発」(JR東日本)など、コロナパンデミック(世界的大流行)を機に、あらゆる業界において、得意技術を生かした新たな研究に着手する積極的な姿勢がみられる。
女性の活躍 研究職「1割以下」57%
研究職における女性の活躍推進を今回、初めて尋ねた。人材の多様性を高める上で、理系女性という切り口をどうとらえているかみるのが目的だ。まず「研究職の女性比率」がおよそどの程度か聞いた。有効回答208社のうち「1割以下」を選んだのが57・7%と過半数だった。「約3割」は38%、「約5割」が4・3%で、「6割以上」はなかった。「約5割」を選んだ企業は「医薬・トイレタリー」に集中し、この業種では23社中8社がそうだった。
次に研究職の女性採用増を意識しているかを聞いたところ、有効回答216社のうち「意識している」が63・9%。「意識していない」26・9%。「その他」9・3%だった。
二つの設問を合わせて、現状は「1割以下」だが、採用増を「意識している」と回答した企業が多い業種は、「家電・部品」「産業機械・造船・車両」「工作機械、その他機械」「自動車・部品」「鉄鋼・非鉄金属」などだった。
さらに全体の傾向に対して女性リーダーの存在を把握するため、「研究職または技術職から実現した最も高い女性の上級職のクラスは何か」と問いかけた。その結果、有効回答217社のうちクラスの高い順に「役員クラス」が18・4%で、「部長級」が45・6%。「課長級」は25・8%、「主任級」は6%となり、「上級職はいない」も4・2%であった。
女性の少ない理系でありながら、2割弱の企業に役員クラスがいるという結果は予想以上といえる。かなり意識して登用を進めているようだ。部長級も約半分の企業に存在する。部下を大勢抱えて組織を動かす立場でなくとも、具体的モデルがいることは、理系女子学生の入社志望にプラスに働きそうだ。
業種別で役員クラスが多いのは「総合電機・重電」で7社中3社、「精密機器、事務機」で12社中5社。機械系はいまだ女子学生比率が低い分野だが、総合電機は男女雇用機会均等法前からの研究者採用実績などが強みだ。「化学」は25社中4社、「医薬・トイレタリー」が24社中8社。「ビール・食品」になると6社中3社で半数だ。全社的にも理系でも比較的、女性が多い業種で、エグゼクティブが育ってきているようだ。
自由筆記の「活躍推進の工夫」は、全体として文系理系を問わない後押し策が多かった。その中で採用時の策は「技術系中心の女性社員からなる採用プロジェクト」「技術系女性特化の採用セミナー」などで、インターンシップ(就業体験)や育成基金もあった。社員に対しては「女性エンジニア限定交流会」「研究開発女性管理職のメンタリング」で応援し、「外部表彰の応募積極化」「社外の女性研究者支援」と自社の広報戦略と重ねる例もみられた。
「女性研究者と技術系役員の懇談会」といったポジティブアクションは限定的で、「性別にかかわらず」「男女の区別なく」との記述も目立つ。どこまで積極的に動くかは一律ではないようだ。
R&Dアンケート協力企業(順不同、HDはホールディングス)
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