(2021/1/21 05:00)
モノづくり日本会議と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は共催で、2020年10月20日、第29回新産業技術促進検討会・シンポジウム「伝熱技術の新たな進展 革新的な熱交換器で、省エネはここまで進む」をオンラインで開いた。革新的環境イノベーション戦略のテーマの一つとして、未利用熱・再生可能エネルギー熱利用の拡大があり、熱交換技術も注目されている。NEDOの「先導研究プログラム/新技術先導研究プログラム」の報告や、熱交換技術を扱うトップメーカーの発表などを通じ、今後の研究開発のあり方を考えた。
基調講演 わが国の環境イノベーション戦略
具体的な行動計画示す
経済産業省 産業技術環境課エネルギー・環境イノベーション戦略室長 梅原徹也氏
革新的環境イノベーション戦略について紹介する。パリ協定に基づく長期戦略において、2050年までに80%の温室効果ガスを削減することをうたい、そのためのイノベーションを実現する戦略を打ち出したもの。
5分野の16技術課題について具体的なコスト目標も明記した「イノベーション・アクションプラン」、実現するための研究体制などを示した「アクセラレーションプラン」、社会実装に向け海外と協力して発信し共創する「ゼロエミッション・イニシアティブズ」、で構成している。
イノベーション・アクションプランは技術開発が中心で、予算を手当てしながら動いている。進捗(しんちょく)状況を確認しながら戦略を実行する司令塔として「グリーンイノベーション戦略推進会議」を20年7月に立ち上げて議論を進めている。報告された成果は順次公開しており、いつ頃どういう技術が出てきてどれくらいの社会実装を目指すか、といったマイルストーンも明記する。
国際共同研究については「産総研ゼロエミッション国際共同研究センター」(GZR)を1月に立ち上げて吉野彰センター長を中心に、240人あまりの研究員が活発に取り組んでいる。
また、官民の協議会「東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会」を設立し、共同研究の横展開や情報交換などを行っている。広島県・大崎上島、北海道・苫小牧にはカーボンリサイクルの実証拠点を整備し、研究開発を進めている。これに福島県浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」なども合わせて、研究拠点の連携が進んでいる。
戦略の担い手としての若手研究者500人を「ゼロエミクリエイターズ500」として発掘・支援しようとしている。研究の種を見いだすためNEDO事業として先導研究を支援しているし、ベンチャー支援や、大企業との間のマッチングも進めている。
環境について取り組みながら、その先の産業戦略や市場をどう目指すかをよく考えていくことが政府全体の検討方針だ。
基調講演 共通基盤としての熱交換技術への期待
新技術共有、人材育成に弾み
神鋼リサーチ アドバイザー 黒坂俊雄
省エネルギーと熱交換技術は切り離せないものだ。熱交換技術は、性能を上げて損失を減らす場合と、コスト低下を通じて省エネ機器の普及を促進するという、二つの観点から省エネに貢献する。また、熱交換技術は成熟した技術領域とみられているが、近年大きな変化の可能性が出てきた。
熱交換器は空調、自動車、給湯器、化学や金属関係、発電のプラント、地域熱利用やデータセンターのデバイスの冷却など、多種多様な分野において省エネと切り離せない。熱交換器には、熱交換する流体の温度差を小さくして伝熱性能が高いこと、高温や腐食に耐えること、低コストであることなどが求められる。
熱交換器は特に自動車分野では大幅な軽量化、小型化を実現するなど革新してきたが、設計技術の課題は40年前から基本的に同じだとされてきた。しかし、材料分野との連携や3次元加工の自由度向上などを通じ、今回の発表にも見られるが、従来あきらめてきたようなことも評価・制御可能になりつつある。
熱交換器を通じた新たな省エネルギー技術を社会実装していくためには何が必要か。まず電熱・流体についての技術が基本で、そこに材料や加工・製造が加わる。さらに表面についてのサイエンスが加わり、革新的な熱交換用の材料・機器が出てくる可能性がある。
企業の競争領域においては省エネ促進がやはり重要だが、人材が不足している。また新しい伝熱に関する技術がまだなかなか共有されていない。今回、NEDOの先導プログラムで、将来の基盤技術になる考え方がいくつも出てきたが、人材育成のためにもまとまった資料にアクセスできる知的な交流の場を通じて、新たな熱交換関連技術を共有化していかなければならない。
また、熱交換器が関連する多くの分野で、省エネ性能向上と、機器導入のコストダウンがまだまだできるという認識も共有化する。新しい技術へのアクセスを容易にして人材の厚みが出てくれば、熱設計技術の洗練によって、さらにコストは下げられるはずだ。
講演 エクセルギー損失の削減に向けた熱交換技術開発
コストの壁乗り越える
東京大学 生産技術研究所教授 鹿園直毅氏
先導研究プログラムに2年間取り組み、その背景と目的も含めてお話しする。エネルギーについては本当に必要なものを最小限でまかなう、フラットな損失のない社会を目指すべきだ。そのために燃料電池やヒートポンプや再生可能エネルギーを使い、熱になってしまったら使い回す。そこでどうしても熱交換が必要になる。
変動する再生エネルギーが増えてきたことで、電気が本当に燃料より安い時代が来るかも知れない。また、受け皿としての機器も分散、小型化してくる。
熱交換に必要な機器の普及の壁は、工事費や運搬費も含めたコストで、それを乗り越えるためには量産技術の転用、安くて使いやすくリサイクル性の良い材料への転換、伝熱についての促進などが必要となる。さまざまな技術が育っており、それを個別企業だけでなく横展開して共有する。応用の利く技術は早い者勝ち、ツールは使った者勝ちだ。
講演 表面の濡れ性制御による沸騰伝熱の促進
沸騰をコントロールる
九州大学 工学研究院機械工学部門教授 高田保之氏
沸騰や凝縮といった気液相変化は、潜熱を使って小さな温度差で多量の熱を輸送できる。空調機器でも当然、沸騰や凝縮はあるが、今回先導研究で、濡(ぬ)れ性と表面構造による相変化伝熱輸送制御というテーマを担当した。
特に、減圧下における沸騰伝熱の高性能化および沸騰開始加熱度の低減化について紹介したい。沸騰は液温が沸点に達してもすぐには起こらず、加熱面が沸点より高い温度にならないと生じない。もうちょっと温度を下げたいというニーズがあり、それをコントロールするために親水と撥水(はっすい)を混合した伝熱面を使ってみた。
沸騰面から気泡が成長する際に休止期間がなく、効率よく気泡が発生する。大気圧以下の減圧下でも沸騰の促進効果が見られた。
また、水以外の流体にも適用できないかチャレンジした。エタノールに対して撥エタノールのコーティング剤を用いて促進効果を得ている。
講演 熱交換器用材料としてのアルミニウム
新たな用途への展開
UACJ R&Dセンター第一研究部上席主幹 戸次洋一郎氏
アルミニウムを使った代表的な熱交換器は自動車用、空調用だが、新たな用途への展開を先導研究で進めてきた。アルミはリサイクル性に優れ、軽く、加工性・耐食性も良い。軽量化が必要な機材の熱交換器としては最適だ。耐食性向上についてはチタニウムを添加するなどして自動車にかなり普及してきた。
こうした熱交換器の技術を使い、給湯器用の2次熱交換機といった新たな分野への展開に取り組んでいる。温度が高く流量が多い部分の腐食についても実証が進んでいる。
また、これまでアルミが使われていなかった沸騰伝熱面についても試している。酸化物を表面に電解で作るアルマイトを使い、表面に電圧によって穴径、深さとも規則的な穴を開ける。アルマイトによって伝熱も良くなり実用面で優れたものができそうだ。
耐久性の検証も行い、今後は化学プラントといったアルミと縁がなかった分野にも拡張していきたい。
講演 カーエアコンの省エネ技術と将来への期待
電動車を熱マネジメント
デンソー 先進エネルギシステム開発部熱エネルギー開発室課長 酒井雅晴氏
自動車業界の変化を代表するCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)時代の熱のニーズと、カーエアコンの省エネニーズ、電動車の熱マネジメントなどについて将来への期待も込めて説明する。CASE時代になり、視認性の確保や、多様化する空間へ対応した信頼性などが求められる。自動車は住宅に比べて断熱性能が高くなく、エアコンの消費電力低減には省能力、省動力の観点が必要だ。ヒートポンプで外気からの吸熱を利用することも有効だ。
電動化の課題は外気温によって異なり、電池の温調がカギを握る。ヒートポンプを熱マネジメントに用いる。モーター、インバーター、バッテリーといった基幹部品に向けては冷却の高性能化・最適化が求められる。
自動車の使われ方も大きく変わり、効率・快適性の両面で、熱を余すことなくマネジメントする技術の重要性がますます高まる。
講演 空調・給湯機器開発での取り組みと、今後への期待
小型化で設計自由度向上
ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター主任技師 藤野宏和氏
空調機の熱源となる主な構成部品には、冷媒を送る圧縮機、熱を受け渡しする熱交換器、熱交換器に風を送るファンがあるが、特に熱交換器のコンパクト化に取り組んできた。冷媒の量も削減でき、エアコン設置の自由度も向上する。
材料の置換や細径化などで集積度を上げて小型・軽量化する。設計自由度も上がり、材料を削減でき、内容積削減による冷媒充填(じゅうてん)量の削減にもなる。これは環境負荷低減にもつながる。
ただ、マイクロ化する上での課題はまだある。モノづくりという点では細やかな加工が必要だし、加工精度が上がると、接合なども難しくなる。サイズが小さくなると寸法の影響も大きくなる。
信頼性についても流体のつまりなどの対策技術を、不具合事例などの評価も踏まえて、高集積化・高性能化につなげる。給湯器の熱交換器も既存のものに比べ、容積・重量とも大幅に削減している。
講演 火力発電所や真空用機器の高性能化に貢献する熱制御技術
宇宙の熱環境もクリア
三菱重工業 総合研究所顧問 山田明氏
火力発電所のスチームパワープラントやガスタービン、真空用機器として太陽電池製造装置やなどについての取り組みを踏まえてお話しする。
例えばガスタービンの高効率化には入り口温度を上げ、そのために冷却空気を削減する。カメラやメッシュヒーターを用いた伝熱試験や比較検証などで、伝熱の様子を明らかにして、どこの冷却空気を増減させるかを調べ、全体的な冷却空気削減につなげる。
真空装置でも熱制御技術は必要だ。太陽電池に向けた大面積の成膜装置については、熱制御によるガラス基板の変形を伝熱解析と応力解析を組み合わせて解析する技術開発に取り組んでいる。人工衛星は宇宙の熱環境に耐えなければならず、厳しい安全基準をクリアするためにも模擬による解析と、実際の大きな熱真空装置などで解析を進めている。火力発電所から人工衛星まで幅広い範囲での取り組みを進めている。
講演 熱交換器のイノベーションをサポートするNEDOの取り組み
シームレスなサポート
NEDO特定分野専門職 岩坪哲四郎氏
熱交換器の伝熱現象の理解が大変進展し、性能向上や積極的な制御が可能となってきた。まだ成熟しておらず、イノベーションの可能性が期待できる。幅広い分野で使われ、性能向上の波及効果も期待できる。
NEDOのサポートとしては、エネルギー・環境新技術先導プログラムで技術シーズの探索、育成を20年5月まで2年間実施した。また、戦略的省エネルギー技術革新プログラムでは、実用化、実証フェーズでメーカーに製品にしてもらう。幅広いシームレスなサポートを続ける。
(2021/1/21 05:00)