- トップ
- 中小企業優秀新技術・新製品賞
- 記事詳細
(2021/5/18 05:00)
第33回中小企業優秀新技術・新製品賞 受賞企業座談会
りそな中小企業振興財団と日刊工業新聞社は4月14日、東京・飯田橋のホテルグランドパレスで「第33回中小企業優秀新技術・新製品賞」(経済産業省中小企業庁、中小企業基盤整備機構後援)の贈賞式を開いた。新型コロナウイルス感染症の影響にもかかわらず、昨年を上回る329件の応募があり、厳正な審査の結果、38件が入賞した。受賞企業4社の代表に、受賞製品の特徴や今後の事業展開、経営理念、人材育成などを語ってもらった。
【出席者】
SKG(新潟県上越市)社長 今川豊氏
鎌倉光機(埼玉県蕨市)社長 鎌倉俊哉氏
不二精機(福岡市博多区)営業管理部統括次長 島田政昭氏
テンダ(東京都豊島区)執行役員 富澤和宏氏
《司会》日刊工業新聞社社長 井水治博
井水
このたびは受賞おめでとうございます。まず会社や受賞した製品・技術の紹介、開発に当たって苦労された点などを教えてください。減速機の弱点を克服
今川
産業用ロボットに使う減速機を開発するため約5年前に設立しました。もともと我々は、カスタム装置を設計製作する新光エンジニアリングで約20年間、ロボットを製作してきました。市場に出回っている減速機は、50年も前に発明された波動歯車という減速方式で、ユニークで素晴らしい技術です。ただ大きくて重く、振動で破損してしまうという弱点があり、それを克服したいと考えました。そこで壊れてしまう部分は、波動歯車で一体になっている減速機から別の機構に移し、二つに分けてしまうというアイデアが浮かびました。早速、試作しましたが、設立後3年間は不良の山でした。本当にへこんでしまい、もうだめかなと何回も思いました。
ところが2019年6月29日に、ひょんなことから今の形状に到達する案を思いついたのです。減速部と出力部に分割し、波動歯車出力をシャフトとカム穴で取り出す独自構造により、波動歯車の均等な変形を実現しました。出力トルクは拡大し、従来品の約半分にサイズダウンできました。
井水
5年でようやく商品化された。すごい挑戦でしたね。双眼鏡の手振れ補正
鎌倉
祖父が戦後すぐに東京の赤羽で創業し、71年目になります。自社ブランドではなくOEM(相手先ブランド生産)専門で事業を続けてきました。双眼鏡の製造がメーンで、野鳥観察に使う望遠鏡やレーザー距離計などもつくっています。1980年代後半に米国へ工場進出し、続いて中国に工場進出しました。さらに8年前にフィリピンの日系企業に出資し、組み立ての下請けを委託しています。
今回受賞させていただいた手振れ補正付き双眼鏡は、2軸のジンバル保持機構に正立プリズム、ジャイロセンサーを搭載し、手振れによる観察像の揺れを軽減しました。人間は生き物なので、ものを見ているつもりでも、ものが細かくふるえてしまう。この商品により、海外のパーキンソン病の方から初めて双眼鏡が使えたという話もいただきました。
井水
パーキンソン病の人も見られるというのは驚きですね。ご飯を自動盛り付け
島田
当社は創業から63年、食品製造事業者向けの生産設備を開発・製造・販売しています。主力分野はコンビニエンスストアの専門工場で、おにぎりや弁当、すしなどの大型生産ライン設備を製造しています。賞をいただいた「飯盛り達人3」は、ボタンに手を近づけるだけで温かいご飯が盛り付けられる飲食店向けの機械です。コロナ禍で工場向け設備投資が抑えられる中、外食チェーンを中心に採用いただき、業績を下支えしてくれた有り難い機種です。
開発・改善期間は約3年かかりましたが、従来機より、さらにグラム精度と炊きたてに近い温度・湿度・食味を保つことに多くの時間を費やしました。特殊なヒーターをホッパー内の全面に配置し、密閉度を上げる事でしっとり温かなご飯の品質保持が可能となりました。
ただコロナ禍でお客さまのニーズが衛生意識のほうに移り、対応が不十分と感じ「さわりまセンサー」という非接触方式でのご飯盛りつけ機能を最速で取り付けました。衛生面で安心してご使用できると評価をいただき、外食チェーン以外にも、社員食堂、スポーツ施設など新たな顧客層まで市場が広がりました。
井水
まさにコロナ禍のニーズにマッチした商品です。ブラウザー操作補助
富澤
1995年に設立した業務ソフトやゲームソフトをつくっている会社です。約240人の従業員のうち70%以上がエンジニアです。今回受賞した「Dojo Sero」は、ブラウザー(閲覧ソフト)の中のプラグインと呼ぶものをインストールすると、システムに手を加えることなく、ナビゲーションを表示できるソフトです。操作手順に合わせて、どこを操作するかを示す赤枠と、説明が書かれた吹き出しを表示します。このため初めて使う人でも指示通りに操作すれば作業でき、事前の操作研修やマニュアル作成なども不要になります。
開発で苦労したのは、皆さんが使っているページが一律でなく、それをどう表示するかという点です。これはアスタリスクという文字を入れることによって、どのユーザーが使っても同じマニュアルが見られるようにしました。
井水
画期的な製品ですね。それでは次に、今後の事業展開をお聞きしたいと思います。量産化と品質管理を
今川
中・小型ロボット用の減速機は、ほぼ試作品ができ、開発は終わった状態です。これから量産体制と品質管理体制を進めていきます。もともと設計段階から配慮し、大量生産や自動化生産に向いている部品だけで構成し、加工機は無人で連続稼働できるようにしました。今後は減速機の全自動加工ラインをつくり、量産展開しようと考えています。
また減速機は、入力軸とサーボモーターをつなぐカップリング機構が非常に重要です。モーターや減速機が優れていても、接続がだめだと問題が起こる。そこでカップリングのカスタマイズまで手がけて提供できればと取り組んでいます。
現状はロボットメーカーを含めて有償サンプルの提供要請が多く、サンプルをつくるだけで手いっぱいの状態です。一刻も早く量産体制を整えることが重要です。
井水
付加価値を上げるためには自動化ラインまでつくる必要があるのですね。コスト下げ市場拡大
鎌倉
手振れ補正技術を使った製品は、まだ全体の2%ぐらいしかありません。人間の手で非常に繊細な調整をして、実際の動きをコントロールする作業が必要で、通常の双眼鏡よりも価格が倍近くになってしまうからです。先ほど話の出た自動化については、メカ設計を進めています。これがうまくいけば、今より3~4割コストダウンして、市場のすそ野を広げられます。一方でこの防振技術により、倍率が20倍でも全く問題なく手持ちで使えるようになったので、バリエーションを広げる計画です。さまざまな倍率に適用すると同時に、単眼鏡も三脚要らずで使える新しい市場を創造していきたいと思っています。
ただOEM先に「全くゼロから一緒に市場をつくりましょう」と提案しても、難しいことも多いです。大手になればなるほど、新しい市場をつくる際のリスクをとれないからです。
井水
リスクをとらない体質は、日本が停滞している一因だと感じますね。さらに省人化を提案
島田
食品工場向けでは、人手不足や高齢化に伴う製造環境の改善としてさらに省人・省力化提案を強化します。外食チェーンにおいても、バックヤードや厨房(ちゅうぼう)に多くの方が作業されており、システム化は急務です。「飯盛り達人3」に関しては、より衛生管理基準を求められる病院・介護食分野にも販路を広げていきます。また飯盛り達人3のご飯品質保持技術を使って、職人さんが提供するような、オリジナルのできたて商品をライブで提供できる新機種を開発したいです。
アジアや欧州を中心に輸出していますが、コロナが落ち着いたら他の地域への販売も強化したいです。海外では日本食のおいしさや健康志向へのニーズが高く、すしの人気や手軽に食べられるおにぎりの需要が増えています。また歩留まり向上による食品ロス削減にも貢献していきたいです。
井水
どんどん領域が広がりますね。AI解析で最適化へ
富澤
今後の事業展開は四つ考えています。一つ目はお客さまにナビゲーションを使っていただくことで、サーバー上に膨大なログが蓄積されています。今後はそれをAIで解析して最適なナビゲーションを表示する方法を検討しています、例えば何かの作業で止まった時、こういう作業をしたくて困っているのでないかと自動表示するシステムです。二つ目は自社の他の製品と連携して、トータルでお客さまのワークスタイルを変革できないかということです。三つ目はウェブシステムだけでなく、クラウド上で動くものすべてにナビゲーションを表示させることです。最後は他社が提供しているソフトウエアに、この機能を組み込んでもらうことです。
井水
デジタル化で日本は米中に後れをとっており、ぜひ頑張ってほしいですね。それでは最後に、会社の経営哲学とか人材育成の考え方などについて聞かせてください。スピード開発が大事
島田
社員理念は「うそをつかない、健康であれ、逃げない」の三原則です。うそをつくと心が重くなり、自由な発想・発言ができない。病気になって休んでしまえば、仕事が止まる。仕事で直面した壁から逃げ出さず、前向きに取り組もうということです。企業精神は「情報、スピード、実行力」の三つです。感じたら即行動で、まずお客さまの声をしっかり聞く。即座に会社にフィードバックし、新製品を最速で開発して届ける。このシンプルな形をずっと回していく。世の中の変化に対して恐れずに対応していく。無いモノは形にしてお客さまに評価をいただき、悪ければ即改善する。現場重視で技術を磨いています。
この変化に対応するスピード開発を怠ると、どんどん衰退し会社は無くなります。主要顧客のコンビニでは数週間で新商品を発売されており、専用工場では1日3便体制の製造を毎日行っています。当社は変化に対応する組織体制と技術力、社員の意識向上に努めています。
井水
PDCA(計画、実行、評価、改善)をずっと回しているのですね。職人芸の伝承が課題
鎌倉
人材育成でいうと、双眼鏡には目で見て、手で触って、それで善しあしを決める官能検査があります。ところがあと15年もするとその担い手がいなくなってしまう。世界的に定量化・数値化しようという流れはありますが、目で見るものを数字にするのは難しい。そうした職人芸をいかに次の世代に移すかが課題です。レンズ1枚とっても、その判別は重要ですから、他社と組みながらAIを導入した検査装置も試しています。ロボット、人、ロボット、人のような半自動ラインを構築するなど、品質の安定化やコスト的に優位に立てる取り組みも進めています。
ただ光学産業の場合、先ほど今川さんが言われたように、自動化するために部品の精度を上げてしまうと、欧州の高額な製品と変わらなくなってしまう。日本の強みは職人の技術でほぼ同等のところまで持っていける点です。だから当社では、どうすればちゃんとその技術が残るのか、残さなくても大丈夫なところはどうやれば自動化できるのか、しっかり線引きして、社内で勉強させているところです。
井水
非常に含蓄のあるお話です。働き方多様化に対応
富澤
「ITサービスで社会の価値を創造する」というビジョンのもと、特に最近はコロナ禍で働き方が多様化しており、それに対応したシステムを提供していく考えです。経営理念としては「SHINKA経営」を掲げています。新しい挑戦をする「進化」、深く探求する「深化」、情熱を持って突き進む「心火」を掛け合わせることで、「真価」になるというものです。この言葉をいろいろと解釈しながらユーザーの価値を高められる経営を進めています。
コロナ禍で今はテレワークをしていますが、社内はワンフロアで、ほとんどパーテーションもなく、会長も社長もすぐ近くにいて気軽に話しかけられる職場です。
井水
社内の一体感が感じられます。常に考え新商品作り
今川
経営理念ではないですが、いかにして新しいものをつくり上げていくか。とにかく不便だ、ここを良くしたいというのがあったら、それを新しい商品に結び付ける。常に何かを考え、何かを発想してつくり上げるという会社にしてきました。実を言うと減速機の開発は、社内で反対がありました。だがようやくモノになり、社員は自信を持ち始めています。減速機もまだやることが山ほどあります。またロボットは減速機やモーター単体だけ優れていてもだめで、ユニットにした時にいかに競争力のある製品をつくれるかが鍵です。先ほどリスクをとらないという話がありましたが、大手はまずやらない。社員皆と知恵を出し合って、新しいものをつくっていこうと考えています。
(2021/5/18 05:00)