モノづくり日本会議 新モビリティー研究会「VISION-Sプロジェクト ソニーのモビリティに対する取り組み」

(2021/8/12 05:00)

モノづくり日本会議は新モビリティー研究会のオンラインセミナーを7月8日に開催した。「VISION―Sプロジェクト ソニーのモビリティに対する取り組み」として、川西泉ソニーグループ常務AIロボティクスビジネス担当AIロボティクスビジネスグループ部門長が講演した。CES2020で初披露した同社のモビリティーについてのプロジェクトのコンセプトを解説し、第1弾となるプロトタイプ車両の概要や、今後のチャレンジなど、ソニーが挑むクルマづくりについて語った。

安心・安全を提供、移動に感動を

ソニーグループ 常務 AIロボティクスビジネス担当 AIロボティクスビジネスグループ部門長・川西泉氏

自律ロボットで価値創造

今年4月からソニーグループ株式会社がスタートした。家電メーカー、電機メーカーとしてだけでなく、コンテンツやサービスのビジネスが売り上げの半分を占める。事業ポートフォリオが少しずつ変化する中、ソニーとしての存在意義(パーパス)を「クリエイティビティーとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」と改めて定義した。どういう会社であるか「テクノロジーで裏打ちさせたクリエイティブエンターテインメントカンパニー」と定義し、立ち位置を明確に打ち出している。キーワードはやはり「クリエイティビティー」「テクノロジー」だ。VISION―Sもこうした考えを基にスタートした。

AIロボティクス部門では2018年1月に犬型ロボット「aibo」を復活させ、ベースとなっている技術はAI(人工知能)とロボティクスだ。今年ドローン「エアピークS1」を発売し、クリエイターが自由な視点から撮影できるよう開発したが、産業用途でも活用できる可能性を秘める。VISION―Sも含め、脈絡がないかと思われがちだが、共通点は「自律」だ。aiboなら自律歩行、エアピークは自律飛行、VISION―Sは先進運転支援システム(ADAS)や将来の自動運転といったように、自律的に動くことが共通概念だ。

将来のモビリティーも、一種のロボットといえるのではないか。クラウドにつながるIoT(モノのインターネット)のデバイスとみることもできる。車をIoTデバイスとみるのは若干強引だが、センサーを駆使してリアルタイムに得られる情報をクラウドと連携させ、より高度なAIロボティクス技術を発展させる。こうした技術を活用し、人々の生活を豊かにすることがミッションだ。

ロボットとは、センシング技術を使って気づくこと、AI技術を使って考えること、メカトロニクスの技術で行動すること、といったサイクルを回し、自律動作を実現するものでもある。これはモビリティーを考える上でも重要で、感性価値と機能価値を持って取り組んでいる。ソニーの商品は機能価値を感性価値に変換してユーザーに提供し、機能価値と感性価値をうまくバランスさせて企画するなど、両方を併せ持っている商品が多い。VISION―Sは安全性という機能価値を満たしながら、お客さまの感性に訴える。バックグラウンド技術としては、AI、ロボティクス、センシング、イメージング、通信などがある。

試作車、市街地走行へ

昨年1月に米ラスベガスで開催された家電・IT見本市「CES2020」でVISION―Sプロジェクトを発表し、実際に走行可能なプロトタイプ車両を、試作車として公開した。反響は大きく、ソニーがなぜ車を作るのか、といった話もいただいた。提案にあたっては、車としての完成度にこだわっており、かなりの覚悟も必要とした。

2000年代に入ってからの産業の大きな変化の例として、携帯電話業界を挙げる。スマートフォンの登場で社会環境は大きく変化し、携帯電話メーカーの立ち位置も、従来のモノづくり的な垂直統合から、IT業界的なモデルに移り、勢力図も大きく変わった。

一方、自動車業界はまさに今、CASEと呼ばれる100年に一度の変革期が訪れている。EVや自動運転技術、クラウドやネットワークへの接続、新たなサービスなど、従来のハードウエアとしての車の位置づけが変わる変化点に来ている。

これら大きな二つの流れから、モバイルに続くメガトレンドはモビリティーではないかと考える。今後10年間の変革の要素として、モビリティーは大きな役割を果たすだろう。そこにソニーの技術でどう貢献できるか、というのがVISION―Sをスタートさせた経緯だ。

ソニーはテレビやカメラ、スマートフォンなどのコンシューマーエレクトロニクス、イメージセンサーなど先進のデバイス、ゲーム、映画・音楽などコンテンツと、さまざまな商品・サービスを持っている。これらのベースとなるテクノロジーを組み合わせ、移動空間における新しいユーザー体験を提供する。

大前提となるセーフティー(安心・安全)が重要なファクターであり、その上でユーザーがエンターテインメントを楽しめる空間、リラックスできる移動空間を実現していきたい。高度な安全性の上で、ソニーらしい移動空間をいかに作り出せるか、深く議論してきた。VISION―Sの開発を通して、IT業界におけるスピード感と、自動車業界に必要とされる安全品質を担保する考え方や、それを実現する力の両立を目指してきた。

自動車を構成するシステムは高度化、複雑化している。半導体の集積化が進む一方でソフトウエアの比重も高まっている。EVにおいては、私たちがやれることが増えてくるだろう。ネットワークへの接続も容易になり、ソフトウエアをアップデートするOTA(オーバー・ジ・エアー)も可能になり、車の購入後も進化を続けられる。車とITの融合で、ソフトウエアを起点に、従来と異なるアプローチで車をデザインしてみたい。

VISION―Sはまだまだ試作車ではあるが、欧州の市街地を走るレベルにまで達し、テストコースや市街地で走行試験を続けている。プロトタイプはすべてソニーのデザイナーがデザインした。これからのモビリティー社会のあり方と、ソニーが送り出す車はどうあるべきかを考え、コンセプトからエクステリア、インテリア、ボディーカラーからマテリアルまで、ゼロから取り組んだ。細部までこだわりながら各国の法規制、衝突安全性などを満たし、走行可能な車にデザインを注入していった。

オーバル(楕円〈だえん〉)をモチーフにして、乗員を包み込む広い室内空間、センシングで乗員を安全に包み込み、社外環境を360度チェックする。社会と車が常につながり、情報やエンターテインメントが車を包み込む、という意味でもある。VISION―Sのコンセプトとしては、最も大切な要素であるセーフティー、車内に感動空間を作り出すエンターテインメント、モビリティーが人に寄り添って継続的に進化するアダプタビリティーを挙げる。

OTA使い柔軟に進化

近い将来本格化する自動運転に向けては、レベル2プラス相当をまずは目指していて、それ以上に向けても、アップデートで可能とできるよう検討する。ソニーが強みとするイメージセンサーも、車載用としては、暗視に強いこと、ダイナミックレンジが広いこと、信号機などのLEDの高速点滅によるフリッカー現象に正しく対応することなどが求められる。エンターテインメントについては、没入感のある立体的な音場を実現する。

ユーザーに寄り添いながら、VISION―S自体が柔軟に進化することを目指している。その要素として、5G(第5世代通信)、OTAなどがある。車がネットワークにつながる時代において、ソニーのこれからの技術をモビリティーに投入し、車の進化に貢献する。モビリティーの進化は自動車というハードウエアの変化にとどまらず、ライフスタイルや社会のあり方を変えるパワーを持っている。EV化、サービス化、スマートグリッド化を加速し、社会課題解決に貢献できる。

新しい生活様式が求められる中、移動に求められる価値も変わっていく。安心・安全をお届けし、移動にどのような感動をもたらすことができるか、クリエイティビティーとテクノロジーの力で、新たなモビリティーの世界を切り開いていければ、と考えている。

(2021/8/12 05:00)

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